当施設で「看取り介護」を行ったケースについては、必ずデスカンファレンス(当施設では、看取り介護終了後カンファレンスと呼んでいる)を行っている。

これは結果責任が求められる「人生の最終ステージ」でのケアが、本当に適切に実施されたのかを確認するために、平成20年から「看取り介護指針」を変更して実施を義務付けたものだ。そこでは職員の視点からの評価だけではなく、利用者の遺族からの評価が不可欠であると考え、遺族の参加もしくは、会議に参加できない場合は、アンケートに回答してもらい評価していただいている。

デスカンファレンスを行うことはトップダウンで決定したが、それは当初から職員に不満なく受け入れられたわけではない。むしろ職員は「カンファレンスをする必要が本当にあるのか」という抵抗を感じながらカンファレンスを行っていたという事実がある。また「どんなことでも評価していい」と伝えたが、職員は率直な思いが適切なものなのか、下手をすると怒られてしまうのではないか、とかなり構えてカンファレンスに挑んでいたということも後に述べている。

しかし実際にカンファレンスを行い、その中で家族の評価と自分たち自身の評価をすり合わせる事の中から、職員の意識に変化が生まれた。そのことについて主任ケアワーカーは「カンファレンスを実施してみて、本当の意味で最期を迎えた援助に対する振り返りが、こんなにも大切なものだとはこの時点では思っていなかった。」と当地域の老人福祉施設職員研究大会の実践報告の中で発言している。

具体的には、
・今までは対象者が亡くなるまで教えてくれていたと感じていた事が、カンファレンスを通して亡くなったあとでも教えて下さる事の多さ、その大切さを改めて痛感した。
・打ち出された課題を一つ一つ改善していくためには、どんな事をしたらよいかと具体的に考える事ができるようになってきた。
・対象者の最後のカンファレンスは反省・後悔するためだけのものではなく、緑風園で生活している方たちに、これから活かす、繋げるためのものであると思うようになってきた。

このように述べている。

家族がなんの不安も感じていないように見えたケースで、職員の協力のもとに看取ったのに、カンファレンスの中で「実は終末期が近づき、呼吸状態の変化が出てきた時に、本当に医療機関に入院させず、施設で息を引き取ることが良いのか不安になったが、その時点では入院させてとか、このままで良いのでしょうかということは言えなかった」という声も聞かれた。そのため終末期に起こるであろう身体機能の変化の予測や、デスラッセルについて事前に説明する必要性を感じ、「愛する人の旅立ちにあたって」という文書を作成し、看取り介護計画の同意を得る際に、説明資料として使うことにした。

またあるケースでは、静養室を個室として「看取り介護」の時期に使っていたのであるが、付き添っていた家族が、「見たいテレビ番組がある」と行っていた際に、そのテレビが始まる時間に声をかけ、ホールのテレビを見るように勧めたが、結局テレビを見に来なかったことがあった。デスカンファレンスの際に、何気ない会話の中からその時の話題となり、その家族が「当時私は宿泊して5日目でした。母の状態も問題ないように見えテレビを見に行こうかなと思ったとき、5日も泊まっていたのに、いまテレビを見に行ったこの時間に母が急変して最後の場面を看取れなかったら、一生後悔する、って思ちゃったんです。」という発言があった。「もし部屋にテレビがあれば、母はテレビを見ることができなくても、私が見ながらテレビ番組の話題を話しかけられたと思います」と言われ、静養室の壁にテレビを設置したりした。

こうした様々なエピソードを重ねることにより、職員は精神面・技術面の向上を目指そうとする前向きな姿勢を持つようになり、 カンファレンスという場において、他職種との率直な意見交換の場で、それぞれ自分の意見をしっかりと伝える力をつけることができるようになってきた。特に介護職員が、看護職員や相談員の指示・命令を受けて動くのではなく、介護職員の目線から見たサービスの方法という視点から発言できるようになってきた。それは介護職員が「一番近くで気づくことのできる専門職」という意識を持つことができてきたという意味にも通じる。

そして、今当施設の職員は、「看取り介護になってからの援助よりも、日頃の援助こそが大切であることが再確認できるようになった。」とデスカンファレンスを評価しており、その中から生まれる意識について、『特別と思っていた援助を、当たり前の援助に変える事こそ「あきらめない介護」に繋がるという事を知った。』と評価している。

つまり結果責任を検証する評価作業の中で、いろいろな発見があり、それが日常のケアから繋がっているものだと気づくようになり、日常のケアをきちんと作ることが、最後の瞬間に「傍らにいることが許されるもの」となるためのスキルにつながっていくということがわかってきた。

こう考えると、当施設のデスカンファレンスは、看取り介護終了後カンファレンスとして実施するのではなく、死亡退所に限らないすべての退所ケースについて、退所ケースカンファレンスという形で実施することが必要ではないかと考え始めている。

介護サービスの意義や、目指す方向性を明確にしないとスキル向上の動機付けは生まれないし、そこでは自分の援助技術や援助方法がつたないとしても、技術を向上させたり、新しい技術を得ようという動機付けは生まれないだろう。

しかし結果責任を意識して、一つひとつのケースの結果を評価することによって、介護サービスの意義や、目指す方向性が明確になり、それにより介護技術の向上を目指す「動機付け」は生まれるのではないだろうか。

「人を語らずして介護を語るな2〜傍らにいることが許される者」のネットからの購入は
楽天ブックスはこちら
アマゾンはこちら
↑それぞれクリックして購入サイトに飛んでください。

介護・福祉情報掲示板(表板)