1970年代のアメリカでは、ノーマライゼーションの理念に基づいて、精神障害者のコミュニティケアを実現するため、州立病院の半分を閉鎖し、入院患者を地域に戻す施策が取られた。
その時、閉鎖された州立病院から退院して地域で暮らす人たちのために、医療・就労・福祉・住宅・所得保障等の数多くの窓口を一本化するために、「精神保健センター」が地域に設置され、当センターにすべての機能と権限を集中させ、あらゆる生活問題に対処するシステムを作った。これがケースマネジメントの始まりである。
その後、この手法はイギリスの「コミュニティケア法」の中で、ケアマネジメントとされ、日本では介護保険制度を創設する際に、利用者と社会資源の調整手法としてケアマネジメントを導入し、介護支援専門員という資格を創設した。
日本ではこの時、新しい制度の中で、居宅介護支援という方法論を創り出して、その役割を主体的に担う専門職を介護支援専門員とした。それは居宅サービス計画を作成し、それに基づくサービス調整を行う手法を新たに身につけるための資格創設という意味があった。
一方、施設サービスにおいては、各施設の個別のサービスと利用者の調整役として施設介護支援専門員を位置づけ、利用者全員に対する施設サービス計画の作成義務を負わせた。
しかし介護保険制度以前も、施設では個別の計画は義務ではなかったが、多くの施設で「個別支援計画」などというサービス計画を利用者ごとに作成しており、この役割は「相談援助職」である、生活指導員や支援相談員という職種が担っていた。
つまり居宅サービスにおいては、居宅介護支援事業所の業務として、給付管理も含めた居宅サービス計画作成と、その計画に基づく利用者支援という新たな手法が導入されたが、施設サービスにおいては、各施設で独自に計画していた「個別支援計画」を義務化し、アセスメントに基づく施設サービス計画書という標準様式でのプラン作成を求めたものの、そこに新たな手法が加わったとは言い難い状況がある。相談員の業務の一部が、そのまま配置義務化された介護支援専門員の業務とされたという意味に過ぎないと言うこともできる。
さらに施設サービスの配置基準では、「介護支援専門員については、入所者の処遇に支障がない場合は、当該指定介護老人福祉施設の他の職務に従事することができるものとする。この場合、兼務を行う当該介護支援専門員の配置により、介護支援専門員の配置基準を満たすこととなると同時に、兼務を行う他の職務に係る常勤換算上も、当該介護支援専門員の勤務時間の全体を当該他の職務に係る勤務時間として算入することができるものとすること。」(老企43号解釈通知)
というルールとされたことで、介護保険制度施行当初から相談員に加えて介護支援専門員を配置するのではなく、相談員が介護支援専門員の資格を取得して、相談員兼介護支援専門員として配置される施設が多かった。
これは介護支援専門員という新たな職種の配置義務を負わせたものの、介護報酬に配置職員増分の費用が上乗せされなかったことも、大きな要因の一つである。
しかし相談員がソーシャルワーカーであることに鑑みれば、ソーシャルケースワークの一部をなすケアマネジメントを、相談員兼介護支援専門員として行い、施設サービス計画の作成の取りまとめを行うということは、業務分掌上は極めて合理性が認められる。
なぜなら前述したように、ソーシャルワークの援助技術の一部にケアマネジメントが含まれる以上、相談援助職員と介護支援専門員の業務は、本来切り離して考えることはできないからだ。
ところが、この兼務を認める配置基準を利用して、相談援助職ではない介護職員等が介護支援専門員の資格を取った際に、介護職員のまま、兼務して介護支援専門員の業務を担わせる施設が増えた。
しかし介護業務とケアマネジメントは本来別のもので、介護をしながら、その一部にケアマネジメント業務を含めるということが難しいため(アセスメントの一部は同時進行でいるだろうが、それをもってケアマネジメントということは無理である。)、こうした兼務者は、介護職業務と介護支援専門員の業務を区分し、1日のうち何時間ずつかを振り分けて業務に就く形態が多く見受けられた。
そこではソーシャルっワーカーとしての介護支援専門員としての位置づけではなく、介護業務から外れた時間で受け持っている何人かのケース担当者の施設サービス計画を立て、その実施具合を確認するという業務に終始してしまう傾向が生まれた。
これでは介護支援専門員は、単なるケアプランナーであり、書類作成人である。これが施設の介護支援専門員の立ち位置と、相談員との業務分掌をわかりにくくした原因である。ソーシャルワーカーとしての介護支援専門員の本来の立ち位置を見えにくくしてしまっているのだと思う。
僕の立場は、相談援助業務と介護支援専門員の兼務は可能だが、他の職種との兼務は、単なる書類作成人としてしまうだけで無理があるという立場である。だから介護職員や看護職員が介護支援専門員の資格をとったからといって、施設の中で介護支援専門員との兼務業務を行わせることはないし、介護職員や看護職員が介護支援専門員の資格をとり、介護支援専門員としての業務に就きたいと希望した場合でも、ソーシャルワーカーとしての基礎知識を求めるし、介護支援専門員として業務に付く場合は、看護業務や介護業務から外れて、相談援助担当課に配置を替えて、介護支援専門員という業務につく必要があると思っている。
なぜなら介護支援専門員を含めた相談援助職とは、現場において、蟻の目と、鳥の目との両方の視点から現場のサービスをチェックできる存在 でなければならず、直接介護の現場から、少し別の場所で、現場のサービスを見ないと見えなくなってしまうものがあるからであり、そうであれば、ソーシャルワーカーとは、看護職員や介護職員と同じことを出来るというスキルは大事だが、同じ業務を行っている状態は望ましくないと思うのである。
そして相談援助職の中での介護支援専門員とは、実務5年以上で介護支援専門員の資格を有する者という意味なのだから、相談援助職の中で、ケアマネジメント技術に長けたスーパーバイザーの役割を持つものという立場を求める。
しかしそうした立場は、介護支援専門員の資格が絶対必要だとも思わない。優秀なソーシャルワーカーで、ケアマネジメントの知識や援助技術のある者なら、実務5年の経験がないために、介護支援専門員の資格が取れないものでも、立派にその役割をこなせるだろう。
介護支援専門員資格を得るための条件の一つである実務経験とは、相談援助職以外にも広く広げた実務経験であるから、ソーシャルケースワークの知識や技術のない介護支援専門員が少なからず存在するということを考えれば、新たな手法が加わったと言えない施設サービスにおいては、施設サービス計画書作成を含めたケアマネジメント担当者を、介護支援専門員だけではなく、社会福祉士等の資格を持つ若手にその役割を持たせても良いという方向性を創る必要があるのではないかというのが、現在の僕の考え方である。
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