介護支援専門員のスキルについて、様々な指摘があるが、そもそも人に伝わる文章を書けない介護支援専門員がいることは非常に嘆かわしいことだ。

ケアマネジメントとは、生活課題を持った利用者に、社会資源を的確に結びつけて課題を解決しながら福祉の増進を図る援助技術であり、介護保険制度ではこの目的をセルフケア能力の向上に求めている。セルフケアの向上というものが、具体的にどういう状況であると想定され、その向こうにどういう暮らしが実現するのかということは、結果が出る前に文章として利用者に伝えて、同意を得たうえで、その目的に合致したサービスを計画するのがケアプランである。

この具体的姿が見えない文章力では困るのだ。

この時、利用者に結びつける社会資源は単一のニーズに対して、複数のものということも考えられ、それらを有機的に結びつける役割が介護支援専門員には求められることになる。

そうであるなら結びつけるべき複数の社会資源を繋ぐために必要とされるものも、言葉であり、文章である。記録として残しておける文章に、適切にそれぞれの社会資源をつなぐ目的、それぞれの役割を示さねばネットワークが有効機能しないことになる。そう言う意味でも文章力は非常に重要なケアマネジメントの質に関連するものということができるのだ。

ケアマネジメントは、社会福祉援助技術の中では「関連援助技術」とか「間接援助技術」といわれるもので、ソーシャルワーカーである介護支援専門員は、利用者に直接ケアサービスを提供するわけではなく、必要なケアサービスを繋ぐために、調整をする役割を求められている。

調整は面接が主体となるが、そもそも何種類もの社会資源をつなぎ、機能させるためには、言葉を文章化して記録として残し、日々確認できるという機能が重要になる。発した言葉を全て記憶しておくことは不可能であるのだから、発した言葉で調整しようとした内容や意味を、文章として記録しておかねば、調整の方向性や軸が定まらない恐れがある。

例えば、居宅サービス計画書と施設サービス計画書の第1表に共通する、「総合的援助の方針」とは、課題を解決するために目標達成をしていく先に、どのような「暮らし」が実現するのかという「ゴール」を示したうえで、そこに行くための「道」を示すものである。それは介護サービスを提供するチームメンバー全員が共有すべき全体の方向性を決める基本方針であるから、最も重要な文章である。そしてそれは利用者に対して、直接対応すべき方針を同時に示す内容である必要がある。

しかし実際のケアプランを読むと、ここに「脳血管疾患後遺症で片麻痺があり、歩行困難で〜」などと長々とアセスメント情報を書いてあるだけで、どういう方向性を目指すのか全く読み取れない計画書も多い。

ここはアセスメントの内容を書く項目ではなく、課題やニーズを羅列しても始まらないということを理解すべきだし、最も重要な項目であるという意味は、それを利用者や家族が読んで分かる内容となっている必要があるということになる。 だからこの箇所に関係者しかわからない専門用語を使うことは避けるべきだし、意味不明瞭となる略語は書くべきではないのである。

そういう基本を理解してもなおかつ、文章力そのものが拙劣だと、重要な伝えたい内容が伝わらないということにもなりかねない。だから文章力というものが、介護支援専門員をはじめとしたソーシャルワーカーには常に求められるスキルなのである。

しかしなかなか文章力がつかないという人がいる。いくら努力しても苦手だという人がいる。どうしたら上手な記録を書く事ができるのか、どうしたら文章力が鍛えられるのかということで悩みを持っている人も多い。

このことに関して、例えばムロさんこと、ケアタウン総合研究所の高室 成幸さんは、メルマガ等で、「記録をたくさん書く事」で訓練するのだと言っておられる。高室さんの考え方はいつも参考になり、99%正しいと思っているが、この部分に関して言えば、僕は違う考え方を持っている。

文章力は書く事だけでは鍛えられないのだ。いくら書いても上手くならない。なぜなら読み手がわかる文章という基礎ベースを理解しないと、同じように伝わらない文章しか書けないからだ。駄文を繰り返し書いても、駄文は駄文のままだ。美文を書く必要はないが、人に伝わるわかり易い簡潔文は、読み手の立場で書こうとしないとそこにたどり着かない。

読み手にとって、わかりやすく伝わる簡潔文を理解するところから始めないと、文章力はいつまでもつかない。つまり良い「書き手」とは、「読み手」として、文章を日頃から読むことを苦にしない人であるのだ。良い書き手は、良い読み手から生まれるのだ。

日頃、文章を読むことを億劫に感じる人、文章を読むことが苦手な人は、いくら記録文章を書き続けてもうまくなることはないだろう。読み手の気持ちや、読み手の視点がわからないからである。

だから僕は、文章力に問題がある人には、文章を毎日読む習慣をつけることを勧めている。その中でも、新聞を毎日読みなさいと言うことが多い。新聞は真実を伝えているとは限らないが、事実を簡潔に正確に伝える文章の典型文である。これを毎日読んで、その文章に慣れ親しむことで、書くべき内容、書き方、捨て去っても問題のない余分な接続詞など、自然と頭に入ってくる。

勿論このとき必要なのは、この文章が何をどのように伝えようとしているのかを考えながら記事を読むことである。主語と述語の置き方、文章の区切り方、句読点の使い方等がどうなっているかを意識して読むとなお良いだろう。

だから文章力をつけたい人は、まず新聞を読むことから始めて、それを習慣づけ、読書を趣味とする人になることをお勧めしたい。(ついでに僕の著作本もその時には愛読書に加えて欲しい。)

もともと作家は、読者から生まれているのだ。読者という立場で、文章のなんたるかをおぼろげながら意識するところから始まっているのだ。読む人が、書く人になるのだ。

僕はそう思う。

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