Shanさんのブログに、「第2回介護支援専門員の資質向上と今後のあり方の関する検討会」の傍聴記が掲載されている。各種審議会を毎回傍聴するだけでも大変なのに、いつもリアルタイムにその情報を提供してくださる彼には最大限の敬意を払わねばならない。だから久しぶりに会えばハグしちゃうんだよな。

ところで、今回の傍聴記を読むと、日本福祉大学の野中構成員のプレゼンがなかなか説得力があって興味深いのであるが、発言の最終場面でこんなことをおっしゃられている。

『2000年の時に、わが国は「走りながら修正する」とお約束したはずなんですが、結局何も修正しなかったと。これ修正したのにどんどん悪くなっていったというのが、私の感覚でございます。』

この感覚は、多くの関係者が頷けるものだろう。介護保険制度は完璧な良い制度ではないが、5年を一期として所要の見直しを図って「改正」していくものなのに、実態は「制度はどんどん悪くなっている。」のである。報酬改定のたびに報酬算定コードはどんどん増え続け、複雑怪奇な加算ルールによって、利用者にそれは非常に理解困難なモノになっている。

制度自体も利用者の暮らしをよくしてないじゃないか。机上の倫理で、認知症ケアや、重介護者のセルフケアの向上なんてできるわけがない。

地域包括ケアシステムって言ったって、そんなものどこにあるんだという程度で、概念あって、サービスなしという実態だ。仮に24時間巡回サービスが近くにあったとしても、それが本当に在宅者を地域で生活できるような基礎的サービスになっていくのかは大いに疑問だ。だってそのサービスを利用したところで、重介護者の主介護者は家族じゃないか。それが全然変わらないじゃないか。

だからこの制度の改正議論を行なっている介護給付費分科会は、結果として失敗し続けているということになる。改正という目的が、結果的に野中構成員のいうように「修正したのにどんどん悪くなっていった。」という結果であるなら、この委員会は責任を取らねばならない。それなのに誰一人その結果を認め、責任を取ろうとしない。同じメンバーで次期報酬改定が議論されるなら、その結果も同じだろう。困ったものである。

しかも新設された「平成24 年度介護報酬改定検証・研究委員会」という検証委員会は、7人の委員のうち、過半数を超える4名が介護給付費分科会の委員である。改正議論を行った当事者が過半数を占める検証委員会に客観的評価ができるわけがない。お手盛りシャンシャンで終わるか、自画自賛して世間の失笑を買うだけだろうに。

世間一般の評価に耳をふさいで、一部の感覚のおかしい人々の評価を世論と勘違いしてどうするんだろう。

そんな奇妙な制度の中で我々のサービス事業は展開されている。しかしその根っこは、福祉事業であるということを忘れてはならない。

介護保険は社会保険になったから社会福祉じゃないなんていう馬鹿な理屈に付き合ってはいけない。社会保障構造改革の中で、社会保険方式を取り入れた高齢者福祉サービスだっていわれ、国民はそれを受け入れたことを忘れちゃあいけない。

だから僕らは、どんなに制度がおかしくなっても、介護報酬が減ったとしても、我々の係る利用者の幸福度や満足度を低めるサービスにしてはいけないのだ。我々が関わることで逆に不幸を作り出してしまうようなら自ら身を引かねばならないだろう。

我々の周囲に、利用者の笑顔があふれる日常を作り出すことに知恵を使わないなら、世間から馬鹿と言われても仕方ないだろう。

どんなに愚痴をこぼしたところで、嘆いたところで暦はめくられていくのだ。季節は巡っていくのだ。立ち止まって停滞している暇はない。
八重桜

緑風園にも春が来て、この八重桜が散る頃には、初夏の風も少しだけ感じられるかもしれない。この風が、すべての利用者に心地よく感じられるケアを続けて行かねばならない。難しいことを考える前に、日常をきちんと常識的な感覚を忘れずに創っていかねばならない。

特養だって地域の中の社会資源だ。特養が地域ケアではないなんてことはない。そのためには特養の利用者が地域社会の息吹を肌で感じられるようなサービスをしていく必要もある。

そういえば、先日白寿を迎えられたMさんが、家族がお祝いをすることになって、登別温泉のホテルに1泊してきた。送り迎えは当然施設の送迎で行なったのだが、家族はホテルからまっすぐ登別駅に向かって自宅に帰ったため、ホテルの玄関でMさんとお別れした。その際、迎えに行った職員の話によると、Mさんが車に乗り込む時に家族にかけた言葉は「もう今日はビール飲めんぞ」だったそうである。その言葉を聞いて、集まった家族も、送迎付き添い職員も大笑いでホテルを後にしたそうだ。

白寿というのは99歳である。その年齢まで家族にお祝いされ、ビールを「もう今日はいらない」と言うまで飲んできて、家族と笑い合える日常があるなんて素敵だ。我々が少しだけお手伝いすることで、そういう暮らしが100歳を過ぎても続けられることを信じて、日々真摯に関われば良いだけだ。制度の中で埋没しないケアを作っていくだけだ。

イベントでアピールする福祉ではなく、日常をきちんと作る福祉サービスが大事である。日常をきちんと作りケアが大事である。日々これ満足、と言われる暮らしの支援をしていきたい。

先ほど、出版社から「白本の第5刷の増刷が決定しました。おめでとうございます。本当にすごいですね・・・」というメールを頂いた。これもひとえに、僕を応援してくださる読者の皆さんのおかげです。本当にいつもありがとうございます。心より感謝を申し上げます。新刊・黒本も現在第2刷発売中です。こちらもよろしくお願いします。


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