3月27日、東京都が主催した「地域包括ケアシステムに向けたケアマネジメント講演会」で、講師役を務めた某大学教授は、介護保険内外のサービスが提供される地域包括ケアを実現するためには、利用者のニーズを把握する必要があると指摘し、ニーズを把握する上では、利用者に対するアセスメントやモニタリングを日常的に行っているケアマネジメントが重要な役割を果たすと訴えた。

しかし僕はこの考え方に異議がある。

居宅介護支援事業所のケアマネジメントは、何も地域包括ケアシステムを作るために行うものではないだろう。ましてや居宅サービス計画とは、地域包括ケアシステムを実現させるために計画するものではない。それは利用者の暮らしを守るために、あるいはより良いものにするために作成されるべきもので、地域包括ケアシステムというのは、居宅サービス計画の目的ではなく、地域における暮らしを守るためのシステムである。

そもそも地域包括ケアシステムというのは、身近な生活圏域において様々なサービス拠点が連携する「面の整備」や地域住民が様々なサービスの担い手としてコミュニティの再生等積極的な役割を果たすもので、それは日常生活圏域で、急性期入院を除く医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを一体的かつ適切に利用できる提供体制を全国につくるという考え方である。

それはつまり、高齢者等が住み慣れた地域で暮らし続けることを目的として、そのことが容易となるサービス提供体制のシステムであり、そのシステムを創りだすのは、国や地域行政の役割であって、それは政策としての目的であったしても、ケアマネジメントの目的ではないのである。

居宅介護支援事業所の介護支援専門員が、地域で展開するケアマネジメントとは、利用者の暮らしを地域の中で続けられる具体策を示したものだ。ケアマネジメントは、そこで豊かな暮らしを支援するという目的で行うものであり、居宅サービス計画はその方法を具体化した計画書である。

その作成や見直しの際に必要となるアセスメント(解決すべき課題の把握)やモニタリング(居宅サービス計画の実施状況の把握)とは、利用者の暮らしそのものに着目すべきものであり、地域包括ケアシステムを実現するためのものではないだろう。

逆説的に言うならば、地域包括ケアシステムが実現したからと言って、そのことが必ず利用者の暮らしの質確保に繋がるとは言えないのである。

つまりこの講師の発言の背景には、地域包括ケアシステムが、優れたシステムであり、これが機能すれば地域の要介護高齢者の暮らしは必ず良くなるという思い込みがあるために、居宅サービス計画におけるアセスメントやモニタリングも、地域包括ケアシステム実現のためのニーズ把握という側面があるという考え方なのだろう。

しかし地域包括ケアシステムという考え方そのものは、間違った考え方とはいえないだろうが、今年度からの介護保険制度改正でその形を目指す「地域包括ケアシステム」とは、新サービスである24時間巡回サービス等を基礎的サービスにするものであり、そのエビデンスはまだ存在しないと言ってよく、しかも他のサービスとの連携や調整の方法が不透明である部分が多く、概念としての地域包括ケアシステムはあっても、暮らしを守る仕組みとしてのシステムが存在し得るのかどうかはかなり疑わしい。

地域の中に新たに構築されたシステム(そんなものがまだ存在していない地域の方が実際には多いのであるが)に乗ることで、暮らしの支援がうまくいくケースは、そのシステムを有効に利用すればよいだろうが、実際には、概念あって仕組みなしというところで、他の方法で生活を支えねばならないケースは多いはずである。

よってこのシステムを実現するためのニーズ把握を前面に出して、居宅サービス計画作成のための、アセスメントやモニタリングの目的を考えてはいけないと思う。

地域包括ケアシステムという言葉に踊らされるのではなく、事実上そのシステムは、この新しい介護保険制度を含めた、高齢者支援システムとして実態があるものなのか、そのことをまず考えなければ、

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