医師であり作家でもある米山 公啓(きみひろ)さんが、3/22室蘭市で「脳を若く保って長生きする法」というタイトルの講演を行った。

この中で同氏は

1.最新の脳科学では、大人でも記憶の機能に関連する「海馬」などで神経細胞が新しくつくられ事がわかった。

2.ただし神経細胞は数%しか増えないので、脳の機能を高めるには神経細胞のつながりを増やす必要がある。そのことにより「ぼけない脳」になる。

3.そのためには生活習慣を改善し、刺激を与えて脳を活性化する必要があるので、環境を改善することが認知症予防に繋がる。

4.絶対にぼけない方法はないが、適度な運動により神経栄養因子という物質が増え、脳内ネットワークが作りやすくなるので、30〜40分のウオーキングを週3〜4回行うことが効果的。

5.外に出なくても日常の中で、必要なものを近くに置かずに、体を動かしてそれらを取りに行くという工夫が必要。

6.脳に入ってきた情報は、寝ている間に整理されるので、運動と同様に睡眠も重要。昼寝も1時間以内なら認知症予防になる。

7.ストレスを上手に回避することも必要で、プラス思考が大事。

8.新しい体験は神経ネットワークを増やすので、いつも同じ体験をしないように、道順を変えたり、同じ店で同じメニューの食べ物を食べないようにしたりすることも大事。

9.脳の健康を保つために、血圧や血糖値、コレステロールのコントロールが重要で、禁煙が必要。酒は適量に。


以上のように指摘した。この教えを守って脳をできるだけ健康に保つことは大事だろうし、それは是非実践したい。(酒は適量を超えることが多く、これは困ったものだ。)そして他の方々にも、是非こういう方法を紹介して、お勧めすることはやぶさかではないだろう。

しかし僕には疑問がある。これって本当に「認知症の予防策」なんだろうかという疑問である。氏の指摘した予防法とは、脳を長く健康に保ち、脳の老化を防ぐということであって、病的な認知症とは異なる「健忘」を予防する効果はあるのだろうと思うが、アルツハイマー型認知症やレビー小体認知症というものが、こうした生活習慣の改善や、環境改善で防ぐことが可能なのだろうか?

例えば、アルツハイマー型認知症の原因は、脳内にベータアミロイドというたんぱく質が分解されずに溜まって脳神経を圧迫することによって血流が阻害され、脳細胞が壊死して、そのため脳委縮することが原因であるという「アミロイド仮説」が有力視されている。

レビー小体(異常なたんぱく質)が大脳皮質にまで広くおよぶと、レビー小体型認知症(DLB)になる。

脳血管性認知症は、脳血管疾患そのものが原因である。

とするならば、ベータアミロイドが分解されない原因も、脳内にレビー小体が発生する原因も分かっていないのだから、講演で指摘された予防法は、アルツハイマー型認知症や、レビー小体型認知症の予防には直接的に繋がらないのではないかという疑問が生ずる。少なくとも、脳の機能を高めるには神経細胞のつながりを増やすことで、ベータアミロイドが脳内に貯留沈着しにくくなるというエビデンスも、レビー小体が発生しにくくなるというエビデンスもないのではないだろうか?

なるほど、環境改善や適度な運動を取り入れることは生活習慣の改善にはなるだろうから、生活習慣病の予防とは=脳血管疾患の予防ということにはなるので、脳血管性認知症の予防という意味はあるのかもしれない。

しかしここのところはもう少しはっきりと分けて考えたり、伝えたりすべきではないだろうか?

つまり「脳の機能を高めるには神経細胞のつながりを増やす」ことは、認知症の予防というより、脳の若さを保つという意味で、そうした努力をしていたとしても、アルツハイマー型認知症になる場合もあるし、必ずしもそうした努力によって、アルツハイマー型認知症を予防したり、発症を遅らせることができる効果があるというエビデンスはないということではないか?

これは僕の理解不足だろうか?別に何かエビデンスが示されているんだろうか?

そうでないとしたら、認知症を予防するということと、脳の若さを保って健忘を防いだりすることは別のことであるときちんと示しておかないと、アルツハイマー型認知症等の方々が、その症状を発生させた時に、「本人の努力が足りなかったから認知症になったんだ」とか「生活習慣が悪いから認知症になるんだ」という誤解を生みかねず、それは新たな認知症に対する偏見に繋がりかねないと危惧するものである。

これは取り越し苦労だろうか?

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