ここのところ4月からの介護報酬改定に関する記事が多くなってしまっているが、この時期だから仕方ない。今日も新報酬関連記事である。

ショートステイの緊急利用に関して、それに対応する空きベッドがなかなか見つからないことから06年の制度改正では「緊急ネットワーク加算」という加算報酬ルールが作られた。

しかし僕は「ショートの緊急ネットワークは機能するのか」という記事を06年4月に書いて、その効果に疑問符をつけた。

案の定、蓋を開けてみると、このネットワーク加算ルールはまったくと言ってよいほど機能せず、ネットワークが構築されない地域の方が圧倒的に多かった。なにしろこの加算の算定率は1%を切っているんだからお笑い草だ。ショートの緊急受け入れは「絵に描いた餅」に終わったのである。その理由は、紹介した記事に書いているように、算定要件を満たす総ベッド数の確保のためには、相当広い地域で、他施設とネットを組まねばならず、そうした広域的なネットワークでは、利用者のニーズとマッチしないだけではなく、所属の異なるいくつもの施設によるネットワークづくり自体が難しかったからである。

そこで本年4月からの2度目の制度改正では、この加算を廃止して、緊急短期入所体制確保加算と緊急短期入所受入加算という2つの加算を新設した。(短期入所生活介護および短期入所療養介護共に同じ)

この算定要件は
イ.当該指定短期入所生活介護事業所において、緊急に指定短期入所生活介護を受ける必要がある者(現に指定短期入所生活介護を受けている利用者を除く。以下この号において同じ。)を
受け入れるために、利用定員の100分の5に相当する数の利用者に対応するための体制を整備していること。
ロ.算定日の属する月の前3月間において、利用定員に利用者に対して指定短期入所生活介護を行った日数を乗じて得た数に占める当該3月間における利用延人数の割合が100分の90以上であ
ること。


上記に合致する事業者について、利用者に対し指定短期入所生活介護を行った場合は、緊急短期入所体制確保加算として、1日につき40単位を所定単位数に加算し、さらに

イ.利用者の状態や家族等の事情により、指定居宅介護支援事業所の介護支援専門員が、緊急に指定短期入所生活介護を受けることが必要と認めた者
ロ.現に利用定員の100分の95に相当する数の利用者に対応している指定短期入所生活介護事業所において、緊急に指定短期入所生活介護を受ける必要がある者


この要件を満たす利用者が、居宅サービス計画において計画的に行うこととなっていない指定短期入所生活介護を緊急に利用した場合は、緊急短期入所受入加算として当該指定短期入所生活介護を行った日から起算して7日(利用者の日常生活上の世話を行う家族の疾病等やむを得ない事情がある場合には14日)を限度として、1日につき60単位を所定単位数に加算する、としている。

ただし、緊急短期入所受入加算については、注6を算定している場合は算定できない。また、当該事業所において、連続する3月において緊急短期入所受入加算を算定しなかった場合には、当該連続する3月の最終月の翌月から3月の間に限り緊急短期入所体制確保加算及び緊急短期入所受入加算は算定しない。とされている。
※注6とは、医師が、認知症の行動・心理症状が認められるため、在宅での生活が困難であり、緊急に指定短期入所生活介護を利用すること生活が困難であり、緊急に指定短期入所生活介護を利用することが適当であると判断した者に対し、指定短期入所生活介護を行った場合は、利用を開始した日から起算して7日を限度として、1日につき200単位を所定単位数に加算する、という部分が該当する。

今回の新報酬では、このようにショートの緊急利用を可能にする方法として、受け入れることが可能な施設であるという「体制加算」と、実際にそうした緊急受け入れベッドを使ってショートを受け入れた際の「実績加算」という2つの加算報酬を新設している。

他施設とのネットワークを組まなくても、指定事業所単独で緊急対応のベッドを確保しておれば加算できる方式は、従来の緊急ネットワーク加算よりは「まし」な考え方であると思うし、利用率の低い事業者が算定できないルールは、ショートのニーズが高い地域において緊急受け入れの実効性を求めたもので、ショート事業者が「緊急ベッド」を確保する動機づけにはなり得ると考えられる。

しかしこの「利用定員の100分の5に相当する数の利用者に対応するための体制を整備している」という条件は何とも理解し難い。

100分の5ルールとは、緊急利用ベッドの確保数を表すものである。しかし5%という数字は、20床以上の指定事業者ならそれは1以上のベッド数となるが、例えば併設で10床の指定短期入所生活介護事業所のそれだと、0.5床ということになる。

このように整数1を下回るということは、どこかの時点で緊急受け入れができるベッドを確保していたとしても、実際に利用したい時に全てのベッドが埋まっていて使えないという事業所でも、この数字さえクリアすれば加算算定できる(3月連続緊急短期入所受入加算を算定しなかった場合には算定できなくなるが)という意味である。

こうした整数1を下回る緊急対応ベッドの確保ルールで良いのかという疑問符がつく。本来これは整数1以上にすべきではないのか?

この加算により緊急利用がしやすくなるのだろうか?僕は今とほとんど変わらないと思う。ショート利用ニーズが多い地域で、この加算のために、利用申し込みを断るなんてことは事実上できないだろうし、体制加算として全利用者の1日の収入が400円増え、実際の緊急利用に際しては、さらに7日間(14日の場合もあるが)600円増えるとしても、空きベッドを生じさせないで6.000円なり、9.000円なり収入を挙げた方が良いではないかという考えが成り立つ。なぜなら場合によっては(ショート指定ベッド数などによっては)緊急入所枠を確保していることにより、実際の利用がなければ加算算定できない分、収益が下がることが容易に予測されるからだ。

そうであれば、この加算は、それによって緊急利用枠が増えるというより、たまたま実績において算定ルールのベッド稼働率割合をクリアすれば、その期間のみ加算算定するものだと考える事業者が増えるだろう。

よってこのルールによって、加算算定率は緊急ネットワーク加算よりも高くなるだろうが、それはこのルールを生かして緊急対応したという意味ではなく、たまたまベッドの空き状況が算定ルールに該当して算定できる結果になったということに過ぎなくなるだろう。つまり加算が創設されたことにより、ショートの緊急利用がしやすくなるということにはならないだろうと予言しておく。

そもそも実際に緊急利用が必要な人がいて、緊急短期入所体制確保加算を算定しているショート事業者が近くにあったとしても、整数1を下回るベッドという「幻の空きベッド」によって、実際には緊急入所ができないという状態も想定されるのだ。

介護給付費分科会委員や官僚の考える制度なんて、この程度である。

センスとアイディアが枯渇している人々によって設計図が書かれる制度は、人の暮らしの役には立たない。

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