表の掲示板で「デイケアでのノンアルコールビール提供は不適切なのですか?」というスレッドが建てられた。

こうした問いかけは、通所サービスの在り方そのものに関わる問題提起として大いに意味があり、議論に参加した方が良いと思う。通所サービスってなんだ!!という視点から、サービスそのものをもう一度見つめ直す機会ともなり得るからだ。

このスレッドで指摘されている問題とは、単に通所サービスの中で行う行事の中で「ノンアルコールビール」を出すべきかということにとどまらず、通所サービスの中でアルコール類の提供があってよいのか、という問題まで踏み込まざるを得ない。なぜなら今現在の状況から言えば、世間一般的にはノンアルコールビールとは「ビールの代替品」として、運転しているためにお酒を飲めない人などが酒席で飲むことがほとんどで、ティータイムにそれを飲むということはスタンダードではなくいからだ。(少なくとも僕の周囲で酒席以外でこれを飲み物として出している場面に遭遇したことはない。)

そうであれば代替品の向こうにある本物を飲むという行為を語らねば上滑りの議論に終わるからである。

特にノンアルコールビールを提供した際には、長期的に見れば、「ではビールでも良いだろう?」という利用者の声が出てくることは必然で、その要求や疑問にどう応えるかという問題が含まれているからである。

そしてそれは同時に「通所サービス」の中での行事・イベントの在り方が問われてくる問題でもある。

この問題は介護施設のそれとは比較しようがない。介護施設ではこうだという例は何の参考にも説得力にもならない。

なぜなら介護施設の生活とは「暮らし」そのものであり、そこに住まう人は、そこで日常生活を送っているからだ。日常の中に非日常であるイベントを組み込むことは当たり前だし、治療の場ではない生活の場における日常の中で、飲酒するという行為を誰も否定できないからである。そして暮らしの場で、暦の上の行事や生活習慣を重要視することはごく当たり前であり、世間一般に行うことを、施設という暮らしの場で行うことも当たり前で、酒を飲み、ごちそうを食べ、皆で楽しむことは議論の余地がないほど当然のことだからである。

しかし通所サービスは「暮らしの場」そのものではなく、利用者が豊かな暮らしを営むための支援を行う場である。そしてその目的は基準省令では

「要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の社会的孤立感の解消及び心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければならない。」(通所介護)

「要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことにより、利用者の心身の機能の維持回復を図るものでなければならない。」(通所リハビリ)


とされており、あくまで日常生活をサポートする目的を持っているもので、日常生活そのものではない。よってこのサービスは、単に趣味のためや、嗜好を満たすためだけの保険給付を認めておらず、サービスの目的とケアプランから外れる特別な行事は保険給付対象外となっている。

よってそこで行う行事的なサービスは、あくまで心身活性化効果を見込んだ機能訓練(あるいはリハビリテーション)の一環として行うものであり、それを超えるものではない。ただし通所サービスは、そこに通って引きこもりを防ぎ、社会性を失わないという効果があるという意味において「通うことそのもの」にも意味があり(参照:新介護予防は成功するか〜要介護リスクの最大危険因子は?)その動機づけの一つとして、機能訓練効果を理由づけにした行事を実施することを否定しない。

しかし通所サービスの目的を考えた際には、季節の行事、慣習としての行事は地域や居宅で継続できることが一番重要と考え、それを居宅生活を継続しながら続けるためにサポートするという視点を忘れてはならず、通所サービスそのものが、その機能をすべて代替してはならないという視点も必要だ。

そう考えると「飲酒」という行為を行ってもよいと考えるべき行事は案外少ないかもしれない。(全面的にそれを否定はしない)。特に食事を伴う飲酒であれば、昼食時間ということになるのだから、飲酒後に通所サービスの目的が達せられるサービス提供ができるのかと考えた場合、それは極めて困難だと言わざるを得ない。もしあり得るとすれば、入浴等を含めた基本サービスを行った後に、心身活性化効果による機能訓練目的として花見などに出かけ、その場で食事中に軽く飲酒をして、事業所で飲酒後の健康チェックなどを行って帰宅するということだろうか。

そうであれば、この際にアルコール飲料の替りに、ノンアルコールビールを飲むという選択肢は否定されないだろう。

しかしそのような状況ではなく、アルコールを飲まなくてもよい前提の行事で、特別利用者から希望がない限りノンアルコールビールをあえて提供するというのは、今現在の普通の感覚では普通ではない。広く世間一般に、酒席以外でノンアルコールビールが出されるという状況でない限り、酒席にする必要のない場所や状況で、ノンアルコールビールを提供しようとする必要性は薄いと思う。

本来は酒席とした方が良いけれど、通所サービスの目的を鑑みた場合に、アルコールを提供するということはふさわしくないため、せめて酒席の雰囲気を味わってもらおうということで、そのツールとしてノンアルコールビールを提供することはあってよいだろう。(※表の掲示板のスレ主の意図するところは、ここだろうと思う。)

しかし酒席は地域や家庭の中で、日常の中でその機械や場所を持つという支援の方がより良い事ではないだろうか?

アルコールや、その代替品を提供しなくても楽しめる通所サービスというものを考えた方がより健全であると思うのは、僕の脳みの働きが鈍ってきているせいだろうか。

どちらにしても、いろいろな考えがあってよく、その中で自分の価値観に固執せず、利用者にとって何がべストの選択なのかという視点から結論が導き出されるべきである。

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