介護保険制度改正議論を細かく検証していくと、おかしな理屈が随所にみられる。

例えば今、介護施設の多床室の室料を新たに自己負担とするために様々な理由づけがされているが、それも冷静に検証すると極めておかしな理屈で外堀を埋めようとしていることが分かる。

11月24日の社保審介護保険部会の資料である「介護分野の制度見直しに関するこれまでの議論の整理」には、このことについて「社会保障・税一体改革に掲げられている要介護者の尊厳の保持と自律支援を図る施設の個室のユニット化を推進する観点から、施設の減価償却費相当について全額負担するユニット型個室と介護報酬で手当てされている多床室との不均衡を是正し、多床室の入所者にも一定の負担を求めることが必要ではないかと問題提起がなされた」と書かれているが、そもそもユニット化の推進と、多床室の室料徴収は別問題だろう。

ユニット化の推進は、今後新設される施設や改築する施設について、ユニット個室を原則としてそれを推進すれば良いだけの話で(そのことがこの国の介護サービスの将来像として適切なのかということは別であるが)、多床室の利用者から室料を徴収することがユニット化の推進に直接つながるわけではない。こんなことは普通に考えれば分かることだ。

そもそも個室の利用者から室料をとり、多床室利用者からは光熱水費相当分しか徴収していないのは、2005年10月の自己負担導入時に、多床室は室料を徴収するほどアメニティーが充実しているとはいえないというふうに説明されていた。そのこととの整合性がまったくない理屈が堂々と並べられている。

居住環境が変わらないのに、こうした理屈で負担だけが多くなることについて、利用者への説明ができるのかという疑問が残される。

しかも多床室は、個室利用料の負担が難しい低所得者が利用しているという実態があるにも関わらず、そうした経済的理由を無視して同会の資料には、「低所得者は多床室で、そうでない人はユニット型個室というのは問題である」と負担均衡理由を述べている。

しかしこれこそおかしな「こじつけ」である。所得が低い事により室料が払えないから個室利用ができないという根本的な問題を解決しないまま、多床室の利用者も室料を負担することによって負担均衡が図れれば、低所得者が個室利用できるとでも言うのか?まったくずれた視点から格差是正を指摘している論理としか思えない。

低所得者が多床室を利用せざるを得ず、個室を利用できないということが問題であるとすれば、その格差をなくすためには多床室の室料を徴収する前に、低所得者の個室の利用者負担軽減策を今より一層促進するのが筋だろう。こんなの子供でも分かる理屈だ。よくもまあデタラメな理屈を恥も外聞もなく並べたものである。

そうであるにも関わらず、この負担軽減策に関連する「補足給付」については、収入のみならず、保有する居住用資産や預貯金も勘案して支給を決定する仕組みを提案している。

自己負担できる費用とは、資産ではなく収入であることを鑑みれば、この資産勘案により、さらに個室利用ができない高齢者が増えることは想像に難くない。同じ資料の中にこうも矛盾した理屈をよくも並べられたものだ。そういう意味では多床室の室料徴収については、その理由から考えれば「やってはいけない」と結論付けることができる。

こんな簡単な理屈も分からない人間がこの資料を作っているのか?そりゃあないよな。だってエリート官僚が作っている文章だぞ。その意図は、分かりづらい文言を並べて国民を騙そうというものだろうとしか考えられない。

また補足給付について資産まで調査するとなれば、誰が、どういう形で調査を行うかが問題となる。同会資料では「社会保障・税共通番号の導入により、名寄せが困難である金融資産についての把握が行いやすくなる」ことを例に挙げ、この資産調査を楽観視しているが、実際には居住用資産や預貯金の額の把握は、1軒1軒のきめ細かい調査が伴い、逆に調査費用に大きな支出が伴う可能性が高い。

となれば本末転倒で、余計にお金のかかる制度になりかねず、このことはもっと慎重に考えられるべきだろう。

現在特養の多床室であれば、一人月額8.000円程度を自己負担化するという方向で議論が進んでいるが、その理屈にはこのような「こじつけ」が随所にみられる。実際に個室料金を支払うことができずに、多床室の利用しかできない人がいることを考えれば、多床室利用も室料がかかるとすれば、多床室さえ利用できない高齢者が出現しかねないという問題をもっと慎重に議論しないと、まったく行き場のない高齢者を生んでしまう。

生活保護制度は、こうした問題をきちんとフォローできるのだろうか?どうも怪しい。

この問題は高齢者の生存権に関わる問題だから、「見切り発車」することは許されない。

介護保険部会や介護給付費分科会の委員は、人の命と暮らしに関わる議論をしていることを、もっと真剣に考えるべきである。

給付抑制が制度改正議論だと間違っているのはどこのどいつだ。

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