かつて特養は措置施設であり、利用者がそこに入所するためには「措置入所」としての行政処分が必要とされた。入所判定も市町村の判定として行い、措置依頼を受けた特養はそれを受諾するだけで、入所順位も基本的には市町村の名簿順で決定された。

その時代、実地指導監査は老人福祉法の規定により都道府県により行われ、施設はそれに対し、閻魔大王の裁きを受けるかのごとく従順で、嵐が過ぎるのをひたすら耐え忍ぶごとく、指摘事項ができるだけない事が唯一求められる価値観であった。

介護保険制度が施行された後、措置から契約になり、施設側が入所判定委員会を独自で作り、施設の判断で利用者と入所契約を行うようになっても、行政の指導権限は変わっておらず、特養であれば老人福祉法に基づく指導監査と、介護保険法に基づく実地指導の両方を受けることになり、前者には社会福祉法人監査も含まれている。

しかし行政の実地指導に臨む我々の意識は大きく変化しており、かつてのように一方的に指導を仰ぐという姿勢ではなく、行政と介護サービス事業者の意見交換の場という意識を持てるようになり、場合によっては行政指導に対して納得出来ない部分は、その指導根拠の提示を求めるとともに、解釈上の違いや誤った法令理解に対しては異議を唱えることも当たり前に行われるようになった。時には施設側からソーシャルアクションの視点での提言も、その場で行うことも可能であると考えられるようになった。

これは我々が現場で経験を重ねて、多少ずうずうしくなった結果であると言えないこともないが、それ以上に情報の入手手段が過去とは大きく異なってきた点が大きな原因と思う。

過去において国からの通知文等は都道府県を通じて市町村に送られ、市町村から介護施設などの事業者に渡されるという形であった。そのため事業者に情報が渡るのは常に行政より遅く、行政で止め置かれる文書も数多く、行政職員しか知らない通達も存在していた。

しかしインターネットの普及により情報伝達手段は大きく異なり、何らかの形で公開される文書については、行政職員と我々の入手時期にタイムラグが生じなくなった。行政職員に向けた実地指導のためのQ&Aも、行政職員しか入手できないことはあり得ず、両者が手に入れることのできる情報量も変わらなくなった。そうなるとあとはその文書を読み、解釈する能力の差で情報の処理方法が変わるだけである。

この時、現場サービスに携わる事業者の強みは、老人福祉法や介護保険法の現場では行政職員より豊富な経験を持っている場合が多いということであり、行政指導の専門家と言っても所詮、移動があって、介護保険サービスに数年単位でしか関わらない行政職員とは「積み上げた情報量」に決定的な違いがあるということだ。

例えば現在の法令ルールがどうなっているのかは、我々と行政の実地指導担当者の情報や知識に差がないとしても、そのようなルールがなぜ生まれたのか、どのように変わってきたのかは、当然のことながらこの現場に長く居る我々事業者の方が豊富な知識を持つことになり、法令解釈という部分について言えば、行政職員のそれより「より豊かな判断基準」を持っているということになる。

例えば支給限度額の外側にあった、ショート利用日数が支給限度額と一本化されたのはなぜか、その時にどのようなルールが、どのように意味づけられてできたのか。例えばケアマネジメントの評価としての居宅介護支援費が、どのように迷走して評価基準が変わってきたのか等々、我々の方がはるかに豊富な知識を持っているだろう。

だから法令解釈は我々の方が深く、正しくできると考えるべきなのであり、行政職員の変な価値観で一方的に間違ったルールを押しつけられ、泣き寝入りすることなどあってはならないのである。

そもそも現在の実地指導担当者の状況をよく観察してみろ。

彼らが手にしている指導教本とは、「介護保険の解釈(社会保険研究所)」ではないか。法令や解釈通知やQ&Aをまとめただけの解説本を唯一の根拠として実地指導に臨むというお粗末な状態なのだから、我々が積み上げた経験や知識の中にしか存在しない解釈などできるわけがないのである。不正請求などの悪い事をしていないなら、実地指導など恐れる必要はないわけである。

それにも関わらず相変わらず事業者が過度に実地指導を恐れたり、指導根拠を求めることなく行政担当者の言われるままになってしまうのは、とりもなおさず勉強不足以外のなにものでもない。

行政職員と同じ程度、あるいはそれ以上の法令解釈が可能となる情報を入手できるのに、それをしないで怠けている結果であり、まさにそれは事業者の自己責任である。介護報酬の解釈に書かれている内容程度は、きちんと事業者が知っておくべき問題なのである。

そろそろ行政の指導担当者が「解釈本だけを教本にして実地指導に臨むのはまずい。」という意識を持つような事業者の姿勢が求められる時期である。

そのためには我々も常に新しい情報を手に入れ、それを読みこみ、事業者としてもの言える知識を持つべきであり、実際にものを言う事業者とならなければならない。

本当に現場を知っている人々の問題意識を表に出さない限り、この国の介護サービスがどんどん間違った方向に進んでしまうだろう。福祉や介護を役人の視点だけで作るから、人を救えない制度になってしまっていることを忘れてはならないのである。

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