平成15年の介護支援専門員基本テキストなどの改訂時に、ICFの考え方を取り入れたポジティブプランの考え方が推奨され現在に至っている。

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、2001年5月に開かれたWHOの総会で採択された機能障害と社会的不利に関する分類である。ICFでは、人間の生活機能と障害について、「心身機能」、「身体構造」、「活動と参加」、「環境因子」について、約1500項目に分類しているもので、日本語としては「国際生活機能分類」と訳されている。

この考え方をケアプランに取り入れることについて、厚生労働省ではその意味を
1. 障害や疾病を持った人やその家族、保健・医療・福祉等の幅広い分野の従事者が、ICFを用いることにより、障害や疾病の状態についての共通理解を持つことができる
2. 様々な障害者に向けたサービスを提供する施設や機関などで行われるサービスの計画や評価、記録などのために実際的な手段を提供することができる。

以上のように示している。・・・はっきり言って改めてこのよう書いても、その意味がさっぱりわからないというのが僕の本音である。

さらにそれをポジティブプランなるものに結びつけるのはどうしたらよいのか非常に難解に感じた。そのためICFに詳しいセラピストの方々(もともとこの理論はリハビリテーション領域で先進的な研究が進められていたので)の文献などを何冊か読んだが、わけがわからなかった。日本語の文章を読んだ気がしないほど、意味・解釈が難解なものが多かった。

そもそもICFそのものはアセスメントツールではない。これをケアプラン作成作業に考え方として取り入れるのは可能なのだろうかという疑問をある時期から持つに至った。ポジティブプランということを考えるなら、必ずしもICFという分類を意識せずとも可能な方法があると思う。特に国際基準であるMDSをアセスメントツールに用いている場合、考え方をある一定の方向に向ければ結果としてICFの考え方を取り入れたポジティブプランの考え方に沿ったプラン作成が可能だと思うし、その一定の方向に向けた考え方というのは、さして難解なものではない。

それは居宅サービス計画が、利用者と社会資源としての介護保険サービスを結びつける段階で、あるいは施設サービス計画が、利用者と施設サービスとしての、施設内の具体的サービス提供と結びつけるに際して、障害などで「できない部分」を補うという考え方ではなく、障害があっても「残された能力」があることに着目して、サービスを障害の穴埋めではなく、能力を最大限に発揮する方法論について環境整備を含めた方法で具体化することだと思う。つまり介護サービスを利用することで、現在の能力を維持できたり、本来残されているのに発揮されていない能力を引き出す方法論である。これが結果的にICFの考え方を取り入れたポジティブプランと同じことになるのではないだろうか。

これは図解する方が分かりやすい。

例えばアセスメント情報として「アルツハイマー型認知症による記憶障害と見当識障害があるため尿意を感じてもトイレの場所が分からない。 」という方が、「トイレの場所が分からず歩き回っているうちに失禁してしまう。トイレを探している間にトイレに行こうとしたことも忘れる。 」という状況があったとする。

この時、ICFの考え方を取り入れたポジティブプランが導入される以前の「従来型」のアセスメントでは、「失禁してしまう」ということにスポットをあてて、その失禁をいかに穴埋めするかという考え方で具体的なサービスが立てられた。それが下記の図である。

careplan

一方、ICFの考え方を取り入れたポジティブプランで、同様のケースを考えると次の図になる。

careplan2

ここでは「失禁する」という問題にスポットを当てるのではなく、「尿意を感じる」ことに着目し、尿意が感じられるのだから本来はトイレで排泄ができるはずであるというふうに考える。つまり本ケースでは、尿を感じてトイレに行けるはずなのに、実際には失禁してしまうのは、その能力が充分に発揮できない「阻害要因」があると考え、その阻害要因を取り除くことで能力が充分発揮され、失禁なくトイレで排泄ができると考える。

阻害要因を取り除く方法はケースによって様々で、場合によってそれは運動器向上トレーニングで筋力のアップを図ろうとするケースもあろうが、そうではなくとも本人の能力を最大限に発揮できる環境整備や、介護支援という方向から具体策を考えることもできる。

すると本ケースにおける「阻害要因」とは「トイレの場所が分からない」という記憶障害であり、記憶障害そのものは改善しなくとも、「トイレの場所が分からず歩き回っているうちに失禁してしまう」のであるから、トイレの場所が分かるようになれば失禁しないと考える。そうなると、トイレの場所が容易に分かるように目印をつけたり、尿意を感じてトイレに行こうとしている、という状態の何らかのサインを見つけることで、その時にトイレ誘導を行えば、トイレで排泄でき失禁しない、という方法を具体化したサービスプランとなる。その結果、後者の考え方に基づいた場合のケアプランにおける排泄ケアの目標や具体的サービスは下記の図である。

plan5

勿論最初に示した「障害の穴埋め」の考え方で、失禁するということに着目したとしても、ポジティブプランのように「尿意のサイン把握」とか「トイレへの誘導方法」というサービスに結びつかないというわけではない。

しかしここで一番大事なことは、下のポジティブプランの考え方であれば、決して「パット使用」「オムツ交換」で終わることにはならず、必ず「尿意を感じた際にトイレへ適切に誘導する方法」を考えることになる、ということである。

逆に言えば「失禁」に着目する従来の考え方であれば、本ケースも「おむつ使用、適時交換」で終わってしまう可能性が高いということになる。

両者を比べて、どちらが適切なプランかと考えた時、それは、どちらが利用者の暮らしとして質が高いのかという点から判断すべきであり、それは当然後者となろう。

このような考え方で利用者をサービスに結びつける方法を「ICFの考え方を取り入れたポジティブプラン」といってよいのではないだろうか。

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