僕は特養の施設長という立場であり、施設の経営状況にも気を配る立場でもあるため、運営コストには常に気を配らねばならない。

特に北海道は冬場の暖房費用を始めとした燃料費が運営コストに占める割合が高いため、この燃料となる重油の単価が収益に大きく影響する。そのため毎朝の日課の一つに「国際原油価格」の確認という作業があるが、この価格が今週に入って下落している。今日の価格は数ケ月ぶりに一時85円台に下がった(分単位で変動があるのであくまで一時的ではある)。先週から比べても10円以上の価格下落である。この水準で冬も経過してくれれば嬉しいのだが、なかなか予測のつかない問題でもある。

ということで(無茶ぶりかもしれないが)今日は施設運営に係る介護給付費の問題を取り上げてみたい。

厚生労働省は7/28、来年4月以降に新築する特別養護老人ホームの居室定員について、現行の「4人以下」から「1人」と改め、個室を原則とする省令改正案を示し、社会保障審議会の介護給付費分科会はこれを了承した。

既存の特養については、個室化が進んでいないケースもあることから経過措置を設け、4人以下の相部屋も認めるが、これは入所待機者の増加への対応で、個室と相部屋を併設した特養を整備している自治体に配慮したものだ。

また厚労省は、来年度の介護報酬改定で相部屋の施設よりも個室化を図った施設に報酬を手厚くする方針も提案し、今後介護給付費分科会で検討を進めるとしている。
(※地方分権一括法の施行に伴い特別養護老人ホームを個室とするかどうか、通所介護の1人当たり面積などは自治体が条例により独自の基準を定めることができるようになる。これに対し厚生労働省は「個室ユニット」推進を維持し、自治体が安易な多床室の新設になびかないように1居室の人数が多いほど報酬を安くする「定員別」の報酬を導入するなど介護報酬の支払い基準で対抗する含みを持っている。

北海道では現在でも特養の新設は「ユニット個室」の新型特養しか認めていないので、この新たな基準ができてもあまり影響がないと言えるが、県によっては個室と多床室を混合した一部ユニット個室の特養を認めているところであり、来年度からはそのような形態の特養新設は認められなくなる。これにより、今後特養の多床室は廃止の方向に向かうだろう。老健の個室化も勧められるだろう。当然、現在認められていない生活保護対象者の個室入所を認めることもセットで考えられている。

居住環境として考えれば、個室が多床室よりすぐれていることは間違いないわけで、すべての高齢者の住環境がそうした方向に向かうことを否定するなにものもない。

しかしすべての特養が個室となれば、居住費(自己負担費用)は当然既存の多床室以上の負担が求められてくるわけで、負担能力のない特養難民が生ずる恐れを否定できない。介護保険制度から補足給付を廃止せよという議論と相まって、この点は注視していかねばならないだろう。

特に高齢期の貧困とは、就労年齢期に於いて抱えたハンディキャップという側面があり、これは個人の能力や責任というだけにとどまらず、社会システムの問題でもあり、そこからはじき出された人々が、その負の遺産を死ぬまで背負って生きなければならないというのであれば、国家の社会福祉責任を放棄しかねない問題でもある。

補足給付を廃止して、低所得者の負担軽減策を公的扶助に変えていくということであっても、そこからはじき出さる人が生まれないようにする必要があるだろう。現在の生活保護の申請から給付の現状をみると、それは簡単ではないように思う。そういった意味では補足給付はなくせない給付だと考える。

ところでこの問題で忘れてはならないことは「来年度の介護報酬で相部屋の施設よりも個室化を図った施設の報酬を手厚くする方針を提案」という部分である。

この意味は必ずしも現行報酬から個室の報酬を引き上げることを意味したものとは言えない。むしろ既存施設の多床室報酬を下げるという方針を示したものだと考えるべきである。

特に経営実態調査が出る前のデータではあるが、施設サービスの収益率が11%を超えている報告があり、来年の介護報酬改定で、施設サービス費のアップは厳しい現状である。その中で多床室の料金がさらに下がれば、多床室を中心にした施設は古い施設が多く、そこは介護職員の勤続年数も長いため、人件費割合が高く経営が厳しい施設が多いのだから、死活問題である。
(※特養の多床室給付費が下がれば、当然、療養型医療施設と老健の多床室報酬だけが下がらないということにはならない。)

この背景には生活環境が個室より劣る多床室に対する介護給付費の方が高いということが矛盾であるという議論が背景にある。

しかし個室の給付費より、多床室の給付費が高く設定されているのは、もともと同額であった介護給付費が、居住費の自己負担という制度に変わった段階で、単純に自己負担分を当時の介護給付費から差し引いて設定した経緯があり、住環境として質が高い個室は「利用者自己負の居住費」負担分を高くすることで差をつけており、高い自己負担を差し引いた個室の介護給付費の方が低くなるのは引き算であり、当然のことだ。

また介護給付費とは介護サービスの手間を含めた費用であると考えれば、同室者の存在に配慮しなくてよい個室でのケアは、その配慮が必要な多床室のケアより容易になることが多い事を鑑みれば、多床室の給付費の方が高い事が必ずしも不思議とは言えないし、これを「ねじれ現象」などと呼ぶことは正しい解釈ではない。

そういう意味では多床室の費用を安易に下げるなんて言う議論はあってはならないのだ。
(参照)
介護サービスの費用とは何ぞや〜居住費自己負担を別角度から検証する
居室類型による報酬差は妥当か
個室化が進めば人手がかかる、という誤解。

24時間巡回の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を新しいサービスとして介護保険法に位置づけ、この部分の給付を増やす見返りとして、特養の多床室報酬を下げるという理屈は、過去の介護給付費分科会議論では、特養の多床室のケアの水準が低いというものである。そんなところに金をかける必要はないというのだ。

本当にそうなのか?24時間巡回サービスは、短時間の滞在サービスを中心にするものだから、事実上、要介護高齢者を自宅の居室の中に引きこもらせる恐れがあるサービスで、そうしたサービスと、特養のケアを一緒にされては困るし、そのために特養の多床室の報酬が下げられるのは納得できるものではない。

この点はケアの質議論と共に、今後の介護給付費分会で、中田老施協会長がきちんと訴えるべきと思うが、そうした期待はできるのか?老施協の姿勢と存在意義が問われてくる問題だろう。

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