次期制度改正で在宅中重度者の暮らしを支える新たなサービスとして導入される「定時巡回・随時対応型訪問介護看護」は、30分で移動できる圏域の中で45名程度の利用者宅を巡回訪問して訪問介護と訪問看護を一体的に提供するサービスである。

この際の滞在時間(サービス提供時間)は、現在深夜帯や早朝にしか認められていない20分未満のサービスを全時間帯を通して認めるというものだ。

もちろんモーニングケアやイブニングケア、食事介助をおこなう時間帯などは相応の滞在時間が必要とされ、20分以上の滞在サービスをしないというわけではないが、数十人の利用者宅を巡回してサービス提供するために、ヘルパーや訪問看護師が役割分担しながら複数で地域を巡回するとしても、登録利用者宅をまんべんなく時間内で巡回するためには、日中に於いても中心となるのは20分に満たない短時間サービスとなるだろう。

そしてこのサービスは定額報酬のパッケージサービスである。つまりこのサービスの中に必要な訪問介護と訪問看護をすべて包括してサービス提供するという意味だ。

そうなるとおそらく「定時巡回・随時対応型訪問介護看護」を選択した利用者は、既存の訪問介護や訪問看護は利用できなくなる。外枠で利用できるのは、給付管理外の居宅療養管理指導や、福祉用具貸与及び購入、ショートステイ、通所サービス等で、訪問サービスは基本的に外枠利用もできなくなる。

ここで問題となるのは、要介護4・5の利用者の通院介護をどうするのかという問題である。それらの方の通院支援は、現在、身体介護中心型でかなりの時間を要して行われている。しかし巡回サービスを選択した時に、ある一定の通院日だけ、日中の巡回サービスを利用しないで通院を身体介護中心型でサービス提供するためには、定時巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の巡回サービス担当職員が十回から外れて長時間の通院を支援することで、巡回人数が足りないという状況が想定される。しかもこのサービスはパッケージサービスだから、通院支援を長時間行っても報酬は上乗せされることはない。

ということは現在の予防訪問介護が定額報酬になったときと同様に、通院支援はこのパッケージン報酬の中に含まれないサービスとして保険外自己負担とされる可能性が高い。24時間巡回サービスを利用することにより、実質通院支援の保険給付サービスが受けられなくなるのではないだろうか。この問題は制度が施行される前に対策をきちんと示してもらわねばならない。そうしないと来年4月以降、在宅重中度者の通院難民が発生してしまう。

そもそもこの「定時巡回・随時対応型訪問介護看護」は、30分で移動できる圏域内の居宅で生活する要介護者宅を、1日複数回巡回して、短時間のサービスを中心に自宅で介護するシステムだから、このパッケージの中で外出支援を行うことを想定していない。あくまで自宅でサービスするのが原則で、そこから一歩でも離れたら圏域内でも巡回サービスが不可能であるからだ。

そう考えると、定時巡回・随時対応型訪問介護看護とは、ある意味利用者の「自宅引きこもり」を助長してしまうサービスになる可能性がある。少なくともこのサービスのみで在宅生活を支えようとすれば、利用者は自宅から離れることは不可能だ。これは恐ろしい事である。

そこで外付けサービスとして、定額パッケージ報酬に含まれていない通所サービス利用が重要になってくるわけである。

しかしここで大きな問題と疑問が生じてくる。それは定時巡回・随時対応型訪問介護看護の定額パッケージ報酬の額と支給限度額の関係である。

新しい定時巡回・随時対応型訪問介護看護の介護報酬については、介護給付費分科会で「特養の多床室より高く設定すべきである」という意見が出されている。

北海道医療新聞社の介護新聞の7/7付の記事では、24時間在宅ケア研究会理事長の時田純氏が旭川で行われた講演で「定時巡回・随時対応型訪問介護看護は施設サービスと同程度の報酬設定になる可能性が高い」と示唆している。

しかし仮に定時巡回・随時対応型訪問介護看護の定額パッケージ報酬が、特養の多床室の報酬と同じくなるとしたら、支給限度額と対比した場合、外枠の通所介護を利用しようとすれば、要介護4の利用者で月4回、要介護5の利用者で月5回しか使えない。それ以上になると支給限度額を超えて全額自己負担となる。他のサービスを組み合わせて利用したり、加算報酬が加わったりすれば、この回数はさらに減る。

ショートステイ利用の場合は、定額報酬が日割りされるため、そのような問題は生じないと思うが、例示のようにパッケージ報酬の単価を高く設定すれば、支給限度額の関係から考えると、外枠の別サービスの利用回数が定額報酬が高くなる分、制限されるということになる。このことをきちんと想定しているんだろうか。

現在まで、そのようなことは全く議論されておらず、このサービスが利用者を自宅に縛り付ける危険性も指摘されたことはない。

しかしその仕組みを考えれば考えるほど、この定時巡回・随時対応型訪問介護看護を中心にして地域包括ケアを創り上げることは、自宅でほとんどのサービスを完結させてしまうことになる。

そうなると地域包括ケアが、在宅要介護者が住み慣れた地域で暮らし続けることをコンセプトにしているにも関わらず、確かに地域の中でサービスは利用できるとしても、いつしかその実態は、地域で暮らすというより、地域の中の自宅の専用室に引きこもり、地域の息吹を全く感ずることができない要介護者を知らず知らずのうちに大量生産する結果になってしまう危険性があるということになる。

何度も繰り返すが、このことに関する考察や議論が全くなされていないのが実情だ。現場を知らず、サービスの何たるかを知らない学者を中心にサービスを創るから大事な問題に気がつかないのである。

このままでは地域包括ケアは機能しないばかりではなく、在宅要介護者の姿が埋没して見えなくなってしまう「仮想地域」を生んでしまうことになる。

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