人は様々な悩みを持ちながら生きる運命を背負っている。何の悩みもないまま一生を送る人はいない。

だから人として生きる以上、自らの悩みを一つ一つ自分自身で解決していかねばならない。その時決して忘れてならないことは「どんな深刻な悩みであっても解決できない問題はこの世に存在しない。」ということだ。どしゃ降りの雨でも、晴れない雨はないということを忘れないでほしい。

明治維新に繋がる一連の流れの中で、革命という時期に、その天才性を発揮し世間を常に驚かした長州藩の高杉晋作≪司馬遼太郎さんは、このことについて、幕末には、竜馬をはじめ、西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允(桂小五郎)など、雲のごとく人物が出たが、かれらは革命期以外の時代に出ても使いみちのある男どもだが、 高杉晋作は、革命以外には使いみちがないほどの天才であった。と著述している。≫は、その短い生涯で様々な奇跡を演出したが、それらを生むモットーとなったことは彼自身の言葉で言えば「男子たるもの決して困ったという言葉を吐くな」という精神だったそうだ。人間は困れば袋小路に入ってしまい知恵も分別もなくし思考力を失ってしまう。そうすれば「窮地が死地になって活路が見出されなくなる」だから高杉は生涯「困った」と口にすることはなかったという。

しかしこのことは高杉が決して「困らない人間」ではなかったということを示している。高杉ほどの人物でも、何度も窮地に立たされ、困り、悩み続けたが、そこから活路を見出すために常に「困っていない」と思いこんで頑張ったという意味なのである。

人間だれしもがそう強くいられるわけでもないし、時に困った状態になるのは当たり前だ。凡人たる我々は人生の中で何度も「困る」のであり、「困って」当たり前なのだ。しかしそのたびに困り事には必ず解決策があることを信じる必要がある。要はそれをどう克服するかという問題で、解決してみれば、あれほどの困りごとが笑い話にも変わることがあり得るのだ。

そしてしばしば人は悩みを持った時、その解決方法として家族や親しい友人にその悩みを打ち明けて解決を図ろうとする。

これは人間だけに与えられた最高の知恵である。相談するということは、相談する側にとっても、相談を受ける側にとっても尊い行為なのである。

その時に「悩みある人」の相談を受ける側に、資格や専門知識は必要とされない。それは人間としてごく当たり前に、目の前の悩める人の「思い」を真摯に受け止めて、その悩みの解決のために自分が役に立とうと思うことそのものが相談を受けることができるという意味だからだ。そういう気持ちさえ持っておれば人は誰しも「良い相談援助者」になり得るのである。

例えば「恋の悩み」。そんなものに専門家がいるはずはなく、人の恋愛感情を正しく分析できる専門家などいないはずだ。恋に悩む君が愛する人を思う感情は、君自身のものであり、第3者がその感情をいかに理解しようとしても、君自身の感情と同一化は出来ない。だから君の思いに共感しようとしても、君の思い自体をすべて理解できるわけでもない。

「あいつは悪い奴だから好きになるな」と理屈で諭しても、「好きだ」という感情はそれによって決して変わるはずがないのであり、恋の悩みは自身の感情を自らコントロールできる状態にすることでしか解決しない。だから相談を受ける側は、答えを与えるのではなく、共に悩みの本質を考えて、一緒に答えを見つける手助けをするだけである。

そのときしばしば、その手助けをする行為は「うなづくだけ」である場合も多い。「そうかそう考えているんだね」「なるほどあんたは今そう思っているんだ」と、善悪や好悪の感情を排除して、その思いに共感共鳴するだけで相談する側が心安らぐことがある。「自らの悩み」を口にして誰かに聞いてもらえるだけで「心の中で思っていたこと」に気がついて、「ああ自分はこう考えていたんだ」「そうか自分の悩みってこういうことなのか」と自らが気づくことが問題の解決に繋がることがある。

これが大事なのである。

介護サービスという専門職業の中で、利用者の生活上の様々な課題に対応する「相談援助者」も同様である。そこで求められているのは「答え」という名の「相談者の価値観の押しつけ」ではない。

相談する側が、いかに自身の問題に気づいて、自身で解決の道筋を見出すことができるのかを「手伝う」ことであるという基本を忘れないでほしい。

認知症などで、判断力が低下あるいは喪失した方の場合であっても、その方に替って、その方自身の最も良い方法を探すためには、今現在自分が持つ価値観だけに依らず、もっとも必要とされていることを、その時々の状況の中において真剣に、真摯に考えることが求められているのである。

考えることをやめた時、相談援助者は単なる「押しつけ屋」に陥ってしまう。説得することが相談援助の答えであると勘違いしてはいけないのである。

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