先週末、また同業者の信じられない残念なニュースが飛び込んできた。

毎日新聞社によれば
香川県は3日、同県さぬき市の特別養護老人ホーム「志度玉浦園」(入所者94人、職員42人)で、認知症状のある入所者に食事や薬を与えなかったり、足をひもで縛るなどの虐待があったとして、運営する同名の社会福祉法人(樫村正員理事長)に対し、老人福祉法に基づく改善命令などを出した。
県によると、少なくとも男女5人の介護職員が、入所者9人を虐待した。今年1~4月ごろ、管を通して胃に栄養を送っている5人の入所者に、職員2人が流動食や薬を注入しなかったり、2~5月ごろには1人の入所者の足を車椅子にひもで縛り付け立てないようにしたりした。医師の指示通りの睡眠薬を入所者に渡さず、職員が所持していたこともあった。
流動食や薬を捨てた職員は「介護の手間を省くためにやった」と、常態的に虐待行為があったことを認めているという。医師法によると、流動食や薬の注入は介護職員ではなく看護師が行う必要があり、県は7月に指導したが、その後も休日は介護職員による注入が続いていた。
県は先月、計7日間の監査をして、施設職員や入所者から聞き取り調査し、虐待行為を確認。介護保険法に基づく改善勧告も行った。改善命令は、今月20日までに全職員に再発防止のための研修を実施することなどを求めている。(2010.12/3.毎日JPより引用)

以上のように報道している。

なお香川県のホームページでは、同園の虐待事実はこのほかに、
・入所者に対して、上着を前後逆に着せて、車椅子に固定して身動きがとれないようにした
・介護職員Cが紙芯で、ポータブルトイレ使用後の入所者の臀部を叩いた
・介護職員E(女性職員)が入所者の意識が鈍い時に面白半分で乳首を何回か摘んだ。


という信じられない行為が記されている。そして改善命令・勧告内容として

(1)再発防止のための緊急措置
入所者が安心して施設サービスを受けられるようにするため、下記に留意して緊急措置を講ずること。
1.再度、虐待行為が発生しないよう全職員を対象に研修を実施すること。
2.虐待行為を行った職員について、再発のおそれがなくなるまでの間、直接処遇の勤務から外すこと。
3.入所者及びその家族に対して本事案に係る説明会を実施し、十分な理解を得るとともに入所者から他の施設への転出等の相談があった場合には、誠実に対応すること。
(2)再発防止に向けた組織体制の見直し
下記に留意して、再発防止に向けた組織体制の見直しを図ること。
1.社会福祉法人の役員、施設の管理監督責任の立場にある職員、虐待行為に関与した職員の厳正な措置及び処分
2.介護理念及び基本方針並びに具体的な方策の策定
施設サービスを提供するに当たっての介護理念及び基本方針を策定し、これを実現するための具体的な方策を策定すること。また、策定した介護理念及び基本方針並びに具体的な方策は全職員に周知するほか、施設の見えやすいところに掲示すること。
(3)高齢者虐待防止改善計画の策定
改善命令で認定した事実に対して、高齢者虐待防止改善計画を策定し、入所者、入所者の家族、全職員に周知すること。計画策定に当たっては、第三者による虐待防止委員会においても審議すること。
(4)第三者による虐待防止委員会の設置
虐待発生の原因を追求・分析し、発生防止策の検討・検証を行う第三者による虐待防止委員会を設置し、高齢者虐待防止改善計画の策定、高齢者虐待防止改善計画に沿って事業が行われているかどうかを第三者委員が定期的に審査する仕組み及び当該事業所又は第三者委員から定期的に報告を受けて、必要に応じて当該事業所に対する指導や助言を行う仕組みを構築し、入所者、入所者の家族、全職員に周知すること。

としている。

これを読むと、この施設で行われていた「虐待」の内容は、あまりにもひどいもので、流動食や薬を飲ませないなんていうことは、場合によっては生命の危険につながる恐れさえある。「未必の故意」による殺人未遂ではないかと疑われかねない言語道断の行為であり、同時にそのほかの行為も「こんなことが日常的に行われているのか?」という驚愕を覚えざるを得ない。

しかもそのような行為を行っている職員が5名も存在している。彼らのこの行為に繋がる「心の闇」はどこからきているのだろう。

そもそもこのような信じがたい行為を行っていた職員とは、我々とまったく違う「変わった人々」「冷酷無情の人々」なのだろうか?おそらくそうではなく、日常的には「普通の人」と思われている人ではないのだろうか?そしてそれらの人々も、この職業に就くそれなりの「動機づけ」は持っていただろうし、最初からそのような行為を行って罪の意識を持たないような人間でもなかったのではないだろうか?

ごく普通の介護職員が、いつからかこのような行為に後ろ暗さを感じなくなるほど、感覚を麻痺させていった結果ではないだろうか。

そしてその一番の要因は、この施設自体の体質と、管理者の意識の問題であると言える。この虐待行為が問題になる前に、介護職員が流動食の注入などを行っていることについて「違法性」を指摘され、その改善指導がされているにも関わらず、何ら改善策を取らなかったことからも、その体質が想像できる。おそらく「ばれなければ何でもあり」という施設トップの意識が、施設の体質となり、そこで働く職員の対人援助に対するモチベーションを下げ、感覚の麻痺を助長させていったのではないだろうか。そういう意味では、この施設のトップは、厳しく糾弾されるべきであり、社会的な責任をとらねばならないだろう。

このブログで何度か指摘しているが、介護サービスの現場の特徴として、日常介護場面での小さな「ほころび」が、いつしか虐待に繋がる危険性を常に持っているということを忘れてはならない。身体の障がいや、認知症によって人の支援を受けることなしに生活できない人は、支援する側の論理に異を唱える立場にないことが多いからだ。だから支援者側が積極的に、援助を受ける人の立場に立とうとしない限り、援助を受ける人の権利や尊厳を犯すような行為が行われても、被害者はそのことを訴えることすらできないことが多いのである。だから小さなほころびもできるだけ作らない、ほころんだ場合であっても、そのほころびが広がらないうちに、その芽を摘み、ほころびが広がらないようにしないと、我々は知らず知らずのうちに人の心を傷つけ、その傷はふさぐことができないものになるかもしれない。

そのために「介護サービスにおける割れ窓理論」を提唱している。それは日常の対人援助場面での言葉の乱れが「ほころび」の最初の問題となりやすいと考え、「特殊な関係や言葉によって、介護者の感覚は知らず知らずのうちに麻痺して、言葉により介護者が利用者を見下ろす位置に立つ恐ろしさ に気がつかなくなるという意味」である。そのことによって信じがたい虐待に繋がってしまうのだ。この状態がよく指摘される「介護サービスの常識は、世間の非常識」ということに繋がって行く。

言葉を正しく使うことは、こうした感覚麻痺を防ぎ、人権感覚を磨く意味を持つものだ。そのことによって虐待が絶対に無くなるとは言えなくとも、少なくとも、そうした姿勢を示し、トップ自らが利用者に対して適切な言葉で対応することは、職員の感覚麻痺を防ぎ、虐待因子を少なくする意味があるだろう。

職員の「心の闇」は、その現場の体質そのものによって生まれるという意識が必要である。

それにしても、この施設の職員が行っていることは、職員研修で意識を高め再発防止に努める負だけで責任が取れる問題ではないように思う。本来ならば、刑事事件になってもおかしくないような深刻な問題であり、指定取り消しが検討されるべき問題だと思うが、入所施設であるがゆえに、利用者の「行き場」が容易に確保されないことで、行政処分にも限界があるのだろう。

それに甘えてはいけないのだ。

そしてこの記事を読んでいる全国の介護関係者の方々に訴えたい。我々は人の不幸を造り出すために介護の現場に存在するわけではないことを忘れないでください。誰かの不幸の上に立った「幸福」など幻想に過ぎないのです。

どうぞ人を愛おしく思う人でいてください。そして命の儚(はかな)さを切なく感じる人でいてください。

人にやさしくするということは、自己の犠牲で相手の何かを実現することではなく、人としての当たり前の感覚を失わずに、皆で不幸を作らないようにしようねという日常のさりげない「思いやり」を紡(つむ)いでいくことではないのでしょうか?そういう意味では、他者に「やさしさ」を届けることは自己犠牲を伴うものではなく、それはむしろ自己実現に近いところに存在するもののような気がします。

日常生活や業務の中で、我々は様々なストレスを抱えてしまうことも否定しません。しかしそのことは、他の誰かの心を壊すことで癒されることではないのです。そのことで一時的な快感を得たとしても、それはやがて自分の身に何十倍にもなってふりかかり「心の闇」はさらに深まってしまうのです。

心に闇を抱えたままでよいのでしょうか?どうか日差しを浴びて、心を温かく、豊かに変えていきましょう。

そのためには我々の周りのすべての人々の笑顔が広がる日常を造ることが大事なのです。悲しみの中で、苦しみの中で、人の心は温(ぬく)もらないのです。そのことをどうぞ忘れない人でいてください。

人はもっと素晴らしい存在なのです。自らの心の闇で、曇った目で、その存在の意味を見失わないでください。

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