社会保障審議会介護保険部会の次期改正に関する報告書は、ケアプラン作成に関する「居宅介護支援費の利用者自己負担導入」に関して、賛成・反対の「両論併記」という形でまとめている。

自己負担反対派の意見は
「利用者負担の導入については、ケアマネジャーによるケアプランの作成等のサービスは介護保険制度の根幹であり、制度の基本を揺るがしかねないこと、必要なサービス利用の抑制により、重度化につながりかねないことなど、利用者や事業者への影響を危惧する強い反対意見があった。さらにセルフプランが増加すれば、市町村の事務処理負担が増大することなどから、慎重に対応すべきであるとの指摘があった。」

これに対し1割負担導入賛成派の意見は
「制度開始から10年を経過し、ケアマネジメント制度が既に普及・定着していると考えられること、小規模多機能サービスや施設サービスなどケアマネジメントが包含されているサービスでは利用者が必要な負担をしていることも考慮し、居宅介護支援サービス及び介護予防支援サービスに利用者負担を導入することを検討すべきであるとの意見があった。これにより、利用者自身のケアプランの内容に対する関心を高め、自立支援型のケアマネジメントが推進されるのではないかとの考え方もある。」

以上のようにまとめている。

ここで問題となるのは居宅介護支援の利用者自己負担として想定されている費用は、他のサービスと同様の定率負担なのか、あるいは1割よりかなり低い定率とするのか、はたまた一定額を示した定額負担であるのか、ということも不明瞭である。仮に他サービスと同様の1割定率負担であるとすればその額は1.000円を超える額になる。これは利用者にとって、他のサービスに比してかなり高いと感ずる額だろう。ましてや特定事業所加算を算定している部分も定率自己負担となるなら、そういう事業所は選びたくなくなるだろう。

さらに支給限度額にそれが含められることになれば、他のサービスを制限しなければならないような影響も考えられる。

ここがまず問題である。しかしその前に1割負担がケアマネジメントの質の担保になり得るのかということについて大いに疑問がある。この理屈が成り立たないと利用者負担導入の意味がなくなるんだから、ここは関係者がもっと突っ込んだ議論をすべきであり、制度の根幹にかかわる問題とか、不明瞭な理屈を中心にして反論しても始まらないぞ。

特に日本介護支援専門員協会は反対の理論武装が情けなさ過ぎるほどできていない。本当に存在意義のない団体である。

このことについてニッセイ基礎研究所の阿部研究員は11月24日、レポート「利用者負担なしにケアマネジメントの質の向上はありえない」の中で、「結論から言えば大賛成。至極まっとうな改正項目が久しぶりに示されたとの印象を受ける。」「研修や調査研究などを通じてしかケアマネジメントの質を測定することができなかった世界に、利用者の選択という直接的な“ものさし”が導入されることは、反対するようなものではなく、むしろ歓迎すべきことではないだろうか。」と諸手を挙げて賛成の声をいち早く示している。

しかし自己負担導入の賛否は別にして、このニッセイ基礎研究所の意見は相当「的外れ」あるいは「分かっていない」意見である。なぜなら居宅介護支援費に自己負担を導入すればケアマネジメントの質が担保されるためには、利用者が「自立支援型のケアマネジメントを望んでいる」という前提条件がなければならず、それがなければこの考え方は成立せず「空論」の域を出ないからだ。

現実は利用者は自らの自立支援を求めてケアプラン作成を依頼するわけではなく、「暮らしがどうなる」ということより、まず「サービスを使いたい」ということが多い。そして介護保険サービスは、お金を払えば使えるサービスなのだから、効果より利用そのものが必要と考えてしまう傾向にある。

この時、ケアマネジメント能力のある介護支援専門員であれば、利用者のデマンドと真のニーズは違うことを適切に導き出し説明し、自立支援型のサービス利用に持っていくであろうが、利用者負担導入により、逆にこうした利用者のデマンドより、真のニーズを導き出すケアマネジャーは避けられる可能性の方が高い。「金を払っているんだから言うことを聞け」と主張する利用者が増えるだろうし、金を払ってまで「指示」されることを嫌う利用者は、適切なケアマネジメントで真のニーズを説明してくれる介護支援専門員を「うるさく」感じて避けるケースが多くなるからだ。

その結果、利用者に「おもねる」居宅介護支援事業所の方が利用者確保に繋がり収益を挙げることになるだろう。ということは利用者負担の導入は、居宅介護支援事業における過度な利用者への「媚を売る」ことを助長させるという意味に置いて「御用聞きケアマネ」を増やす危険性はあっても、ケアマネジメントの質担保にはならないだろう。

自己負担導入論者は(ニッセイ基礎研究所も含め)利用者のこのあたりの状況を理解しておらず、阿部研究員が言う「ものさし」は、ケアマネジャーの利用者への「おもねりのものさし」にしかならないだろう。彼らは、利用者が介護サービスは使う側であるが、介護サービスを計画する専門家ではないことを忘れているように思う。

どうも一連の動きは利用者負担ありきのために、その導入の理屈を無理やり作っているようにしか思えない。その理屈に乗せられた一部の「分かっていない輩」が尻馬に乗ってしまっているんだろう。

それにしても本当にこの自己負担がケアマネジメントの質向上に繋がると考えている人がいるとしたら、ずいぶんその人は「能天気」といってよいだろう。

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