世間にはいまだに「施設必要悪論」が存在する。

本来地域住民は地域の中で暮らすべきで、施設は「暮らしの場」ではなく、やむを得ず入所する特殊な場所であるという考え方が背景にある。特に一旦施設に入所したが最後、そこで死ぬまで入所し続けなければならないことが人の暮らしとしては「異様だ」という指摘もある。

果たしてそうだろうか?なるほど、施設と一言で表現しても、色々な施設があるし、サービス提供側の論理で劣悪な生活環境の施設が存在することを否定しない。しかしだからと言って施設サービスをすべて「必要悪」と決めつけることが、この国の超高齢社会における福祉・介護サービスを考える上で建設的な議論になっていくのだろうか?そもそもサービスの質のでこぼこは、居宅サービスにおいても同様だし、介護保険制度創設以後、一番数が増えたグループホームにもそのことは言えることだし、経営者の考え一つで営業方針が決まってしまう小規模多機能居宅介護もしかりである。

しかしそれらは基本的に居宅サービスというカテゴリーの中の地域密着型サービスに分類されているから存在意義がある、というのは理屈として成り立たない。

施設サービスと居宅サービスの両者の役割分担をしっかり見据えた上での議論でないと、この国の将来の地域福祉の行く末を正しく見つめることはできないだろう。

北海道では、地域の人口が少なくなる過疎化の進行と同時に、高齢者人口が50%を超える「限界集落」がすごい速度で増えつつある。その時、地域は維持できるのか?理想としては先祖代々のお墓のある住み慣れた土地で生活を続けることが一番だが、現実の問題としてそれは不可能になるだろう。(参照:小さな福祉ニーズは守ることができるのか。

その時、どこかの時点で、住み慣れた故郷に近い場所での「住み替え」ということが必要になる。これが現在社会における超高齢社会のニーズである。

僕は施設サービスというものは、暮らしの場の選択肢の一つとしては、居宅サービスと同様の視点で考えられてよい時期に来ていると思う。高齢者専用住宅にたくさんの高齢者を集めて、外部の居宅サービスを使うことと、介護保険施設に入所することのどこに差があるのか?それを突き詰めて考えれば、自宅で暮らす高齢者が月の大半を居宅サービスの宿泊サービスやショートステイを使って暮らすこととどこに違いが出てくるのか。

こう考えた時、施設サービスが、きちんと地域の住民と密着した形でサービス展開していけば、それはもうカテゴリーが違うだけで、その人自身の「暮らしの場」としては十分機能していくと考える。そうであれば「暮らしの場」からの在宅復帰などという概念はおかしいし、本当にその方が「暮らして幸せ」な場所であれば、死ぬまでそこで暮らし続けたいから、他に行く必要なない、ということになるだろう。だから僕は施設サービスが目指すものは、もはやQOLではなくQODであると主張し続けている。我々施設職員が、施設で暮らす人々の最期の瞬間まで「傍らにいることが許される者」になり得る限り、そこは利用者にとって終の棲家になり得るもので、そうであれば「在宅復帰ができないから悪である」という理屈は成り立たない。

そもそも施設サービスと居宅サービスは対立軸にあるものではなく、地域福祉の中では車の両輪であるはずだ。住み慣れた自宅で暮らし続けるために居宅サービスは必要であるが、インフォーマル支援者が過去のどの時期よりも少ない現代社会においては、それにも限界があり、その時に最終的セーフティネットとして施設サービスが存在するから、住民は地域で安心して住み続けられるのである。当然、その前提には、施設が「暮らしの場」として利用者の生活や権利や希望を守るサービス提供を行っていることは当然必要とされるだろうから、そのことに関する質の担保に我々は日々努めていかねばならないことはいうまでもない。

だから居宅サービス関係者が、施設サービスをひとくくりにして「必要悪」と断ずる態度は、この国の将来の施策を誤らすものであると考える。施設サービスの個々の状況をみて、不適切なサービス施設を糾弾するのは必要なことだろうが、施設サービスそのものを否定してしまうような考え方があってよいわけがない。

居宅介護支援に当たるケアマネジャーも、居宅サービス関係者も、社会福祉士も、介護福祉士も、医師や看護師も、両者を対立軸に置いたり、施設を塀の向こう側の存在として批判するばかりではなく、もっと建設的に両者の役割や機能を適切に利用者と結び付けるように考えるべきである。

理想は高く掲げるべきであるが、特にこの国の将来を作り上げていくべき、20代、30代の関係者は、新しい国のあり方を見据えて既存サービスをどのように生かしていくのかという視点を持たないと、すべてが机上の空論に終わってしまう。そんなものは理想とは言えないのである。

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