「お早うございます。お心にかけて下さいまして有難う御座います。
身に余るお褒めの言葉を頂き嬉しゅう御座います。頑張る力が湧いてきます。
〇〇日は全く問題はありません。私の九十三歳の誕生日です。楽しみにお待ちしています。
〇〇個人の為に、こんな我儘許されてよいのでしょうか。ご無理なさらないでくださいませ。
九十歳を過ぎてから誕生日を祝うことにしたのです。〇〇日に三男がケーキを持って来るそうです。そんな程度なのです。心が明るくなり生きていけます。大事に生きます。
どうぞ〇〇様も頼りにいたしております。御大事に。」

先日、朝方に当施設の事務所のFAXに流れてきた手紙である。(ちなみに内容の紹介許諾は頂いている)

手紙に書かれているようにFAX(じゃ手紙じゃないだろう!という突っ込みはなしね。内容はまさに手紙そのものなんだから)の送り主は93歳の女性である。

この方の息子さんが当施設に入所されている。93歳の方の息子さんだから、介護保険の1号被保険者、老人福祉法の対象者である65歳以上の方である。

その方のお母さんの誕生日が近いことを知った担当介護職員が、せっかくの親の誕生日だから、息子さんに「お母さんの家にお祝いに行ってきませんか」と提案したところ、「是非」ということになって、誕生日当日の都合を確認した翌日に送られてきたFAXである。

昔の教育を受けた方だから実にしっかりした丁寧な文面である。

それにしても「九十歳を過ぎてから誕生日を祝うことにしたのです。」とは何て素敵なことなんだろう。こういう形での自分への「ご褒美」はとても素敵だ。質素であってもそれは人の心に深く響くものだ。

同時にいくつになっても息子を思う親の気持ちは変わらないことが伝わってくる。親子とは死ぬまで、いや死んでもずっと親子なのである。心の繋がりはずっと繋がっているのである。本当に素敵な手紙である。

認知症の方にも、重い身体障害があって自力で離床出来ない人にも、何らかの理由で意思疎通ができない人にも、誰にも親や兄弟や妻や夫や子供や孫や友人や知人や、何らかのつながりがある人々がいるはずだ。

現在我々が相対している人々が、意味もなく大きな声を出したり、暴力的であったり、介護を拒否したり、自発動作がなかったりしても、過去にそれらの人々と繋がっていた人々にとって、現在の状況に関係なく自分と親しい大切な人であるはずで、人間の価値は決して変わることはない。そのことを忘れずに人としての尊厳を決して損なわないように、周囲のあらゆる人々によって人は配慮されなければならない存在である。

自分に置き換えて考えてみてほしい。

自分の親や、兄弟や、友人や知人や、妻や夫や、子や孫が、どのような状態に置かれていようと、誰かによって人としての扱いを受けられない状況があるとしたら、それほど哀しくて、つらくて、悔しいことはない。

介護支援の現場では常にこのことに人一倍デリケートでなければならない。

おっと、そこで年上の高齢者で「ため口」で話していたり、ニックネームや「ちゃん付け」で呼びかけているのはどこのどいつだ。その汚らしい言葉は、君の心をそのまま現わすものなんだぞ。

本当に醜いものなんだぞ。

ところで後日談として、この方から2通目の手紙が同じくFAXで送られてきた。前より長文である。

「昨日は各別なおはからいにより楽しい2時間を過ごさせていただき有難く厚くお礼申しあげます。付き添って来てくださいました〇〇様の何と細かい心配り深く心にきざまれました。〇〇は幸せで御座います。若く美しい方々に介護して頂き安らかな老後を送れる事と思います。
そちら様が終の棲家となることをこの頃ようやく認識してきたようでございます。やつれました。驚きました。皆様方の手厚い介護を戴きながらも病気の進行は致し方ございません。我儘を申して皆様にご迷惑をおかけしていることとは存じます。お許しくださいませ。〇〇様と楽しいお喋りもあっという間に過ぎました。何と行き届いたお心遣い深くお礼申しあげます。お土産を用意しておりましたのに忘れて昨夜気が付いたのです。もう私もそろそろお迎えが近くなったのです。でも私を大事に思って下さる方々がいらっしゃる限り元気を出して生きようと思っています。
長く生きるって事は中々大変なことです。一人暮らしは寂しゅうございます。
今朝は寒いくらいでしたが日中はまだ残暑きびしい事と存じます。皆様こんな立派なお仕事誇りです。お身体大事になさってよろしくお願い申し上げます。
〇〇に付き添って来てくださいました、美しい方〇〇様でよろしいでしょうか?メモしてなかったので間違っておりましたらお許しくださいませ。」

93歳の素敵な女性の手紙から若い人たちが学ぶべきことは、心の謙虚さと、美しい日本語ではないのだろうか。

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