認知症の分類については、その原因となる基礎疾患から「アルツハイマー型」「脳血管性」「レビー小体型」「前頭葉・側頭葉型」などに分類されることは広く知られている。

そしてそれぞれに基礎疾患特有の症状の出方があるなども言われている。しかしそうした分類をしたからと言って基本的なケアの方法が異なるということではなく、例えばアルツハイマー型と脳血管性の認知症では、失禁するという原因が異なることが多く、ケアプランが違ってくる場合がある(参照:認知症診断の意味)ものの、そうしたアセスメントとは一線を画する部分で、認知症の症状の現われ方で基本部分の対応方法を区別して考えるということではなかった。

しかし国際医療福祉大学の竹内孝仁教授は、その著書「介護基礎学」の中で、認知症を基礎疾患による分類ではないタイプ分類を行い、タイプ別に対応方法に違いがなければならないと主張している。このことは実際に介護の現場で認知症高齢者のケアに係る我々には非常に共感できる考え方で、なるほどと思えることが多いのである。そのことは三好春樹氏も著書「まちがいだらけの認知症ケア」で取り上げて共感している。

だが各種の認知症研修でも、このことに触れた話を聞く機会はほとんどなく、タイプ別分類というのは聞いたことがないという関係者が圧倒的に多いのも現状である。そこでこの詳しい内容は竹内先生の本を購入して勉強してもらうとして、この記事では簡単に竹内理論としてのタイプ別分類と、その対応の違いについて竹内、三好両氏の著書を参考にしてご紹介したい。

竹内理論の特徴は、氏が常日頃「認知症は病気ですから」と言っているのとは少し矛盾するのであるが(←こんなことは蛇足かもしれないが一応事実として記しておく)、認知症を単に病気による症状と捉えるのではなく「現実の自分と、自分の考えている自分とが適応不全を起こしている状態」と考えているところに特徴がある。

竹内理論では認知症を次の3タイプに分類している。

1.葛藤型
2.回帰型
3.遊離型

そしてそれぞれの対応方法の違いを次のようにまとめている。

1.葛藤型
?葛藤型の特徴は、情緒不安定で怒ったり、おびえたりする
?暴言を吐き、時には暴力をふるう(もともとの性格が乱暴とか粗野ではない)異食や弄便もみられる
?むしろ礼儀正しかった人、女性では高学歴の人に多いタイプ(理由は不明)
?長谷川式認知症スケールを実施すると「バカにするのか」と怒る人がいるが結果がそう悪くなかったりする

として過去の自分と老いて介護をしてもらっている自分との間で葛藤が起きているのではないか? と考察している。

そして対応方法としては、粗野行為が目立ち周囲にあたり散らすが、他人に怒っているのではなく自分のふがいなさにいらだっているのだから、抑制や閉じ込めることはさらに症状を悪化させるとして
1.役割作りが効果的→理解してくれる人も必要
2.かつてやっていたか、それに近いことを探してしてもらう
3.現在の身体的能力、精神的能力で出来ることをみつけて出来るようにする (ただし無理して出来ないことを、やらせようとするのは症状をさらに悪化させるので決してしない)
4.その役割を果たすことで周りから認められることとし、風船バレーなどの幼児的な感覚の伴う活動は不向きであると指摘している。

そして役割と理解してくれる人を通して少しずつ自分を再発見することが大事であり、その結果葛藤がなくなる ケースが多いとして在宅で考えるべき対応として

・デイサービス・デイケアに連れ出す
・そこの職員に相談し役割を与えてもらう→職員の「指導係」など特別扱いされる役割
・帰宅したら「お疲れさまでした」と仕事から帰ってきたときのようにねぎらう
・家でも出来ることを調べた上で役割を引き受けてもらい、その都度感謝する
・権威のある人の言うことは聞きやすい。尊敬している人を見つけ、その人から伝えたいことを行ってもらうと効果的

以上のように指摘している。

2.回帰型
このタイプは例えば「仕事があるから」と家から出て行こうとしたり、「赤ん坊にお乳をやらねば」と歩き回る 見当識障害と徘徊を主な症状とするタイプとし、その原因は
?かつて人から頼られていた自分に回帰している
?いまいるところが、そのころいた場所になり、周りの人もそのころの知人になっている。
?過去に似せて現実を再構成している状態

であると考察し、その対応方法について
1.意識が今ではなく自分が一番幸せだったころに戻っているので、その再構成された世界を我々の現実に取り込んで対応する
2.現在の自分が自分であると実感ができないこと訴える行為として徘徊しているので、「ここは自分のいるべき場所であり、現実の老いた自分が自分であり、それでもよいのだ」という安心感を作り出すのがケアの目標である、と指摘し、さらに家庭における対応としては

・今と昔を取り違えても間違えを指摘せず話に耳を傾ける
・徘徊が始まりそうになったら歩く理由に耳を傾け共感する意思表示をする
・話を合わせただけで落ち着かないときは行動につきあう。時間をかけて落ち着ける話題を探す
・今いる自分が自分自身ではないと感じていることを受容し、その原因を探す
・法事になるとしっかりする人がいるので、亡くなった人の月命日に一緒にお線香をあげたり、墓参りに連れ出すことが有効
・環境を変えないことが大切。居室は私物で一杯に(私物持ち込みを拒否する施設等には絶対入所させない)

と指摘している。

3.遊離型
このタイプの特徴は、
?問題を起こすわけではないが何もしなくなる
?あらゆるものに意欲を失い、現実世界に興味を失ってしまう
?入浴もしたがらないが、強い拒否もない等
?独り言を言い続け周囲から気味悪く思われることがある
?症状が進行すると食べることもしなくなる
?現実から遊離して無為自閉的になる

とし「若かったころおとなしく自己主張しない人がなりやすい。依存心が強い人で従順な人。」がこのタイプに多いという特徴から遊離型の人は刺激を拒否しようとするので、一度に五感の多くが刺激を受けるアプローチをと提唱し
・目:動きがあり色の鮮やかなもの
・耳:音楽や笑い声
・鼻:懐かしい臭い
・舌:好きな食べ物の味
・皮膚:スキンシップ
・その他:体が動くことによる刺激

が大事であり、遊びリテーションや療育音楽が有効と結論付け、家庭では

・家の中に閉じこもらないで散歩に行く
・季節によっては花や野菜づくり
・デイサービスで風船バレーなど
・体をくっつける、膝に手を置く、肩に手を回す、などスキンシップを積極的に

と葛藤型とは対極にある対応が有効であるとしている。

ただし、どのタイプも3大介護(食事・排泄・入浴)の基本サービスを適切に提供していることが大切であることは今更言うまでもない。

介護・福祉情報掲示板(表板)

(↓1日1回プチッと押してね。よろしくお願いします。)
人気ブログランキングへ

blogram投票ボタン
(↑下のボタンをクリックしていただくと、このブログの解析がみれます。)

※文字の大きさはブラウザの表示→文字のサイズで大きく変更できます。