(6)不作成の被告主張未作成プラン等につき、原告が主張する理由について
ア、原告は、被告主張未作成プラン等の不作成は、業務過重やパソコンの故障等の現場の仕事環境に原因があり、原告の職務怠慢によるものではない旨主張し、職場にも慣れない状況で一挙に33人の利用者の引継ぎを受け、残業、日直、休日出勤をして忙しく働いていた、また、被告〇〇で使用していたパソコンに不具合があったなどと陳述する。(甲63)

(ア)そこで検討するに、証拠(甲61.63.乙8.106.107)によれば、原告が被告〇〇において担当していた各月ごとの利用者数の推移については、平成17年7月に引継ぎを受けた時点で27人(入院中等の者を含めると、33人)、同年8月に31人、同年9月に32人、同年10月に35人、同年11月に34人、同年12月に37人、平成18年1月に40人、同年2月に43人、同年3月に44人であったと認められるところ、当時、介護支援専門員一人当たりの担当利用者数は標準で50人とされており(本件基準2条2項、前提事実(2)エ)、原告の担当者数はこれよりも少なかったこと、その後、同年3月厚生労働省令第33号による改正(同年4月1日施行)により、介護支援専門員一人当たりの担当利用者数は35人とされたものの(同改正後の本件基準2条2項)、少なくとも平成17年11月までの原告の担当者数はこの改正後の基準よりも少なかったこと、被告〇〇の他の介護支援専門員であった〇〇〇〇(以下「〇〇」という。)の担当件数は、平成17年7月に45人、同年8月に44人、同年9月に44人、同年10月に44人、同年11月に43人、同年12月に42人、平成18年1月に43人、同年2月に41人、同年3月に45人であったと認められ、原告の担当者数よりおおむね上回っていたが、〇〇は、業務を遅滞なく行っており、〇〇〇〇点検結果(乙4)上も、平成17年6月までについて点検された部分については、利用者番号7(〇〇〇〇)のものを除き、過誤は認められていないことが認められる。
 加えて、証拠(乙4.127.証人〇〇)によれば、〇〇は、原告の担当していた利用者から、38名の業務を引き継いだ後、作成されていないケアプラン等について、平成18年6月30日付け業務命令により作成を指示され、31名について、利用者宅を訪問し、同年8月下旬までにはケアプラン等を作成し終えたことが認められ、このような事情にもかんがみれば、原告の業務が過重であったために被告主張未作成プラン等が作成されなかったものと認めることはできない。

(イ)また、証拠(甲62.63)によれば、原告が被告○○で常勤介護支援専門員として各利用者を担当していた期間(平成17年10月1日から平成18年3月31日まで)において、ケアプランの作成作業を行うパソコンに不具合が生じたとして、業者が対応業務を行ったのが、平成17年10月17日と同年11月24日の2回であったことが認められ、加えて、証拠(乙107)によれば、〇〇は、原告が主張しているコンピューターの故障や不具合はない旨述べていることなどにも照らせば、いまだ業務遂行が不能又は著しく困難な程度のパソコンの支障があったとまではいうことはできない。

(ウ)以上からすれば、被告主張未作成ケアプラン等の未作成について、業務過重やパソコンの故障等の現場の仕事環境に原因があったということはできない。

イ、以上のほか、原告は、個別の利用者について、未作成のレアプラン等が生じた理由を主張するので、以下検討する。

(ア)原告は、利用者番号15(〇〇〇〇〇)について、同利用者からの訪問看護を受けたい旨の相談が急であり、速やかに訪問看護を行う必要があったため、緊急とのことでケアプランを未作成のまま訪問看護サービスを受けることになった旨主張するが、証拠(甲42.63、乙136.137)によれば、同利用者は、平成18年2月3日に要介護認定を申請したこと、原告は、同月16日に同利用者の家族から、同利用者につき訪問看護の居宅サービスを受けたい旨の相談を受けたこと、同年3月7日から同利用者に対する訪問看護サービスが開始されたこと、原告は同月8日に〇〇〇〇に対し同利用者に係る要介護認定等に関する資料の開示を申請し、そのころ、「認定情報(開示用)」と題する書面等の開示を受けており、開示に係る資料には、介護認定審査会による判定結果及び認定の有効期間等の記載がされていたことが認められるところ、前提事実(2)オのとおり、介護認定の申請中の場合であっても認定の見込み内容を基にアセスメントを行い、同結果に基づいてケアプランを作成することが求められると解されることから、〇〇〇〇から要会gp認定等に関する資料の開示を受けた以降、介護保険被保険者証の交付を受けるのを待つことなく、速やかに、遅くとも同月中にはケアプランを作成すべきであったものといえる。しかし、原告は、同月末に異動するまでに同利用者についてのケアプランを作成しなかったものであるから、前記アの説示にも照らせば、原告は、同利用者のケアプラン等の作成を怠ったものというべきである。

(イ)原告は、利用者番号43(〇〇〇〇)について、家族から情報がもらえなかったため未作成となっている旨主張するが、証拠(乙131)によれば、同利用者につき、平成17年9月に従前の介護支援専門員(被告〇〇とは別の事業者に所属)から原告に交代した際、原告に対し家族から情報提供がされていることが認められ、同利用者について不作成がやむを得ない事情によるものであったなどとする原告の上記主張は認められない。

(7)以上の検討結果を踏まえ、本件解雇の効力について検討するに、前記(3)ないし(6)のとおり、原告は、利用者番号7(〇〇〇〇)(ただし、認定の有効期間平成18年1月1日からの分)22(〇〇〇〇)(ただし、認定の有効期間平成18年2月1日からの分)、25(〇〇〇〇〇)及び29(〇〇〇〇)の各モニタリング表を除く被告主張未作成プラン等の作成を怠ったものであり、その態様からすれば、原告の職務遂行能力は不良であったと言わざるを得ず、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠くものとはいえない。
 また、前記(2)の本件解雇に至る経緯のとおり、原告は、平成18年5月に後任の〇〇から本件チェック票を渡され、その後、書類の作成を催促されるなどしたのに対し、監査が入ると分かったら作ればよい旨回答するなどして、同書類の作成をせず、同年6月6日ころに原告が介護支援専門員として作成すべき種類の作成を怠っている事実を知った被告〇〇から、早急に整理して完備するよう指示されたにもかかわらず、これらの作成をせず、被告〇〇は、同月30日には、これらの未作成の種類の作成を〇〇に命じるに至ったものであり、その後も、原告は、被告○○や〇〇らから作成を促されても「おいおいにやっているので、待っていてください。」などと返答し、同年7月には、そのことで○○や被告〇〇と口論するなどし、原告は、被告〇〇に対し「私は辞めますので、後任のケアマネを探してください。」などと述べた一方で、未作成ケアプラン等の作成については更に猶予を求め、これに対し、被告〇〇は、「あなたのいう猶予とはいつまでか、6か月か、1年か、もういいかげんにしてくれ。あなたと一緒に仕事をすることはできない。おれが辞めるか、あなたが辞めるか、〇〇(〇〇〇〇〇〇)に決断してもらおう。」と述べるなどし、同年8月15日には、被告〇〇が〇〇〇〇〇〇から種類不備についての業務指導を受けるなどし、同月21日や23日の会議においても、原告は、未作成のプラン等は今から作る等と述べるなどしていたものであって、これら経過を踏まえ、同月29日に本件解雇の通知がされたものと認められる。
 これからすれば、本件解雇が、社会通念上相当として是認することができないものということもできない。
 したがって、本件解雇が解雇権の濫用として無効になるということはできない。

主文
1.原告の請求をいずれも棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。

判例番号:平成19年(ワ)第378号 損害賠償請求事件
判例番号:平成19年(ワ)第583号 地位確認等請求事件

以上。本日の記事をもって本判決文の情報提供記事を終了します。

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