特養等の介護施設において、介護職員が現在行っては違法となる医療行為について、これを見直し一部の行為を介護職員が行えるようにすべきであるという議論について「なぜそのことが必要なのか?」という本質部分に、おかしな議論がある。

それは、看護職員が不在の際に、やむなく介護職員が医療行為を行っている現実があって、こうした違法状態を放置しているのは問題であるという方向から意見を述べる人がいることだ。

僕はこのことは、まったく間違った考え方であると思う。

この問題の本質は、特養で違法行為が日常的に行われているということではないし、そんな事実もない。緊急避難として行われる場合は、違法性が阻却されるし、多くの特養経営者は違法行為を前提にした施設運営など行っているわけがない。日常的に違法な介護職員の医療行為が行われている施設があるとすれば、よほどリスクマネージメントに欠けた施設である。

むしろこの議論の本質は、特養という施設の側の問題として考えられているのではなく、利用者にとって何が求められているのか、超高齢社会における医療ニーズが高い在宅高齢者にとって何が必要かという議論なのである。

つまり医療行為とされる行為ができないことで不利益を受けているのは、そうした行為ができないという理由で入所を拒まれる地域住民であり、特養側からすれば、違法状態で介護職員が対応せざるを得ないようなリスクを回避するために、経管栄養の高齢者や喀痰吸引が必要な高齢者は看護職員が対応できる範囲(人数制限が現実的な方法としてあり得る)でしか受け入れず、それを超えた場合は入所判定時点で「はじく」ということが行われているということが、この問題の本質だ。経管栄養等の医療行為への対応者の数をあらかじめ定めて、それ以上を受け入れないという判定基準は「正当な理由」とされており、不当な入所判定基準ではないからこれは可能なのである。

このことに関連しては2010年4月から特養の介護職員に「喀痰吸引」と「経管栄養の処置」の一部行為が一定条件下で「違法性遡及」として認められたが、これについても在宅で保護者である家族が行っている行為のごく一部分が認められたに過ぎない。

しかも在宅では医療資格のない介護職員等が業務外のボランティア行為としては認められている気管切開部を含めた喉の奥の喀痰吸引を認めておらず、口腔内の肉眼で確認できる部分のみに限定している。このことが理由で特養に入所できない要介護高齢者も多い。

つまり現在、特養で表出している問題とは、医療行為がどのような行為かという具体的内容が現行法では明確に示されていないという問題もあるが、それ以上に、在宅で保護者である家族が行うことができる行為が特養では介護職員に認められていないという問題なのである。

加えて言えば、医療行為そのものにまったく手をつけず、その範囲を見直すことをしないで、違法性阻却ということで一部の行為を介護職員に認めた弊害は、その遡及性を証明するために、一人の介護職員がこれらの行為を行うために十数種類の書類(同意書や指示書、マニュアル等)が必要になっていることになって現われている。今回の特養の違法性阻却条件では少なく考えて13種類の書類が必要だ。

さらに、こうした違法性阻却として行うことのできる行為が、特養のみに限定され、同じ介護保険施設である老健や療養型医療施設には認められていないし、介護保険制度上は居宅サービスに分類されているとはいえ実質的に施設であるグループホームや特定施設にも認められていない。違法性を阻却される条件が行為を行う場所によって違うなどという新たな矛盾を生んで、より問題を複雑化させていると言わざるを得ない。

医療行為を実施できる者が、医療の有資格者に限定されるのは当然であり、今後も医療行為が医療資格者ではない介護職員に許されるべきではないことは当然と考えている。我々が主張していることは医療行為を介護職員に解禁せよというのではなくて、現在医療行為とされているものには医療の有資格者が行わずとも安全に実施できる行為が含まれており、そうした行為は医師や看護師等の有資格者しかできない医療行為と区分して適切な医療・看護の専門職員の管理下において施設の介護職員でも行うことができるように法整備をすべきである、という主張である。

医療法ができた当時とは違う社会情勢や医療器具の進歩があるのだから、そのことは絶対必要なのだ。簡単で安全な医療器具の操作まですべて医療行為のくくりの中に入れてしまっている現状がおかしいのである。

繰り返すが、この議論の本質は介護職員への「医療行為解禁」ではない。医療法制定当時に想定していなかった高齢化に伴う様々な個人状況が生まれ、医療技術や器具の発達で、様々な在宅高齢者への対応方法が生まれてきたものを、何でもかんでも医療行為に含んで行為実行者を規制することを見直せ、ということに過ぎない。

家族でも行うことができるような行為について危険性を理由に医師や看護職員の管理が容易な施設においてさえ認めていない状況は、もはや国民ニーズにマッチしていない。地域の介護問題の最終的セーフティネットとしての介護施設の機能を考えるなら、この問題を解決せずして医療器具などを装着している高齢要介護者や、インスリンの自己注射ができない認知症高齢者の方々は地域で安心して暮らすことはできない。これらは介護職員が実施可能となる行為を見直すことによってのみ解決する問題であり、医療行為の明確化はその後に必然的についてくる問題であろう。

我々関係者は、今後もこうした超高齢社会に対応した国民のニーズの変化に対応する法的整備を含めたソーシャルアクションを求められているのである。

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