社会福祉援助技術の考え方となる基礎原理は、ほとんど欧米からもたらされてきたものであり、福祉援助者としての人間理解の観念も欧米の書物からの影響を受けているものが多々ある。

そうであるがゆえに、僕がそうした観念上の人間理解を学んだ学生時代は、その考え方についていけずに違和感を禁じえなかった。特に宗教観と関連した考えには首をひねることが多かったものだ。それは確かに考え方としての格調は高いと思っても、自分の感覚がついていけないのである。その違和感は今でも変わらず、頭では納得できても、心ではすべて受け入れられないと感じている何かがある。

例えば、あの有名なバイステックの7原則を訳した名著、尾崎新さん等の「ケースワークの原則」の中でこのような表現がある。

「ケースワーカーは理想主義者としては、クライエント一人ひとりを天なる父の貴い幼子として捉えようとするが、現実主義者としては、クライエントが神の振舞いとはまったく異なる態度や行動を示す現実ももっていることを知っている。」
「ケースワーカーは小さな規模ではあるが、自らが神の摂理の道具となるように願うのである。」

ここが観念上ついていけなくなるところである。

僕は僕と相対する人々を、理想論として考える場合も、それらの人々を「天なる父の貴い幼子」として捉えたことも、捉えようとしたこともない。ましてや人の行動を「神の振舞い」と考えたことも比較したこともない。そして自らを「神の摂理の道具となるよう」願ったこともない。そもそも神の摂理の道具なるものが何かを理解しえない。

どうもこうした考え方は欧米のキリスト教文化に根ざした宗教観が基になっているように思え、我々の文化とは違った価値観であると感じている。

しかしだからといって人間を「貴い存在」であると考えることそのものは否定するわけではない。だがそれは神が与え賜うた命であるがゆえに「貴い」という感覚とは少し異なって、命ある人間という存在としての貴さであって、失われた命は再生できないから儚(はかな)いがゆえに貴いのである、という考え方である。

神とか、神の子とかいう概念がどうもピンとこなくとも、少なくとも命というものの儚(はかな)さや、貴さというものは十分理解出来るし、我々が守るべきものは何かということも十分理解できるのである。

しかし哀しいかな、人間は様々な要素によって、人間らしさ、自分らしさ、というものを失ってしまう状態に陥ることがしばしばある。その原因は例えば「老い」であったり、「病気」であったり、「怪我」であったりする。脳に損傷や障害を受けることで「自分らしく」生きられない状態になる人が存在するという事実がある。

しかしそうであっても、人間は命の鼓動を止めるまで人間であり続けるし、人間としてあり続けるように他者からも遇される必要がある。それは人として生まれた人間の権利であり、そのことを他者も尊重することが「人として生かされている」人間の条件でもある。

ところが人の弱さとは、ある環境におかれた時、他人の不幸に鈍感になるということである。人の尊厳を傷つける自らの恥ずべき行為に鈍感になるということである。神ならざるがゆえに、人が犯してしまう大きな間違いである。

物言わぬ認知症の高齢者の顔に絵を描いたり、上半身裸の姿や、四つん這いにさせた姿、おむつを首に巻いている姿を写真に撮ったりして、それを「そうされた本人が喜んでいる」という理由で「悪いことではない」と主張する介護施設の職員がこの国には存在する。彼らの心の闇は、そうした行為を行っていることだけではなく、それを人として情けない行為だと気がついていないことにある。やがてその行為は他人だけではなく、自らの心に刃を向ける形で、自らに還ってくる問題である。

なぜなら神様がみているかどうかは知らないが、その行為は彼ら自身の目がしっかり見て、彼ら自身の心に刻みつけられているからである。そのことを何とも感じなくなっているのなら、彼らはもはや人ではない。自分の親や、自分の子が同様の行為を他人から受けても何とも感じない心を失った存在になっているんだろう。

振り上げた拳は他人の体に痛みを与えることができるかもしれないが、それは自らの拳の痛みでもあり、結果的にそれは自らの心の痛みにしかならない。

争いは幸福を作らない。それが生み出すものは不幸でしかない。人を冒涜する行為もまた同じである。一時的な快楽感を得ることがあっても、そのような空虚なものに何の価値があるだろうか?人が人として生きることとは、人の中で人としての誇りを持ち、人と繋がっている喜びを全ての人々と分かち合うことである。

私の幸福は、あなたの涙により存在するのではなく、あなたの笑顔によってのみ存在するものなのである。

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