介護保険制度は「居宅サービス」を重視した法律であるといわれ、その根拠は介護保険法第2条に求められる。

第2条1項では「介護保険は、被保険者の要介護状態又は要支援状態に関し、必要な保険給付を行うものとする。」と規定し、第4項で「第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない。」とされている。

つまり保険給付について、まず「可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営む」ことが可能になるように配慮しなければならないというものであり、施設入所は、そのことが困難と判断された場合のみ給付されるべきサービスであるとしているものである。このことが介護保険制度は在宅重視といわれる所以である。

しかしこの法文を読む限り、この制度は「在宅重視」というより、むしろ「居宅サービスで対応できる可能性をまずアセスメントすること」つまり「居宅サービス優先」であると解釈できるのである。出来る限り在宅で生活することを目的とし保険給付サービス利用を行ったうえで、なおかつ居宅生活が難しくなった人に対して施設サービスを提供しなさいと読める内容となっている。

この法文解釈自体は、さほど的外れでもないし、そういう意味であることは自体は決して間違った考え方ではない。つまりもともと施設サービスは、居宅生活を補完する最終的なセーフティネットの役割を担っているという意味があるからだ。

ところが、この「在宅重視」「居宅サービス優先」という意味を間違って捉えている関係者が少なからず存在する。

それは、あたかも施設サービスが「必要悪」であるかのように考えている関係者のことである。

それらの人々は何か「施設に入所する」ことを「禍々しいもの」とでも捉えているかのごとく、居宅生活を続けることができなければ人間としての価値が低下するような考え方を持っていると同時に、施設サービスに移行せざるを得ない人々は、生活の質が下がるがごとく考えて、いたずらに「頑張らないと家で暮らせなくなりますよ」的な指導や援助を行っている場合がある。こうなると、もうこれは生活支援ではなく、脅迫による「尻たたき」にほかならない。

地域福祉というものは、居宅サービスと施設サービスが車の両輪の役目を果たしているものであり、そのどちらが欠けても安定走行ができなくなるものである。それは居宅で生活している人が、何らかの理由で、その状態が難しくなったときに、施設サービスがその後の安心を保障します、という意味なのである。ここを間違ってはいけない。

同時に、居宅サービスと施設サービスという選択において、両者には両極端の差異があるにもかかわらず、従来の居宅サービスのあり方のままでは、それらのサービス対応が困難になってきた場合の選択肢が少ないことから、境界層の人々がすべて施設サービスに移行せざるを得ない状況にあって、このことは非常にバランスが悪いとして、小規模多機能居宅介護などの第3極のサービスが考えられたもので、それは施設サービスを否定して、この国から施設をなくすために作ったものではないという理解も必要である。

介護保険制度の在宅優先、施設サービスの補完性というものは、どちらが優れているとか、どちらの質が高いかという問題ではなく、人の暮らしの援助を考える場合、過去の暮らしとの連続性を視野に入れる必要があり、安易に生活拠点を移す選択に繋がらない、そういう選択肢しかない、という状態を作らないという意味なのである。

しかし、それは同時に施設サービスというセーフティネットが構築された条件下で安心して居宅サービスを受けることができるということであらねばならない。そういう意味では待機者が膨大な数にのぼり、施設入所がままならない現状は、このバランスを崩していると言えるもので、一定数の特養などの施設整備計画は必要不可欠であって、これは居宅サービスが充実さえすれば必要ないという問題ではないのである。もちろんその前提として、施設サービスとして、利用者の人権を守る適切なサービス水準を維持していくことが必要なことは言うまでもなく、過去の記事にかいたような宇都宮市の老健施設における人権蹂躙の対応は徹底的に排除されなければならない。

ところで4月26日に出された厚生労働省の「地域ケア研究会」の報告書では、2012年の介護報酬と診療報酬の同時改定では、「居宅サービス優先」という介護サービスの機能を一段と意識した原則に立つべきだと提言している。しかし前述したように、その本質部分の理解に差がある現状では、この原則論が「国側の都合のよい理屈」に使われないか心配である。

特に施設サービス関係者においては「サービスの外付け論」が給付費の圧縮理論と深く結び付いていることに注意していかないと、在宅重視・居宅サービス優先の御旗は、施設サービス費の削減論と変質する可能性が高いことを知っておくべきである。

なにしろ厚生労働省内でも、有識者会議の一部のメンバーのなかにも根強く主張されている考え方は、介護保険施設の将来像は、いわゆる「特定施設モデル」であり、一部の費用の切り出し、利用者自己負担化であることを関係者はしっかり捉えて、必要な反論とアクションを起こしていく必要があるからだ。

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