厚生労働省が特養の居室面積基準について、一人当たりの最低面積基準を現在の8畳から6畳に緩和するとともに、特養の個室化率を全入所者の7割まで引き上げるように整備をする方針であることを発表した。

基準面積に緩和について、環境の劣悪化につながる改悪だと主張する向きもあるが、個室を整備し一人当たり6畳のスペースを確保できれば、収納スペースなどを工夫して、住環境を整えることによって特別問題視するほどのデメリットは生じないだろう。むしろ居室だけが生活空間ではなく、そのほかに共用スペースなどの、くつろぎのスペースが確保できるんだから、総合的に考えれば超高齢社会における様々な「暮らしの場」の選択性を増やす方向からいえば決して間違った基準緩和ではない。

同時に個室化推進について、個室化によりケアが大変になるので配置基準の見直しが必要だと主張する人がいる。確かに現在の配置基準は十分ではないが、しかし個室化=人手がかかる、と考えるのはあまりにも素人的、短絡的な見方で、それは間違いである。

人手がかかるのは個室化によるものではなく、個室を中心にしたユニットケアのソフトによって、一人ひとりの個別状況にきめ細かく対応する「ケアスタイルの変化」「介護サービスの品質向上の取り組み」が人手をかけないとサービスが困難となる要因であって、単純に個室化しただけで、人手がかかるということにはならない。逆に言えば良いサービスを提供しなければ個室化によって人手を減らすことだって可能である。ここを素人は勘違いしている。

現に我が施設がユニットケアより単位が大きいグループケアにしただけで、個室形態は変わっていないのに人手が必要になった経験がある。人手が必要かどうかは実はハードの問題より、ケアソフトに起因する問題なのだ。

なるほど個室化によって、職員の導線は広がらざるを得ないだろう。しかしそのことの手間はさほどでもない。そもそも多床室の中で展開するサービスが、個室のケアより手をかけなくてよいとでも思っているだろうか?それは大きな間違いである。

多床室で、身体介護を行うといっても、ケアサービス自体は1対1であることに変わらず、多床室だからといっておむつ交換や着替え等を4人まとめてできるわけがない。多床室であるがゆえに個室よりケアを合理化できる部分があるとすれば、活動参加の声かけや誘導の部分で一部屋で複数の人に同時に対応できるくらいであろう。しかしそれとて、一人ひとりの状況に配慮したい、移乗介助自体は1対1で行うものだから、省力化というほどの事でもない。

むしろ居室形態とケアの手間ということだけを考えれば多床室の方が手間と配慮が必要な場面は多々ある。

例えば多床室であるがゆえに、おむつ交換や着替えを介助されている方の「裸の姿」を他の同室者の視界から遮るためにプライベートカーテンを引いたり、夜ならば介助している人以外の安眠を妨げないために音を出すことにも気を使ったり、排せつ介助中の臭いが漏れないような工夫も必要になる。こうした個室なら必要のない様々な配慮と手間が多床室であるがゆえに必要なのである。

またある特定の方に用事があって多床室まで逢いに出かけたとしても、その方だけに声をかけるということにはならず、きちんとした施設職員なら用事のない他の方にも挨拶をして声をかけ、要件の内容によっては用事のある人を別の場所まで誘導して要件を済ます、という対応が必要である。個室ならこうした手間を全て省いて居室内だけで要件が完結することが多い。認定調査だって、同室者の方に迷惑にならないように配慮する手間も省けるというものだ。

何より同室であるがゆえにひき起こる様々な人間関係トラブルが生じないし、そのために必要だった居室調整、居室移動も必要なくなるのだから、これは大きな業務負担軽減に繋がるのである。

つまり多床室ケアから、個室中心ケアに移行した途端に人手がかかって困るという施設は、もともと品質の高くない、配慮のないサービスを行っていた可能性が高いのである。

職員配置基準の問題とは、過去とは違って今現在、社会から求められているサービスの質というものが異なってきているということに起因し、その質を確保し維持し、さらにその向上に努めるなら、現在の3:1という配置基準は少なすぎるのである。なぜならそれは単に雇用従業者の数だけの規定でしかなく、実際に一人の従業員がカバーする要介護者の数が日中でも10人を超える状態の時間帯もあるし、夜間は20人以上を一人で見なければならない配置基準で、そもそも元の数値が低すぎるからである。

よって個室を推進するなら基準配置を見直せ、というのではなく、求められているサービスの質や、高齢化、重度化の進行によって、過去に決めた配置基準が実態とあっていないので見直しが必要だというのが現状理解としては正しい。

つまり新型特養だけではなく、既存型の多床室がある特養であっても、ケアの質を社会から求められている水準に担保してサービス提供しようとすれば現行の配置基準は見直しが必要な低水準であるという本質に思いが及ばないと意味がないのである。

個室化推進が単純に人手を必要とすると考えるのは、そういう意味でも「ど素人」の的外れな意見でしかない。しかしこういう連中が、この問題に関して、報道記事なり批評を書いているんだから、一般市民が問題の本質をみることができなくなってしまうのである。

さらにいえば、そういう記事を掲載している、業界サイトが存在するというのにも困ったものである。そういう所に知識が不十分な介護支援専門員が集まって、素人の意見に毒されて、おかしな考えを持ってしまうから、この職種の社会的信頼度がイマイチ高まらないのである。

重ねていえば個室化7割の推進にあたって、もっとも考えなおさねばならない問題は別にある。それは生活保護受給者の施設入所において、経過措置(施設が個室化を行って多床室が利用できなくなった場合に多床室あるいは多床室の利用できる他施設に移り住むまでの間のみ個室利用を認めている)を除くと個室利用を認めていないという現行ルールの見直しである。(ショートの場合、自己負担をすれば個室利用を認めているが、入所の場合自己負担利用も原則認めていない)

個室が全体の7割になれば、それはもう「ぜいたく」というにはあたらないだろうし、そもそも多床室に入所すること自体が困難になる可能性が高い。生産労働年齢に属していたころに何らかの原因で経済的に恵まれなくなったという負の遺産を高齢期まで引きずり、そのことが原因で保護受給に至った人達が、介護サービス利用することにおいても格差が生ずる状態は「劣等処遇原則」に他ならず、福祉国家として、こうした状態を放置しておくことは恥ずべきことである。

生活保護受給に至る経緯には様々な状況があり、すべて自己責任論で片づけられないのだから、保護受給者の権利が、保護を受給していない人のそれより低く考えられるのはおかしい。

このことをもっと議論して変えて行かねばならない。

それにしても新聞記者やニュースキャスターの浅はかな見解を信じるのでは専門家として恥ずかしい。介護支援専門員や介護サービス従事者であるなら、介護サービスに携わる専門家として、それらの素人の意見に飲み込まれず、自分なりの意見や見識を持つべきである。

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