表の掲示板に時折「身寄りのない施設入所者の死後対応」に関する相談が寄せられる。

その相談の多くは、特養が介護保険制度創設以後、措置施設から契約施設になったために、身寄りのない入所者の死後の対応について、葬祭執行や埋葬、遺留金品の処理まで施設が行わねばならないと市町村担当者からいわれて困っている、あるいは、誰が行うべきかわからない、という相談である。

介護保険制度ができて、特養入所が措置としての行政処分ではなく、施設と利用者との契約となったからといって、それはあくまで施設入所利用契約に関する「契約」であって、死後対応まで施設と契約を結んでいるものではない。また入所施設として利用者と深い縁を結んで対応しているのだから道義上の責任において対応すべきではないかと主張する人がいるようだが、そういう観念論で対応を決められるべき問題でもない。なぜなら施設及び施設長には、利用者の死後の様々な対応処理に関する執行義務がないばかりではなく、権限がないことによって「出来ない」ことがあるからである。

例えば本当に身寄りが全くなく、相続人がいないのかを確認しなければならないが、身分関係は戸籍で公証されるため本人の戸籍を遡って除籍謄本や改製原戸籍謄本を取寄せて調査しなければならない。この場合、その調査は地方公共団体の職員が職務上必要とする場合に行なわれるものであり、市町村職員が公用請求により除籍謄本等を取り寄せて行なうのが通常であり、施設の管理者や職員にその権限はないものである。

それでは「身寄りのない施設入所者の死後対応」は誰が、どのようにすべきなのか。このことは介護保険法には特段の定めがない。しかし介護保険施行時に、厚生労働省は「施設所在地の区市町村が一般の住民サービスとして葬祭執行等を行うこととなる」という見解を示している。あくまで市町村の責務として執り行われるべきなのである。

特養が措置施設であった当時、葬祭執行については、老人福祉法11条第2項において「措置入所者が逝去した場合において葬祭を行なうものがいないときは、区市町村がその葬祭を行い、または入所していた施設にその葬祭を行なうことを委託する措置がとることができる」と規定していた。これにより市町村責務としてこれを行っていたわけであるが、介護保険制度に移行して特養が措置施設でなくなったことにより、この規定の適用は及ばなくなったと言えるが、だからと言って身寄りのない施設利用者の死後対応が市町村責務ではなくなったわけではなく、一般の住民サービスとして葬祭執行等を行う義務はあると解釈されているものである。

つまり老人福祉法11条第2項は措置権者の責務を改めて示していたというふうに解釈して良いもので、地方公共団体としての身寄りのない方への責務が措置から契約に変わったからといって、契約施設の中で一般地域住民と別に取り扱われるというものではなく、市町村としての責務はそれがなくても当然存在すると考えられるものなのである。

そして墓地・埋葬等に関する法律9条1項に「死体の埋葬又は火葬を行う者がいないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行なわなければならない」という規定に基づき、身寄りのない契約入所者が施設で逝去した場合には、施設所在地の市町村長が葬祭を執り行い、「死体の埋葬又は火葬を行う者がいないとき又は判明しないとき」においてはそれも市町村長がこれを行うものである。

当然、遺留金品の処理権限も施設は持っていない。本来であれば遺留金は逝去者の相続人に帰属する。しかし相続人がいない場合や存否が不明の場合には誰かが遺留金を管理することが必要になり、このような場合について法律は、相続財産を法人とみなし(民法951条)その管理のために家庭裁判所が相続財産管理人を選任することにしている。(民法952条)

措置施設の場合はもとより、介護老人福祉施設の場合においても、身寄りのない入所者が逝去し相続人がいない場合や存否が不明の場合には、葬儀や納骨の費用を支弁した後の遺留金品はいったん市町村が歳入・歳出外現金として保管する扱いが基本となる。(通常は施設所在地の市町村;東京都においては葬祭を執行する市町村と同一とするという取り決めがなされている。)

そこで施設は遺留金品を当該市町村に引き渡すこととなる。

市町村は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し相続財産管理人の選任の申し立てを行う。申立権があるのは「利害関係人または検察官」とされており(民法第952条)市町村の公務員は管轄裁判所に対応する検察庁に対し通知し(家事審判法7条、非訟事件手続法16条)検察官が財産相続管理人の選任申立を行うことになる。もっとも当該市町村職員が利害関係人として申立を行なっても構わないとされている(昭和35.6.13民事甲1459民事局回答)なお利害関係人は例えば、相続債権者、特定遺贈の受遺者、特別縁故者、事務管理者等である。

申立を受けた家庭裁判所は、必須事項を調査したうえで、審判により相続財産管理人を選任する。
相続財産管理人は相続人の捜索の公告を行なうなど清算手続きに着手し最終的に残余の相続財産は国庫に帰属する。(民法第959条)

このような流れの中で、施設が関与できるのは市町村に遺留金を引き渡す段階までというのが通常の流れである。

ただし介護報酬以上に値する以上の献身的な努力をしたなどの特別な事情がある場合は法人としての施設も「特別縁故者」と認められ上記の申立を行なうことが可能な場合がある。

ところで、これらは財産処分をできる権限を持つ者が別にいない場合で、かつ死体の埋葬又は火葬を行う者がいない場合の取り扱いで、身寄りがない施設利用者であっても成年後見人などが、この権限を持っている場合は市町村の関与によらない方法が可能である。

それは任意後見契約の際に「死後事務の委任契約」を一緒に締結しておくという方法である。注意しなければならないのは、あくまで「死後事務の委任契約」は「任意後見契約」とは別の契約であり、「任意後見契約」を結んでいるすべてのケースが死後事務の委任がされているわけではないということである。

任意後見契約の際に「死後事務の委任契約」を一緒に締結しておくと、死亡届や葬儀・埋葬の手続き、債務の支払い等を行い、最終的に残った財産を遺言執行者や相続人に引き渡すところまで任意後見人が行うことができる。

さらに遺言書を作成して、遺言執行者を指定しておけば、まったく身寄りのない方でも行政に任せずに死後の処理一切が可能となる場合がある。

施設の相談員など、この問題を担当する職員は、そのことを十分理解しておき、任意後見人を選任している身寄りのない施設入所者については、「死後事務の委任契約」を同時に締結するように勧めすのも考えられる対策の一つである。

介護・福祉情報掲示板(表板)

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