(昨日の記事からの続き)
介護職員による痰吸引と経管栄養処置について、違法性阻却として「可能となる行為の前提条件」として示されているものを整理すると以下の16点となる。→以下の太字下線が新たに必要とされると考えられる記録を示しているので参照していただきたい。
1. 入所者(入所者に同意する能力がない場合にはその家族等)が、口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養の実施について特別養護老人ホームに依頼し、当該施設の組織的対応について施設長から説明を受け、それを理解した上で、当該施設の介護職員が当該行為を行うことについて書面により同意していること→新たな書面同意書が必要
2. 配置医から看護職員に対し、書面による必要な指示があること→書面指示書が必要
3. 看護職員の指示の下、看護職員と介護職員が連携・協働して実施を進めること→指示、連携内容を証明する記録が求められるかも?
4. 配置医、看護職員及び介護職員の参加の下、口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養が必要な入所者ごとに、個別具体的な計画が整備されていること→個別計画が新たに必要
5. 施設内で看護師が研修・指導を行う等により、看護職員及び実施に当たる介護職員が必要な知識・技術に関する研修を受けていること→研修実施とその記録が必要
6. 口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養については、承認された介護職員が承認された行為について行うこと→承認された職員である証明となる何らかの記録が必要
7. 当該入所者に関する口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養について、配置医、看護職員及び介護職員の参加の下、技術の手順書が整備されていること→いわゆるマニュアルなど手順書を新たに作る必要あり
8. 施設長が最終的な責任を持って安全の確保のための体制の整備を行うため、施設長の統括の下で、関係者からなる施設内委員会が設置されていること→新たな委員会の設置とその実施記録が必要
9. 看護職員が適正に配置され、入所者に対する個別の口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養に関与するだけでなく、看護師による介護職員への施設内研修・技術指導など、施設内の体制整備に看護職員が関与することが確保されていること→これを証明する指針や記録が必要
10. 実施に当たっては、非医療関係者である介護職員が口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養を行うことにかんがみ、施設長は介護職員の希望等を踏まえるなど十分な理解を得るようにすること
11. 入所者の健康状態について、施設長、配置医、主治医(別途主治医がいる入所者に限る。)、看護職員、介護職員等が情報交換を行い連携を図れる体制の整備がなされていること。同時にそれぞれの責任分担が明確化されていること→責任分担の整理記録が求められるかも?
12. 特別養護老人ホームにおいて行われる口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養に関し、一般的な技術の手順書が整備され、適宜更新されていること→手順書の作成が必要
13. 指示書や指導助言の記録、実施の記録が作成され、適切に管理・保管されていること→この記録は必須。
14. ヒヤリハット事例の蓄積・分析など、施設長、配置医、看護職員、介護職員等の参加の下で、定期的な実施体制の評価、検証を行うこと→定期的評価の記録が必要
15. 緊急時の対応の手順があらかじめ定められ、その訓練が定期的になされているとともに、夜間をはじめ緊急時に配置医・看護職員との連絡体制が構築されていること→この証明となるマニュアルまたは指針などが必要
16. 施設内感染の予防等、安全・衛生面の管理に十分留意すること→管理マニュアルなどが求められるかもしれない。
以上である。このように昨日の記事に書いた「実施条件」と今日書いた「前提条件」をクリアするためには、今以上の膨大な記録と作業を必要とする。記録の簡素化が大きな命題になっていることに逆行していると思うが、それにしてもひど過ぎないか?
特養の利用者の医療ニーズとは何か、それに現実的に対応するには何が必要かということを「真面目」に考えれば、医療ニーズに的確に対応するためには、最低限でも在宅において医療の有資格者以外が行為としては可能となっている喀痰吸引は口腔内に限らず認められるべきであるし、家族が行うことができるインスリン注射や、経管栄養の濃厚流動食注入・タンクと繋がった部分(体と繋がった部分は別で、これは看護職員対応がふさわしいだろう)のチューブ交換等も認めるべきである。
特に問題なのは在宅でインスリンの自己注射ができない高齢者については、同居の家族が替わってその行為を行って暮らしを支えているのに、その高齢者に特養入所の必要性が生じても、朝食前にインスリンを注射できる看護職員がいないことが理由で入所できないケースである。そういう意味においては実際には24時間医療行為が必要ではない高齢者であっても、一部の医療行為を特定の時間に支援できないことにより特養入所ができないという問題が生じてしまっている。そうした問題と状況が解消されないと意味がないのだ。
そしてその前提条件は、安全性をいかに担保するシステムとなっているかが重要なのであって、書類が備わっていることが重要なわけではない。現場の動きができるだけスムースになるようにするには、居宅において家族が安全に行っている行為については、医師や看護職員の一定の関与さえあれば安全性は保たれるという前提で、できるだけ書類上の確認ルールはなくすべきである。そうしない限り、逆に決められた手順の書式さえ備わっておれば、実情がどうであっても結果責任は免れるという意識が広がりかねない。医療が必要な人に、必要な行為としてこの問題を考える以前に、やらなければならなくなったことについて「いかに責任が生じずに行うことができるのか」という考え方が蔓延して、本来の目的と意味を失い、利用者の不利益だけが助長されるだろう。
そもそも我々が求める「介護職員への医療行為の解禁」というものは、何も全ての行為を介護職員が看護師と同じく行えるようにすべきという主張ではない。現在「医療行為」と考えられている行為の中には、実際には同居の家族が行うことができる行為も含まれており、介護職員に一定条件下でも認めてよい行為と、医師や看護師等の有資格者しかできない行為を区分して、家族でも行うことができるような行為については適切な医療・看護の専門職員の管理下において施設の介護職員でも行うことができるようにすべきというのが我々の主張であり、介護職員への行為解禁の意味である。
家族ができている行為が介護職員に認められないのはおかしいし、在宅で認められている喀痰吸引の行為の一部が施設では認められないのもおかしい。施設サービスの現場では、在宅より一層、医師や看護師の関与は容易で、その管理下におくことも容易であり、安全性は在宅サービスの現場より高まる。家族より一定の教育を受ける介護職員の行為のほうがリスクが高いなんてことはあり得ない。
現在の我が国は、過去に人類が経験していない超高齢社会を迎えている。医療の発達の結果、医療対応が常時必要な人が医療機関以外で生活する必要を生じさせているのである。「誰もが安心して暮らせる社会」の実現のためには、高齢者や障がいを持つ方々への支援を社会全体のシステムの中で賄うという視点が不可欠であり、それは行為提供者の数が足りなくならないことも含めて考えられるべきであり、そういう行為を必要と認め拡大するのは時代のニーズである。
しかし、こんな狭い範囲の行為を認めるのに、こんな厳しい条件をつけて膨大な記録作業だけを現場に課してどのように良いサービスができると考えているんだろうか。
国の審議会委員も厚生労働省の役人も、真面目に新しい時代のニーズに応える気がないということだろう。全くこの国はこの先どうなってしまうんだろうか。
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介護職員による痰吸引と経管栄養処置について、違法性阻却として「可能となる行為の前提条件」として示されているものを整理すると以下の16点となる。→以下の太字下線が新たに必要とされると考えられる記録を示しているので参照していただきたい。
1. 入所者(入所者に同意する能力がない場合にはその家族等)が、口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養の実施について特別養護老人ホームに依頼し、当該施設の組織的対応について施設長から説明を受け、それを理解した上で、当該施設の介護職員が当該行為を行うことについて書面により同意していること→新たな書面同意書が必要
2. 配置医から看護職員に対し、書面による必要な指示があること→書面指示書が必要
3. 看護職員の指示の下、看護職員と介護職員が連携・協働して実施を進めること→指示、連携内容を証明する記録が求められるかも?
4. 配置医、看護職員及び介護職員の参加の下、口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養が必要な入所者ごとに、個別具体的な計画が整備されていること→個別計画が新たに必要
5. 施設内で看護師が研修・指導を行う等により、看護職員及び実施に当たる介護職員が必要な知識・技術に関する研修を受けていること→研修実施とその記録が必要
6. 口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養については、承認された介護職員が承認された行為について行うこと→承認された職員である証明となる何らかの記録が必要
7. 当該入所者に関する口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養について、配置医、看護職員及び介護職員の参加の下、技術の手順書が整備されていること→いわゆるマニュアルなど手順書を新たに作る必要あり
8. 施設長が最終的な責任を持って安全の確保のための体制の整備を行うため、施設長の統括の下で、関係者からなる施設内委員会が設置されていること→新たな委員会の設置とその実施記録が必要
9. 看護職員が適正に配置され、入所者に対する個別の口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養に関与するだけでなく、看護師による介護職員への施設内研修・技術指導など、施設内の体制整備に看護職員が関与することが確保されていること→これを証明する指針や記録が必要
10. 実施に当たっては、非医療関係者である介護職員が口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養を行うことにかんがみ、施設長は介護職員の希望等を踏まえるなど十分な理解を得るようにすること
11. 入所者の健康状態について、施設長、配置医、主治医(別途主治医がいる入所者に限る。)、看護職員、介護職員等が情報交換を行い連携を図れる体制の整備がなされていること。同時にそれぞれの責任分担が明確化されていること→責任分担の整理記録が求められるかも?
12. 特別養護老人ホームにおいて行われる口腔内のたんの吸引及び胃ろうによる経管栄養に関し、一般的な技術の手順書が整備され、適宜更新されていること→手順書の作成が必要
13. 指示書や指導助言の記録、実施の記録が作成され、適切に管理・保管されていること→この記録は必須。
14. ヒヤリハット事例の蓄積・分析など、施設長、配置医、看護職員、介護職員等の参加の下で、定期的な実施体制の評価、検証を行うこと→定期的評価の記録が必要
15. 緊急時の対応の手順があらかじめ定められ、その訓練が定期的になされているとともに、夜間をはじめ緊急時に配置医・看護職員との連絡体制が構築されていること→この証明となるマニュアルまたは指針などが必要
16. 施設内感染の予防等、安全・衛生面の管理に十分留意すること→管理マニュアルなどが求められるかもしれない。
以上である。このように昨日の記事に書いた「実施条件」と今日書いた「前提条件」をクリアするためには、今以上の膨大な記録と作業を必要とする。記録の簡素化が大きな命題になっていることに逆行していると思うが、それにしてもひど過ぎないか?
特養の利用者の医療ニーズとは何か、それに現実的に対応するには何が必要かということを「真面目」に考えれば、医療ニーズに的確に対応するためには、最低限でも在宅において医療の有資格者以外が行為としては可能となっている喀痰吸引は口腔内に限らず認められるべきであるし、家族が行うことができるインスリン注射や、経管栄養の濃厚流動食注入・タンクと繋がった部分(体と繋がった部分は別で、これは看護職員対応がふさわしいだろう)のチューブ交換等も認めるべきである。
特に問題なのは在宅でインスリンの自己注射ができない高齢者については、同居の家族が替わってその行為を行って暮らしを支えているのに、その高齢者に特養入所の必要性が生じても、朝食前にインスリンを注射できる看護職員がいないことが理由で入所できないケースである。そういう意味においては実際には24時間医療行為が必要ではない高齢者であっても、一部の医療行為を特定の時間に支援できないことにより特養入所ができないという問題が生じてしまっている。そうした問題と状況が解消されないと意味がないのだ。
そしてその前提条件は、安全性をいかに担保するシステムとなっているかが重要なのであって、書類が備わっていることが重要なわけではない。現場の動きができるだけスムースになるようにするには、居宅において家族が安全に行っている行為については、医師や看護職員の一定の関与さえあれば安全性は保たれるという前提で、できるだけ書類上の確認ルールはなくすべきである。そうしない限り、逆に決められた手順の書式さえ備わっておれば、実情がどうであっても結果責任は免れるという意識が広がりかねない。医療が必要な人に、必要な行為としてこの問題を考える以前に、やらなければならなくなったことについて「いかに責任が生じずに行うことができるのか」という考え方が蔓延して、本来の目的と意味を失い、利用者の不利益だけが助長されるだろう。
そもそも我々が求める「介護職員への医療行為の解禁」というものは、何も全ての行為を介護職員が看護師と同じく行えるようにすべきという主張ではない。現在「医療行為」と考えられている行為の中には、実際には同居の家族が行うことができる行為も含まれており、介護職員に一定条件下でも認めてよい行為と、医師や看護師等の有資格者しかできない行為を区分して、家族でも行うことができるような行為については適切な医療・看護の専門職員の管理下において施設の介護職員でも行うことができるようにすべきというのが我々の主張であり、介護職員への行為解禁の意味である。
家族ができている行為が介護職員に認められないのはおかしいし、在宅で認められている喀痰吸引の行為の一部が施設では認められないのもおかしい。施設サービスの現場では、在宅より一層、医師や看護師の関与は容易で、その管理下におくことも容易であり、安全性は在宅サービスの現場より高まる。家族より一定の教育を受ける介護職員の行為のほうがリスクが高いなんてことはあり得ない。
現在の我が国は、過去に人類が経験していない超高齢社会を迎えている。医療の発達の結果、医療対応が常時必要な人が医療機関以外で生活する必要を生じさせているのである。「誰もが安心して暮らせる社会」の実現のためには、高齢者や障がいを持つ方々への支援を社会全体のシステムの中で賄うという視点が不可欠であり、それは行為提供者の数が足りなくならないことも含めて考えられるべきであり、そういう行為を必要と認め拡大するのは時代のニーズである。
しかし、こんな狭い範囲の行為を認めるのに、こんな厳しい条件をつけて膨大な記録作業だけを現場に課してどのように良いサービスができると考えているんだろうか。
国の審議会委員も厚生労働省の役人も、真面目に新しい時代のニーズに応える気がないということだろう。全くこの国はこの先どうなってしまうんだろうか。
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あえて厳しいルールを設定し、外見上は「一歩前進」に見せかけ、実際にはルールで縛り付けることで前進させないようにした結果です。
これでは何も意味はないし、これだけの手間をかけてまで介護職員が吸引等をしなくてもいい、そういうりようきぼうしゃがでてもう断ればいい。
そんな流れが作り出され、時代に逆行しているとしかいえません。
お役人のお得意のパフォーマンスでしたね。