11/30日に「診療報酬はどうなる」という記事を書いて、その行方を注目していたが12/23大臣折衝で来年度予算における診療報酬のアップが決まった。その内容は
1. 診療報酬のうち、医師の技術料などに当たる「本体部分」は1.55%のプラス改定で、医療費ベースで約5700億円の増額。
2. 医科は1.74%増で、4400億円が病院中心の入院に付けられ、うち4千億円は救急、産科、小児科などの入院初期の医療に充て。
3. 診療所中心の外来は400億円という小幅増にとどめる。
4. 医薬品などの「薬価部分」は約5千億円引き下げ。
以上である。これによって診療報酬は10年ぶりに引き上げられることになったが、財源不足の影響から改定率は0.19%増(医療費ベースで約700億円、国費ベースで約160億円の引き上げ)という小幅改定にとどめられた。
今後、中央社会保険医療協議会(中医協)において報酬配分が具体的に検討され、増額分を「事業仕分け」で指摘された開業医と病院勤務医の収入格差や診療科間の格差是正の方向で振り分けられることになる。医療関係者はこの行方にも注目していることだろう。
今回の診療報酬に関しては、事業仕分けで全体の報酬総額は引き下げることが求められ、財務省も厳しい財政事情からその方針を守るという姿勢を崩さず、官僚ベースの協議ではこの殻を破ることができなかった。民主党の山井厚生労働政務官は自身のメルマガで、この折衝が大変困難となっている状況を何度か紹介している。しかし昨日の大臣折衝で厚生労働省側が要求した予算が通った。つまり政治判断で予算が復活した、という意味である。
※なお本日の山井氏のメルマガでは「医療が冬の時代から、春の時代に変わった」と予算復活が熱く語られている。〜春とまでは感じていない関係者も多いのかもしれないが、マイナス査定を覆した努力は評価されてもよいだろう。
プライマリーバランス0を目指して、毎年2.200憶円の社会保障費を削減する政策自体は、既に前政権の麻生内閣時に実質的に方針転換されていたが、新政権がマニュフェストで掲げる社会保障の充実という基本構想が来年度予算でどのように反映されるのかが、診療報酬の動向に注目する一つの意味であった。その結果が小幅であっても報酬全体が今年度よりアップされたということは、今後の新政権の社会保障政策に対する一定の姿勢を示したものと思え、長妻厚生労働大臣も「医療崩壊を食い止める改革の第1歩」と今回の報酬改定を評価するコメントを出している。
つまり次の診療報酬改定でも引き続き、報酬改善に努めて行きたいという意図を示したものと思える。次期診療報酬改定は2012年4月からの報酬改定である。つまりその時には、介護保険制度改正における介護報酬の改定時期と重なる、いわゆる「ダブル改定」である。
介護職員処遇改善交付金という事業はあくまで「時限措置」であり、これが2011年度末までという意味は、次期介護報酬改定で、この交付金分を介護報酬に上乗せしたうえで査定するという含みを持ったものであるが、交付金の申請率が9割を超えないと「必要な費用」と認められず、上乗せされない恐れもあるし、何より予算は経済状況と連動しているので、財政事情が厳しければ楽観できないという面があるが、今回の厳しい状況で診療報酬がアップしたということは、介護報酬を考える上でも(その部分のみではあるが)決して暗い材料ではないだろう。
しかし年明けには景気の2番底が間違いなくやってくる。それによって参議院選挙への影響もあるだろう。なにより景気がこれ以上悪化すると国の財政事情はますます苦しくなる。埋蔵金という1年限りの財源に頼るなんていう政策は「綱渡り」にもならないか細いものだから、景気回復は何より求められるが、トヨタ自動車が下請け各社に部品などの費用3割減を求める状況などをみると、経済状況は来年益々厳しくなる。
その中で、医療や介護の法定費用がアップするということは、国の財源面からのみならず、国民自身の財負の中身にも直接影響することで、例えば厚生労働省の試算では、今回の診療報酬アップは、年収374万円のサラリーマンで年間285円の保険料負担増となり(年収を380万に満たないモデルに置いた意味は、負担感をできるだけ軽くするために、負担増となる年収の高いモデルを意識的に排除したためだろう)、外来の1月平均の負担も7.8円増となっている。
国民負担を伴い、厳しい経済状況の中での報酬アップについて、社会全体の承認を言えるためには、社会保障費が国民の生命や暮らしを守るために最低限必要な費用であるとの国民全体のコンセンサスが必要だ。国の予算というレベルで、我々現場のサービス従事者ができることは少ないが、現場で一人一人の利用者に適切なサービスを提供して、信頼を得ることは我々サービス従事者にしかできないことである。国民に保健・医療・福祉サービスがそっぽを向かれるような状況が一番怖いことなのである。
結果的にサービスに対する高い理念を持たないと、近い将来には医療費や介護給付費も下げられ、我々の業界全体が大打撃をこうむることになる。ここの方向性を間違えてはいけないだろうと思う。
それにしても今回の診療報酬改定では、歯科の改定率が医科を上回る2.09%アップとなっている。これは全体の予算配分の中では異例の措置ともいえる。この増額の意味は何のか、その背景に何があったのかが個人的には非常に気になるところである。
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診療報酬については、医師の地域偏在とインターンの都市部集中の解消(これが難しい)ができたなら、そんなに引き上げなくても、各科ごとの調整ですみそうなものですけど。
つまるところは、ホワイトカラーである医師が地方に住んでも自分の子供達の未来に希望が持てると感じることが重要でしょう。スラム化する地方に医師は来ません。地域が経済的に疲弊してもその地域が不幸にならない政策を採れば、医師は基本的に心ある方々が大多数ですので、地方偏在は起こらないと思います。