僕が自身の講演などで時々紹介する「介護サービスにおける割れ窓理論」については、このブログ記事でも過去に何度か紹介したことがある。

この理論自体は僕のオリジナルで、今から6年以上前に提唱したものだ。

しかしこのベースになっている「割れ窓理論」は、犯罪心理学の中では有名な理論で、僕はその犯罪心理学の割れ窓を、介護サービスにおいては介護を提供する側の「言葉」に置き換えて正しい言葉を使う意味を説いているところがオリジナルなのであって、割れ窓理論自体がオリジナルという意味ではない。

もともとも「割れ窓理論」とは、言葉のとおり、建物の窓ガラスが割られた状態をそのまま放置しておくと、外部からその建物は管理されていないと認識され、割られる窓ガラスが増える。そしてそのことがきっかけで建物全体が荒廃し、それはさらに地域全体に拡大し地域に犯罪が増え荒れていくという理論である。

この理論の証明に関連して、アメリカのニューヨークでの次のような実験が行われたことがある。

犯罪の多いハーレムという地域の路上に、新品のカーオーディオを搭載したロールスロイスを路上駐車しておくと、最初の2日間は何も起こらなかったが、3日目の夜中にドアミラーが壊されたことをきっかけに、フロントガラスが割られ、車内のカーオーディオはじめ、ありとあらゆる車載部品が奪われ、最後にはタイヤさえも盗まれてしまった、という実験である。

最初、ドアミラーが壊されるまでは無傷だった車が、ドアミラーが壊されたということがきっかけで、あっという間に廃車同然の姿になってしまうのである。

この実験を教訓にして、小さなほころびをその時点で繕うことによって大きな犯罪が防ぐことが可能になるという理論であり、その実践は悪名高いニューヨークの地下鉄犯罪を減らすために、地下鉄車両や駅の「落書き」を消すことによって一定の効果があったとしているものである。

簡単に言えば些細なことと放置しておくと、 その地域の結束や自治能力が失われていく、 それに気づかず放っておくと、 どんどん悪化してしまう。 それを防ぐには、率先して小さな割れ窓を修理して、あらたな割れ窓を作らないことで、地域を改善していこうという理論である。

僕は介護サービスにおける最初の「割れ窓」が、支援者の言葉遣いであると思っている。どのような素晴らしい理念とモチベーションを持っている介護者であっても、その言葉が乱れることで、知らず知らずのうちに利用者に対する「慣れ」や「惰性」による心づかいの乱れが出てくるという理論である。

親しみを込めたコミュニケーションのためには、堅苦しい言葉づかいは必要ないと考える人もいるが、しかし我々がお世話している高齢者の方々は、我々にとってすべて人生の先輩であり、多くの場合、家族がいて、家族にとっては尊敬する「お父さん」や「お母さん」である。そういう人々にあえて言葉づかいを乱して、友達言葉でフレンドリーにふるまう必要はない。我々は家族に代わって、家族と同様の心のこもった支援をする必要があっても、家族そのものにはなれないのだから、家族であれば許される横柄さまで真似る必要はないのである。

心のこもらない言葉など無意味だという人もいるが、言葉づかいを柔らかく、適切に心かげることは態度を和らげ、適切な方向に向かわせる効果もある。

このことを僕は、言葉が変われば心が変わる〜心が変われば態度が変わる〜態度が変われば自分が変わる、と表現している。逆に言えば、言葉くらいという感覚が現場を麻痺させるのである。友達言葉で高齢者と会話する人間が、それらの方々を人生の先輩として敬う心を持って介護にあたれるわけがない。言葉により介護者が利用者を見下ろす位置に立つ恐ろしさがあることを知るべきだし、虐待はまず言葉から態度へと変換するという意識を持つべきであり、それはプロ意識の欠如にほかならない。

常にプロとして適切な支援態度を維持しようとするなら、日ごろの言葉づかいを適切にするという意識が不可欠なのであり、丁寧な言葉づかいをしている状態で、態度だけが荒れるという可能性は低くなる。つまり言葉づかいを適切にする、という意味は、介護の質を一定水準に保つための担保の一つなのである。

介護サービスにおいては「燃え尽き症候群」に陥る人も少なくないが、その兆候は第1症状がささいなことで腹を立てる、乱暴な言葉づかいをするなど「イライラ・不平・不満」であるそうだ。

そういう意味では「適切な言葉」を守ろうとしている人は、自分の心の乱れを言葉でチェックすることも可能になるかもしれない。さらにいえば「乱れた言葉」「ぞんざいな言葉」を日常的に使うこと自体が自らの心を乱すもとであると言えなくもない。

どちらにしても言葉に対する意識の薄い職員が介護職員の大多数を占めているとしたら、それはこの業界全体がプロ意識に欠ける素人集団の域を脱していないということの証明のように思う。

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