介護施設における「看取り介護」では、家族がスタッフと共に看取り介護に協働参加して最期の瞬間を「看取る」ことができる。医療機関や在宅でもそのことは可能であるが、介護施設の場合は、より家庭死に近い状況で家族が主体的に「看取り介護」に関わって、看護職員や介護職員等の専属スタッフのアドバイスと支援のもとで最期を看取ることができる安心感があると思う。

そのため、僕は「看取り介護」に関する講演等では、介護施設の関係者は、そのメリットをきちんと家族に伝えて、共に看取る体制を積極的に作るべきである、と伝えている。

その意味は、一つには、看取り介護の対象者が最期の瞬間「望んでいること」が、胸に冷たい聴診器を当てられることより、家族の「温かな手」のぬくもりを感じることではないかという意味がある。

同時に僕はそのことは看取られる側だけではなく、看取る側にも意味があると考えている。遺される家族の「心」に与える影響にも思いを寄せる必要があり、それは看取る側・看取られる側、双方に意味がある別れの時という理解が必要である。

形のない目に見えないものではあるが、亡くなられる方々の意思や思いが、遺族の人々の記憶の中に「思い出」として残っていくというリレーを繋ぎ続けるのが「人の命」であり、看取る側が、その瞬間に何を感じるかということとともに、遺された人々にとって看取りの場で感じた思いが、その後の人生に与える影響にも我々は思いを寄せる必要があるのではないだろうか。

数年前に亡くなられたAさんは、ずっと市内で一人暮らしをしていた。当初は、当施設併設のデイサービスを利用して在宅生活を支援していた。やがていよいよ一人暮らしが困難になって施設入所に至り、その後数年を施設で過ごした後、病状が悪化、医療機関に一時入院するも治療困難で、終末期であると判断され、最期の時を過ごすために退院して施設で看取った事例である。

この方が、一人暮らしとなったのは、夫に先立たれた20数年前からである。一人娘の方は、結婚当初は同じ市内に在住されていたが、夫の転勤で、神奈川県に転出し、同じく20年以上離れた暮らしを続けていた。それでも年に数度は、Aさんの様子を確認するため、神奈川から当地を訪れており、Aさんが施設入所後もそれは続いていた。

そのAさんが、いよいよ看取り介護の時期となって、施設に帰ってきた数日後、その娘さんが、最期まで付き添いたいと飛行機でやってきた。電話で連絡した際に、我々は「看取り介護の対象時期ではあるが、最期の瞬間までにはまだ時間があると思えるので、時期を見計らって、そちらで待機していた方が良いのではないでしょうか。」と勧めたが、娘さんからしてみれば、もしものことを考えたり、連絡をもらって駆けつけるとしても、数時間の空の旅が必要で「間に合わなかったらどうしよう」という気持ちがあったのだろう、我々のアドバイスは婉曲に断られた。

結果的にこの方は、看取り介護であると診断され、当施設で看取り介護に移行してから74日目に亡くなられた。つまり娘さんは、当施設で2月以上、お母さんと過ごされたわけである。当施設でも最長の事例である。

そうすると24時間、施設で過ごすわけだから、食事もコンビニ弁当で済ますわけにはいかない。施設としても食事提供や、入浴や整容の場所の提供、付き添っている居室以外でも休むことができる一人になれる「休憩室」など、様々な配慮をして、約2月に及ぶ長い期間、施設内でほぼ全時間を過ごしてもらうことに協力した。この娘さんからは「看取り介護」期間中に、施設職員が、様々な気付きをいただいたが(参照新・寂しい看取りは嫌だ〜静養室の場所 で紹介した看取り介護対象者の娘さんの言葉とは、この方のことである。)Aさんの死後にも、大変ありがたく、かつ我々も勉強になる言葉をいただいた。要約すると次のような内容である。

「私は嫁にいってから、母と一緒に住んだことはありません。たまに家に帰って1月以上滞在することがあっても、母に対して子供として十分に世話ができたことはなかったんです。そして母は施設に入って、皆さんから暖かくお世話を受けているのをみてありがたく思っていましたが、自分が遠く離れて、施設の皆さんに母をまかせっきりであったことをいつも心の底で母に詫びていました。今回、施設から連絡いただいた時、母の死を看取れなかったら一生後悔すると思って、夫にも不便をかけるのは分かっていたけど、無理を言って駆けつけました。おかげさまで最後に私は2月母と過ごせました。本当にありがたいことだと思います。今までの親不孝をとり返すことはできないけれど、最後に2月母と一緒に過ごせたことで、母に少しだけ恩返しができたと思います。私の心の中にあった重たいものも少しとれたような気がします。皆さん本当にありがとうございました。」

命はリレーだ。それを繋ぎ合うことに意味を感じることができるのが人間だ。だから看取り介護は、旅立つ人だけの問題ではなく、その命や思いを繋いでいく遺される人々にとっても意味があることなんだ。

命というものは、それほど尊い。だから我々は真剣に謙虚に、そこに向かい合う必要がある。

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