アクセス解析機能を使って、僕のブログを読まれている人がどういうキーワード検索でアクセスされているかをみると、ここ数か月「介護職員処遇改善交付金」というキーワードがトップになっている。

交付金の申請締め切り時期が迫っていることが最大の理由であろうが、同時にそれだけこの交付金の要綱が分かりづらくて、ネット検索で意味を調べている人が多いということだろう。

以前にも「介護職員処遇改善交付金はありがた迷惑」という記事を書いたが、その記事を書いた時期より、さらにこの交付金の実態が明瞭になってきたし、申請事務を行う過程で新たに分かってきたこともある。そのため、あらためてこの交付金事業を検証し直したい。前回の記事と主張の一部に重複があることを、あらかじめ断っておく。

介護職員の処遇改善、特に適切なレベルの給与支給は経営者にとって大きな課題で、職員の給与として手渡せる交付金が支給されるということは本来歓迎されるべきだろう。経営者の責任と義務として考えても、この事業を利用して給与改善等に努めるべきである。

しかし実際にはこの交付金事業は介護サービス現場の関係者からは諸手を挙げて歓迎されていない。

その最大の理由はこの交付金は2年半の時限措置で、その後に改定される介護報酬にその分が上積みされるという保証は何もないことから、基本給を上げてしまえば交付金事業が終了した後に、引き上げられた人件費支出が事業経営を圧迫すると考える経営者が多いからである。その結果、簡単に引き下げることができない基本給を上げるのではなく、交付金事業が続けられる期間に限定した一時金などで給与改善を図ろうとする事業者が多くなるだろう。

そうすると、介護職員は一時的に年収が増えたとしても、将来にわたってその水準が維持されるという何の保証もなく、毎月の収入が増えるとも限らないことから、介護を将来にわたって続けて生活設計を十分立てられるという安心感は持てないであろう。よってこの交付金事業で、他業種から介護職に転職しようと考える人が増えることは期待できないし、介護職員の定着率が現行より大きく上がる期待もできない。

この交付金が緊急経済対策であるという意味があることの一面が、こうした中途半端な形の処遇改善策になってしまったと言えよう。

また交付金支給条件は「算出された交付見込額を上回る賃金改善が必要」とされているため実際に職員の給与改善の額以上の支出が必要である。つまり交付金で支給されない事業主負担が伴うという意味である。

さらに交付金支給年度2年目以降は、賃金以外の福利厚生の充実(いわゆるキャリアパス要件)としての待遇改善をしなければならず、それは例えば、非正規職員の正規職員への配転条件整備や職員休憩室の確保、喫煙室の整備などが考えられる。しかも現にそうした体制が整備されている事業者は、さらなる条件整備が必要とされるのであるから、福利厚生が充実している事業者ほどそのハードルが高くなるという矛盾が生まれてしまう。しかも、その費用はどこからも出ないため、これらはすべて事業主の持ち出しである。

本年4月の介護報酬のアップ率はわずか3%で、しかもその多くは加算費用としてアップされているため、実際には報酬増の恩恵を受けていない事業者や、わずかな収入増加分を運営経費に充当してやっと事業継続できている事業者も多く、そうした事業者にとって、交付金支給額以上の事業主負担は経営を圧迫する要素以外のなにものでもなく、職員の処遇改善の必要性を感じていても、この事業に手を挙げられないという事業者も出てくるだろう。

交付金支給の額は、事業ごとに設けられた支給率によって違いがあるため、複数のサービス事業所を持つ事業者では、交付率に合わせた支給を行えば法人内のサービス事業毎に介護職員の給与支給額に差が出てしまうことになる。そうなれば法人内での配置転換によって実質給与引き下げとなる場合があり事業運営の支障となるだろうし、支給額を法人内で統一しようとすれば高い支給率にそろえた場合は、交付金の対象とならない事業主負担が増え、低い支給率に合わせたり、支給額を全体の平均値とした場合には、他事業所の同じサービス事業の従業者と給与差が生まれてしまうという様々な矛盾が生まれる。

さらに問題なのは、交付金は、介護報酬に一定の率を乗じて得た額を、毎月の介護報酬と併せて概算交付され、後に清算するという方法をとるため極めて不安定で不確実な収入と言える。

つまり職員給与として手渡す費用はあらかじめ決まった額であったとしても、交付金として支払われる費用は、入退所の状況や入院者の増減などで左右される介護報酬の実収入額で変動するという不安定な財源であり、当初予定された事業主負担が実際には増える可能性がある。そうした意味でも事業運営のマイナス要素とならざるを得ない。

しかもこれによって給与等がアップするのは介護職員のみである。いくら介護職員の人手不足が深刻だといっても、給与アップが特定の職種しかなされないことに他の職員の理解が得られるのかは非常にデリケートな問題で、今後の職場内の人間関係や業務運営上の問題につながる火種となりかねない。施設運営がチームによって成り立っているということに全く配慮のない交付金の考え方である。例えばこの交付金を受けるためには複雑で膨大な事務作業が必要であるが、それを担当する事務職員は交付金による労働対価という恩恵はまったく受けられないのである。そのため事務作業負担の煩雑さを理由に交付金事業に手を上げないという事業者も実際に現われている。

さらに今年度の交付金支給に必要な賃金改善実施期間は4ケ月であり、その改善額には本年4月に定期昇給した分も、ベースアップした分も、介護報酬アップに対応して給与規定を変えて賃金を引き上げた分も含めて前年度の支払賃金総額と比較してよいというルールだから、改善実施期間を賞与支払い月を含めた設定にすると、4月の給与改善だけで、今後新たに賃金改善策を講じなくても交付金受領に必要な介護職員支払賃金総額が前年度支払い総額との比較比率を超えている場合が考えられる。

つまり上記のような計算が成り立つ事業所では、交付金を申請して受け取った費用を4月に給与改善した分の補てんとして、そっくり施設収入に計上するだけで、職員には1円も手渡さなくてよいという状況が生まれるのである。これは不正請求でもなんでもなく、決められたルールにおける交付金受領である。これはあくまで4月時点である程度給与改善に取り組んでいる事業者に限られた問題であるから(当施設もこれに含まれる)該当しない事業者も多いだろうが、こうした事業者が交付金を受けても、それを職員にまったく手渡さないという状況があるとしたら、当該施設の介護職員のみならず、税金を支払う国民全体が納得しがたいものとなるであろう。

以前にも主張したが、こんな煩複雑な仕組みで、なおかつ不公平な税金の「ばらまき」なら、むしろ事業者に支の責務を負わせるのではなく、介護サービス施設や事業所は介護職員に「就労証明書」を発行して、それに基づいて介護職員自身が都道府県を通じて「介護職員処遇改善支給金」という名目のお金を受け取るシステムにするほうがよっぽど多くの介護職員にお金が公平に渡るはずである。

本来、人件費支出とは、事業経営が安定して運営できる状況下で支出されるものであるのに、交付金事業で介護職員に手渡せる財源が別にあるとしても、事業所として運営が困難な状況で事業自体が続けられなくなれば結果的にそうした事業者の職員は働く場さえ失ってしまうのだから、事業の安定経営の視点のない財源による給与・待遇改善は矛盾だらけである。特に施設サービスは収入が経営努力で上がるサービスではなく、収入上限があって、そのパイの中で人件費を含めた運営費用を捻出せざるを得ない事業なのだから、運営費の基本となる介護報酬そのものを適切な給与水準で人員配置ができる額に引き上げるという考えがなければ介護サービスの質の維持や向上には結びつかない。

政権交代で新政権が生まれたのであるから、この交付事業の支給方法や要件も見直すべきではないだろうか。1年目は現行の支給方法で実施せざるを得ないとしても、2年目以降はキャリアパス要件を中心に、支給要綱そのものを白紙に戻して再検討すべきである。

多額の税金を投入して支給される交付金が、これほど喜ばれない欠陥だらけの支給方法であることを多くの政治家が知るべきである。

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