介護保険制度における状態区分は現在7段階である。

そのうち要支援1と要支援2は2006年の制度改正から「介護予防サービス」と呼ばれ、要介護1以上の「要介護者」とサービス利用ルールが異なっている。

定額報酬サービスがあったり、予防プラン担当が地域包括支援センターに割り振られ利用者の選択性がないなどのルールのほか、要支援者は施設サービスが使えなかったり、介護タクシー利用ができないといった制限が存在している。区分支給限度額も要支援2になれば要介護1の約6割(要介護1が165.800円で、要支援2が104.000円)に減らされてしまう。

そしてこのことが実際には介護予防どころか、身体機能の低下のリスクになっている事例がある。

先日出演した「のりゆきのトークde北海道」では、生放送中に視聴者からのテーマに沿った生の声を集めて紹介するコーナーがあって、放送中にもひっきりなしに電話がなり、オペレーターが対応している。その中で寄せられた方の声の中に以下のようなものがあった。

自分は現在要介護2である。その前は要支援2であった。さらにその前は要介護2であった。

下肢の障害で入院していたのだが、リハビリの成果で歩行ができるようになり、要介護2の状態で在宅復帰して生活していた。ところが更新申請で要支援2とされ介護タクシーが使えなくなった。家から病院までは片道タクシーで3000円以上かかり、1回の通院で6000円以上のお金がかかるため、外来診療やリハビリに通えなくなり、自宅で生活を続けたが、足の指が曲がってしまって徐々に歩けなくなって在宅生活が難しくなり再入院した。現在は要介護2であるが、在宅復帰を目指してリハビリを続けているが、状態が良くなって自家に戻っても、すぐ認定が変わると介護タクシーが使えないので前と同じになるので心配である。


要約すると以上のような内容である。

都市部で公共交通機関が整備され、医療機関が生活圏域に多数存在する地域と、北海道の郡部で、タクシー以外に移動手段がなく、医療機関自体が市町村にない地域ではサービスの必要性がまったく異なるのである。特に移動手段がタクシーしかない地域では、実際に週1回の通院であろうと1回に5000円も6000円も通院費に使う経済的余裕のない世帯にとって介護タクシーは命綱である。それが「要支援2」になると使えない。

普通の感覚で考えるなら介護の状態区分が軽度化するということは「元気になる」と同義語であるはずだ。本来それは喜ばれるべきことである。しかしこの国の介護保険制度では、元気になって要介護から要支援になれば「サービスが使えない」として多くの人々が嘆き、困る結果にしかなっていない。これが制度の欠陥ではなくていったい何なのだろう。

しかも介護タクシーを使わない通院支援であっても、予防訪問介護は定額報酬で週の利用回数が決められ、その中でサービス提供時間だけが利用者と事業者の契約で決められるものとしているため、不定期でしかもサービス提供時間が不確定な通院支援は、定額報酬サービスの中に組み入れることが難しく、通常の定額報酬サービスとは別個の保険外サーサービスとされる事例も多い。そうであれば余計に経済的弱者にとって、その支援を受けることは困難になる。

介護予防という名のもので、実際には要支援者を施設から追い出し、在宅者に対しては通院手段を奪うような給付制限により、必要な医療を受けられない高齢者を数多く生み出したのが2006年(平成18年)の制度改正であり、まさに「改正」とは制度を良くするためではなく、単に制度を持続させさえすればよいという考え方にほかならず、それも財源理論からしか考えられていないと断定できる。

新予防給付が始まった翌年に僕は、兵庫県篠山市における「2007ひょうご地域ケア包括研究大会」に講師およびシンポジウムのオブザーバーとしてお招きいただいた。そのシンポジウムにおける僕(オブザーバー役)と龍谷大学教授・池田省三氏(介護給付費分科会の委員でもある)とのやりとりを再現しておく。

池田氏「介護予防サービスはエビデンスがあるサービスだから、現場できちんと取り組まれれば介護予防の効果は必ず出てくる。」

masa「池田先生は介護予防サービスの方法にはエビデンスがあるって言ってますけど、そのエビデンスのある方法論ってどこに存在しているんです?現場の全国津々浦々の介護サービス事業者にどうやって伝えられて、実際にどこでそのエビデンスがある方法が実行されているんです。僕は通所介護事業所の施設長でもありますが、そんな方法論をどこからも渡されていませんよ。」

池田氏「実際には国会を通過する時点でそれはぐちゃぐちゃにされちゃったんだよね(厚生労働省の矢田療養型病床転換推進室長に向かって)あれで駄目になったんだよね。」

まったく馬鹿馬鹿しい。現場に渡されていない方法をエビデンスがあるなんて公の場で言うこと自体が、この教授のインチキさの証明である。少なくとも給付分科会での彼の発言は国の代弁者の役割で、国民や介護現場の声なき声の代弁者ではないことの証明である。

結果として介護給付費分科会委員である池田教授があの場所で述べている意味は、正しくは「介護予防のエビデンスのある方法論は介護サービス現場に下ろされていない。よってこの国のスタンダードとしては存在せず、ある特定の場所で、ある特定の専門家だけが行うことができる方法論に過ぎない。」という事実に他ならないということである。じゃあ何のための予防給付なのか?実態はサービス抑制による給付制限であることは明らかなのである。

介護保険制度を本当に介護が必要な人々にとって役立つ制度にするためには、制度設計の基本から180度考え方を変えなければならない。

政権交代がそのきっかけになることを切に希望するものである。

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