僕が特養に就職した当時、昭和58年という時期は特養における個室化はほとんど進んでおらず、4人部屋が当たり前、運営基準上は4人を超える規模は認められていなかったものの、経過措置で古い施設では6人部屋や、8人部屋が現存していた。

その当時「男女混合居室論」というものがあって、利用者を必ずしも男女別に分けるのではなく、雑居の居室に男女混合で入居させた方が良いのではないのかという議論があった。実際にそうしている施設もあったんだから驚きである。

現在なら考えられないことだし、場合によっては人権蹂躙と糾弾されそうな考え方だと思う。当時、新卒であった僕はそんなことを行ったり、議論するような「特養という施設」は、世間の常識から離れた特別な場所なんだなあと感じた。まさに収容施設である。

男女混合居室論を唱える人々の理屈は、特養では意欲を失くした高齢者が身だしなみも構わずに、寝間着のまま、髪の毛や服装も乱れた状態で何とも思わずに暮らしている人が多く、それらの人々に「身だしなみ」を意識して暮らしてもらうためには、居室に異性の存在があって、その眼を意識したほうが良いというものであった。

身だしなみの問題を、施設のサービスの問題としないで、単に利用者の意欲や意識の問題に特化して考える理屈も疑問に感じたが、何より利用者のプライバシーのみならず、人間の尊厳というものをまったく無視していると思ったし、「くつろぎ」の場である自室を、そのような気を使って過ごさねばならぬ場所にして良いのかという素朴な疑問を感じたものである。そういう理屈を唱える人々には、利用者に基本的人権などあるという考え方もなかったんだろう。こういう暗黒の時代を経てきたというのが特養の歴史の一面の真実でもある。

人間には人の目を気にせず、だれにも気兼ねせず過ごすことができる自分だけの空間が必要である。そこでは身だしなみも、お行儀も関係なく過ごせることが大事である。そういう空間や時間があるから、服装や髪を整え人と会う機会や場所が意味を持ってくるのだ。だから本当は個室は生活施設には必要だし、雑居である多床室の場合でも、きちんと他者の視線をさえぎる環境の工夫は必要で、最低でもベッド回りのプライベートカーテンをきちんと利用する必要がある。いまだにカーテンレールにたくしあげて使えなくしているような施設は大いに反省・改善する余地がある。

同時に、こうしたプライベート空間ではどのように行儀悪く過ごしてもよいが、人間として社会性を失わず、プライドを持って過ごすためには、共用空間は社交の場として、それなりの身だしなみを整えて過ごせるようにすべきだし、それにはまず支援者がそのことをしっかり意識して、参加援助が必要な人の身だしなみを整えるという意識も必要である。認知症高齢者のケアの方法論に「化粧療法」というものがあるが、そんなものまで療法にせず、日常の身だしなみとしてごく普通に化粧をしたり、それを支援するほうが心身活性化や、認知機能の低下防止には効果があるだろう。

離床援助というが、単に「寝たきり」にならないように起こして車椅子に座っている状態を作り出しても意味はない。離床するには離床していきたい場所、過ごしたい場所があるということでなければならない。そのためには、そこで人間関係が様々な形でいかに存在するのかということが重要な要素である。会いたい人がいたり、したいことがない空間で座っているだけならば、それは単にベッドを車椅子に変えただけで、じっとしているしかない拷問と同じである。

そしてそうした場所には、それなりに「身だしなみを整えて行きたい。」と考えるのが通常の人間生活ではないだろうか。何も正装するという意味ではなく、他人と会う際の最低限のマナーとしても「みなり」であるという意味で、まさか家族以外の他人と交流する場で下着や寝間着でよいと考える人はいないだろう。

誰も身だしなみをまったく意識せず、他人の目に触れて恥ずかしいと常識的に思えるような服装でも、そのことを感じないという場所では皆が集まりたい場所にはならないだろう。

そうであるなら、そうした空間は利用者だけの問題ではないのかもしれない。支援する職員の服装や身だしなみがどうでもよい場所で、利用者だけが身だしなみを整えようとは思わないかもしれない。

業務を行う、という性質上、ある程度の制約はあるだろうが、施設やサービス事業所で、職員がこぎれいにしている、いやもっと進んでおしゃれができている事業者は案外居心地が良いということに関連しているかもしれない。

僕の施設でも、この部分の配慮や意識はまだまだ低いが、職員が、感じが良い程度におしゃれや化粧をすることももっとポジティブに考えてよいのではないかと思ったりしている。せめて施設や事業所の管理者はそのことを意識したほうが良いのかもしれない。

おしゃれなど自分には似合わないという人もいるんだろうが、馬子にも衣装と言っては申し訳ないが、たまにはそういう試みも悪くはないのだろう。

脱・制服(ユニホーム)もそうした観点から考えたほうが良いのではないだろうか。

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