社会福祉援助に携わる者は、対人援助場面で利用者(被援助者あるいはクライエントという言い方が正しいかもしれないが、ここでは介護サービスの利用者という意味で利用者に統一)を受容することが大事だという。

つまりソーシャルワーカー等の援助者は自分の標準に反するあらゆる行動を非難しがちな、人間として自然な傾向を打破することを学ばねばならないし、そのためには自らの感情を「自己覚知」によって統御する訓練が必要である。そういう意味では自己覚知は人をあるがままに受け入れるための能力を生みだすためにも必要だと言える。

利用者をあるがままに受け入れるということは、利用者の行動がどうであっても、接する場面がどのような状況であっても、例え利用者が攻撃的であっても、援助者に敵意を抱いていても、依存的であっても、ワーカーにとって不愉快であっても、あるがままに受容することである。

しかし「受容とはないか〜許容ではないという意味」という記事でも書いたが、それは全ての行動や行為を仕方ないと諦めたり、やむを得ないと許容することとは少し違う。

学生などに受容の話をすると、あらゆる行為を受け入れ、その善悪や良否の判断を下さないということについて「では犯罪者の支援に関わる際には、その犯した罪となる行動まで受け入れるのか?」という疑問が必ず出るが、その行動を受け入れ許容するわけではないし、反社会的行動そのものは少しも受け入れることはないのである。そもそも「行為を受け入れ、その善悪や良否の判断を下さない」ということは受容のすべてではなく、その概念の一部分を説明したものにしか過ぎない。

真の受容とは利用者の感情を積極的、能動的に受け入れることであり、例えば盗みを犯した人を非難するのではなく、窃盗という罪を犯したといえども一人の人間として受け入れ、そして盗みという行為を是認するのではなく、彼がなぜ盗みをせざるを得なかったのか、その原因を理解しようと努め、彼がそうせざるを得なかった感情を受け入れる、という意味である。

つまり受容とは、問題の表面の現象に眼を奪われ批判的態度で臨むことではなく、その人なりの真の問題の意味を理解しようとする冷静で客観的な態度である。

人を受容して援助に関わることは、そうしない限り利用者が援助者に適切な感情を示して信頼を持てないということにとどまらず、その根底には人間はそれぞれ違った個性をもってはいるが基本的人権には違いはなく、人として尊敬されるべき存在であるという意味があるのだろう。

自分の尺度に合わない他者を批判的にしか見られないのであれば、習慣や文化の違いによる差をも否定しなければならない。人種や容貌は様々でも、置かれた環境が異なり競争原理の経済社会の中では勝者と敗者に分かれていようとも、生まれた環境上の問題で生活条件や文化に差があったとしても、さらに究極的には犯罪の加害者と被害者という決定的な違いがあったとしても、社会福祉援助者はそのことで差別することなく、道義や行動規範に逸脱している人であっても援助は与えなければならないし、持っている基本的欲求は同じであるという理解が必要だ。

援助者と利用者の関係は個人的関係ではなく、あくまで専門職業的援助関係である。

よってそれは技術として適切なレベルでなければならない。そこには当然科学的であることが要求される。しかし社会福祉援助における科学とは、利用者のパーソナリティを分類して類型にはめ込んで数値化することではない。

社会福祉援助における科学とは、人間を全人的存在として理解することを前提にして、ある環境に置かれた、ある現象の因果関係をたどって検討することであり、そのためにケーススタディが重要視されるのである。

しかし人間は極めて複雑な生命体であり、それを囲む環境も様々である。その中で援助者のとった措置と結果の因果関係の明確化は非常に困難な作業ではある。しかし人間の幸福に携わろうとする以上、この科学的検証作業は不可欠であり、そこから人間科学や行動科学は発展してきたものだろう。

そして社会福祉援助は科学的であることと、人間への尊敬と愛情が前提になることを矛盾としない学問である。なぜならそれは人間の基本的人権を守るために、人間の基本的欲求は平等に守られることを前提に考えられているものだからである。

受容とはそういう学問の中で人間理解のために必要な援助技術としてだけではなく、人が人の精神や人間性に関わる際に、真摯に関わるために必要な精神作業としての意味があるんだろうと個人的には考えている。

ただしこういう考えは教科書や理論にはなりにくいものである。

明日は登別市社会福祉協議会50周年記念事業として市民対象の公開セミナー「認知症って何?〜認知症高齢者を地域で支えるために」が午後1時半から登別ポスフールで開催されます。僕はこのセミナーの講師と、パネルディスカッションのアドバイザーを務めるため、その準備作業やら何やらで、ほぼ半日お手伝いのため施設に不在となります。このため明日9/15(火)はブログ記事更新をお休みしますのでご了承ください。
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