施設や事業所(以下、事業者と略)に向けられる利用者やその家族からのクレームについて、事業者は真摯に対応し必要なサービス改善を行い、クレームを訴えた方々に丁寧に説明しなければならないというのは今更の常識で、いうまでもない。

しかし利用者や家族からのクレームには事業者側に非のないものも存在する。相手側の誤解によるものとか、一方的な思い込みによる偏った価値観によるものとか様々である。

その場合でも事業者は誤解や思い込みを解くように丁寧に説明責任があることは言うまでもない。しかし相手に聞く耳がない場合や、最初から高飛車で事業者は利用者側の訴えを全て聞かねば許さない、という態度のクレーマー(こうした言葉は本来・不適切だが、それ以外に表現しようのな理不尽な要求を再三続ける人間がいるのだ)が存在する。こういう輩には真摯的な対応のみではなく、毅然とした自己主張が必要な場合がある。そして時には声を荒げることもある。

昨日、とある利用者の家族からクレームがあり、僕が最終的に対応したが、市の担当課にも苦情が挙がり最終的に施設に怒鳴りこんできた。結果的にこのケースに対して僕は妥協せず、こちらも声を大きくして怒った。こちら側に非はない問題を一方的に中傷したとして逆に謝罪を求めた。

ケースはこうである。

80代の女性Tさんは、高齢者夫婦世帯であったが数年前に認知症の症状が出て下肢筋力低下も重なり家事困難となり、加えて身の回りのことを自分ですることにも支障が出て当園入所した。

しかし日ごろの意思疎通に問題はなく、日常的な意思決定も自分でできており、金銭管理等は施設で委任代行事務を行っているものの、意思は本人に確認でき、その判断で預貯金の出し入れは可能であり家族後見等は必要ではなかった。ただ家族の方はご本人の意思決定にことごとく介入したがる傾向にあり、我々としてもご本人の意思を代弁しながら家族にも事前に様々な承認を得て物事を運んでいた。

当園では今の時期、北海道の短い夏を楽しむために、要介護状態に係らず、希望される方、あるいは介護職員の代弁機能をフル活用して希望しているであろうと想像できる意思表示のできない方も含めて様々な外出機会を設けている。外食・買い物・テーマパークの観光等である。

そんな中で、このTさん「買い物外出のついでにお寿司を食べたい」という希望があった。そこで先週20日(木:僕はちょうど沖縄での講演から帰ってくる日で施設には不在であった)に買い物外出をして、その際にデパート内の「回転ずし」のお店で昼食をとって、支払いは事前に銀行預金から下ろした本人の小遣いから支払われた。

通常、こうした外出の場合には家族にも事前に連絡しておくのであるが、今回はたまたま外出が(天候や車両の都合もあり)急に決まったり、当日に担当の相談員が休みであったりして家族に事前に連絡する機会をとれず事後連絡になった。

しかし緊急性があるわけでもなく、本人の意思が十分に確認できる本ケースで、事前の家族連絡は絶対条件ではなく、それがなくても問題ないことであり、あくまで今まで事前連絡しているのはこちらの善意の結果であり、それは100%の対応以上のものであると思う。逆に言えば、本ケースで家族が事前確認した時に、それを拒否しても、本人の意思がはっきりしているのだから、その場合優先されるのは本人の意志と希望であり、家族に代理権などない問題である。

ところが当該家族は、利用者が喜ばれた状況はどうでもよく、この事後連絡が気に食わないとクレームをつけ、担当相談員を罵倒して施設長を出せ!!というわけである。こういう理不尽な要求が過去にも再三ある家族で、穏便に済ませるなら僕が事後連絡になったことを相談員の責任感が足りませんでしたと詫びて、ひたすら下手にでればその場は収まるのは目に見えていた。

しかし僕はあえてこのケース、相談員にそのような糾弾されるべき過失はないから謝るなと言い(それでも相談員は事後連絡になったことは詫びていたが)家族に対しても強く抗議した。

いつも最低限の仕事しかしないわけではなく、最大限を超える120%の対応をしている職員が、たまたま様々な状況と事情によって、いつもと違って100%の対応しかしなかったとして糾弾されることは理不尽である。それなら普段から最低限、100%にも満たない法令をクリアするぎりぎりの基準でしかサービスしていないのが普通という状態で、それを当たり前に考えて対応する質の低いサービスのほうがクレームがつかないということになってしまう。

家族は今回の対応が気に食わないから施設に預けている預金を全て引き取るという。こちらとしては費用を徴収することもなく金銭管理代行業務を行っている負担が軽減するんだから、それは逆に大歓迎である。

ただし、このお金は利用者本人のものであり、家族といえども代理権はなく、勝手に持ち帰ることはできないから、利用者本人の前で家族が自身で説明同意をとった上で施設から引き取ることを要求し、同時に、金銭をまったく預かっていない状況になり本人が使いたいときにお金が自由に使えないと困るので、家族がその際に即応するよう要求した。例えば医療機関に外来受診する場合も、送迎は施設の責任として行うが、支払いは金銭を預かっているものの責任なので、必ず家族が付き添い支払うように、必要最低限のことしかしないほうが良いのであれば施設の送迎義務のない特別な受診等は基本的に家族が対応して受診手続きや支払いもそちらで行うように、と「常識的な」要求をした。

それもカチンときたということで、保険者の苦情処理担当課にも訴えたらしい。何やら受診協力を今後はすべて拒否すると施設に言われたというように話を都合のよいように捻じ曲げて苦情を挙げたらしい。こちらとしては何も隠すべきことも、恥ずべきことも、人に後ろ指さされることもないので、事実を保険者にありのままに話すだけである。そもそも録音されていったってよいように、そのことも想定し言葉を選んで話しているんだから、変なことは言っていない。しかも施設長室を出て、他の職員が周りにいっぱいいるところであえて電話対応しているんだから、その内容を聞いていて証言できる職員もたくさんいるのである。

そもそも根本となるクレームは、意思確認ができる利用者の希望に基づいて、忙しい業務の中で、なんとかその方の希望を実現しようと、人員と時間を割いて、デパートに利用者を連れて買い物に出かけ、昼食に食べたお寿司の料金を自己負担してもらっただけであり、職員が利用者のお金で食事をしたわけでも、何か便宜を図ってもらったわけでもない。利用者自信に喜んでもらったことについて、家族が何を不平不満とするのか理解不能である。本ケースの事後連絡がそんなに悪い事なんだろうか。そんなことはないはずだ。逆に感謝されたって罰は当たらないだろうという問題である。

僕が表に立たずに、この問題を解決しようとすれば、担当相談員は「いつもと違って連絡が事後になった」ということだけで、何か大問題を引き起こしたように糾弾され謝罪して終わるんだろう。これでは当該職員の仕事に対するモチベーションも低下するし、何かをして怒られるより、何もしないで平穏穏便に物事を処理するという気持ちにつながりかねない。

今回僕は家族に対し声を荒げて抗議したことで、これは担当相談員の問題ではなく、最高責任者が僕である施設との問題になり、どのような責任が生じても担当者職員は責任をとる必要はない。全て僕の責任において処理されることになる。施設の管理者は利用者を守ることが先ず最優先して考えるべきであるが、同時に、おかしな外部の圧力からは職員をも身を呈して守る義務があるのだ。

僕の指摘にしどろもどろになった家族は、不満の矛先を次々と変え、最後には担当相談員の電話連絡の仕方が自分には納得できないと言い出した。僕はこういった。

「電話連絡ですべての正しい意思が伝わるわけではないだろう。ましてやあなたの考えているとおりに物事が伝わったり、ことが運ぶなんてことはあり得ない。自分を中心に地球が回っているとでも思っているのか!!」・・・と。

とりあえず利用者本人には迷惑がかからないようにしたいと思う。

我々の仕事について他人から感謝されたいとは思わないが、それにしても結果がすべて100%成功して当たり前で、少しのミスも許されず、ミスとも言えないような家族の意に沿わない問題でも全て糾弾対象になるとしたら、真剣に社会福祉サービスに取りもうとする有能な人材の足を引っ張りかねない。

こういう揉め事のあとは誰しも気分が良いわけがなく、ストレスもたまるのであるが、帰り際に、担当職員が廊下の隅から「ありがとうございました」と頭を下げて感謝してくれた。

それだけでよいだろう。

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