当施設には2人室が14室あるから、ご夫婦であれば例外なくご一緒の部屋で生活ができる。

しかし命に限りがあるのは世の常であるから、ご夫婦が未来永劫お二人で生活できるということはあり得ない。

当施設が増改築された年に、ご夫婦で新築した2人部屋に入居されたTさんも、数年後に夫を亡くされた。二人部屋の一つのベッドが空いたときは、さすがに寂しそうであった。しかし時の流れが心を癒し、夫を亡くしたことをいつまでも悲しんでいることはなく立ち直っていった。

その方は今でも元気に暮らされているが、ふと別な意味の哀しみを我々がそうした境遇の方に与えているのではないかと考えることがある。

施設サービスの常として、いつまでも空きベッドをそのままにしておれない。新規利用者は、誰かが退所すればすかさず入所することになる。そのとき使えるベッドが退所した方のベッドしかなかった場合、夫を亡くした妻が住むその部屋に、いつしか知らない他人が入居され、亡き夫が使っていたベッドを、知らない誰かが使い生活することになる。

それは普通に考えれば複雑な心境だろう。ある種の「やりきれなさ」を感ずることもあるだろう。

しかし僕自身も含めて、我が施設の職員が、そのことに思いを馳せていたかと考えたとき、その答えはノーである。つまりそのことに対していえば、利用者に対する心のケアを怠っていたという意味になるだろう。

ただその解決方法を見出すのは非常に困難である。他人が亡き夫のベッドを利用することを目の当たりにしないために、残された方の部屋を変えて対応すればよいということにはならない。

やはり、こうした問題には、マニュアルが作れず、それぞれの個性と向かい合って、ともに思い悩むしか方法はないんだろう。そのとき我々が、当事者の立場に立って、当事者に思いを馳せることそのものが心の支援なんだろう。答えなど誰も教えてくれない。それは我々自身が引き出す以外にないものであるが、我々が目の前の利用者を思うことからしか、それは始まらず、その過程がなければ永遠に答は出ない・・・。

あるご夫婦は、ともに軽度の認知症があり、一緒の部屋で暮らすと毎日のように夫が妻に暴力を奮い、時には額が割れるほど物で叩く行為があった。同じ施設の中で部屋を替えて別居状態にすることは、夫婦という関係を考えると異常なことだろうし、簡単に答えを出せない問題であるが、結果的には、エスカレートする暴力に対応するには、緊急避難的に部屋を別にせねばならなかった。

しかしそうした対応をとること自体は、ある意味、簡単である。部屋を別にする方針を決定して当事者と家族に説明し、場合によっては説得し、実行すればよいだけの話である。

しかしそれで解決する問題ではない。それだけでは施設サービスに関わる者の責任は果たせないのである。夫婦なのに部屋を別にしなければ支援できなかった我々の責任をきちんと考え、その後に、ご夫婦の関係が良好なものになり得るような様々な対策を考えねばならない。これにも単純な答はない。個々の状況によって異なるだろう。

先日、このご夫婦の妻の方が、先に旅立たれた。夜中に逝かれたが、看取り介護を実施していて最後の日も娘さんが宿泊しており、最後の瞬間までしっかり看取ってくださった。夫は傍らで息を引き取る瞬間、看取ることはできなかったが、夜もしっかり傍らで声をかけて、亡くなられた後は手を合わせて涙していた。通夜や告別式も、家族に付き添われ立派に務められた。

亡くなられた妻は静養室対応だったこともあり最期まで形としての施設内別居は解消されなかったが、(詳しくは書けないが)諸々の状況を振り返ると、心の部分の別居は解消された状態といってよかったのではないかと思ったりしている。いや、それは単なる、僕自身の自己満足かもしれない。

施設サービスとは、単純なルーチンワークの積み重ねでは決して終わることができない。そこには様々な個性を持つ人間が存在しているからだ。我々の「適切な対応」に、全ての人々が快く反応してくれるわけではない。良かれと思った対応が、その人の意に沿わないことも多い。その考え方自体が理不尽であったとしても、人の考え方や感情まで我々の意のままにコントロールすることはできないし、してもいけない。しかしだからといって、単純に相手の言うなりに対応しておれば良いということでもない。

だからすべて100点満点の答えを常に出せる、と考えることの方がおかしいし、そのようなスーパーマンは現実には存在しない。

だから僕らは常に考え悩み続ける以外ない。しかし施設の中に、ともに悩む人がいなくなれば、それは介護施設というものが、世間から隔離した冷たい箱に成り変ってしまうだろう。

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