特養における介護職員が行うことができる行為の拡大議論が進行している。

このことについて過去の記事との重複を恐れず考えて見たい。同じことを主張する結果になるかもしれないが、それは今回の議論の腰が砕けて、問題の本質の解決に繋がらない議論になっているからで、そのことの危機感を持っているからである。

昨年11/20「安心と希望の介護ビジョン」において、介護施設等での医療行為について、現在、在宅でしか認められてこなかった有資格者ではない者による「喀痰吸引」や、介護職員が関わることが大きな問題として取り上げられていた「経管栄養の処置」などの一部の医療行為を、特養等の施設でも「研修を受けた介護職員」に認める方針が示された。

その方針の具体化のために厚生労働省が立ち上げた医政局長と老健局長の私的研究会「特別養護老人ホームの入所者における看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」の議論が今年2月から始められ、その結果、年内に各地の特養でモデル事業を行って安全性を検証し、来年度の実施を目指す、という方針が示されている。

そこで検討されている行為は「特養等における介護施設」での介護職員が行うことができる行為だから、在宅における行為は対象になっていないということである。

しかし、少なくとも在宅では、既に「喀痰吸引」についてはヘルパーなどに対しても、行為としては認めている、という矛盾が存在する。

2003年に一定条件下でALS患者の方々の痰の吸引については「行為」としては家族以外のヘルパー等も行えるようにした。そしてやがて痰の吸引という行為は、ALS患者に限らない全ての在宅療養者に対しても可能とされた(2005年)。

しかし、それは介護業務として認められたわけではない。つまり業務上の行為としては今もって認められておらず、業務とは別なボランティア行為として行うことができるとされているもので、例えば訪問介護事業所のホームヘルパーが在宅療養者の喀痰吸引を行うことで訪問介護費を算定できるわけではない。

そのため、この行為は施設の介護職員には認められていない。施設サービスにおいて関わる行為は全て業務である為であり、業務ではない行為として区分が出来ないからである。そのため24時間医師や看護職員の配置されていない特養では、頻回に「痰の吸引」が必要な人の入所は現在でも不可能である。

この矛盾解消も含めて、今回の議論が始まったはずである。ところが・・・。

モデル事業で検証する介護職員による行為については、吸引できるのは肉眼で確認できる口の中だけで、鼻や気管切開した部分は対象外とされ、経管栄養では、チューブの接続や流動食の注入は看護職員だけが行う、とされている。

これではほとんど意味がない。危険を理由に喀痰吸引のできる範囲を制限しているが、在宅ではALS患者の喀痰吸引の際など口腔内だけでなく人工呼吸器をつけた喉の部分も含んで行うことが認められているのに、在宅より医師、看護師の管理が容易であり安全性は高まる施設における行為に、そのことを認めないのは矛盾を残したままとなる。まったく時間だけかけて実質の伴わない議論である。

経管栄養についても、体と繋がっているチューブは看護職員が行うべきであろうが、タンクと繋がっているチューブの交換は介護職員でも行えるようにすべきだし、濃厚流動食の注入だって検討されるべきである。そのほかに介護職員が出来ないことで支障を来たしているインスリン注射も検討課題だ。

在宅でインスリンの自己注射ができない高齢者に、同居の家族が替わってその行為を行って暮らしを支えているのに、その高齢者に特養入所の必要性が生じても、朝食前にインスリンを注射できる看護職員がいないことが理由で入所できないケースがある。そういう意味においては実際には24時間医療行為が必要ではない高齢者であっても、一部の医療行為を特定の時間に支援できないことにより特養入所ができないという状況が解消されないと意味がないからである。

しかしこの検討会は結果的に医療・看護団体の権益を守るために、「安全性」を錦の御旗に掲げられ、そうした必要な行為の議論がどんどん縮小されてしまって実質意味のないものになっている。介護関連団体委員の意識の低さや、力のなさも問題だろう。委員は総辞職が必要だ。

かつて在宅での痰の吸引を認める議論の際には、それに反対する立場の団体等は「吸引は気管からの出血、不衛生による感染症を招く危険があるので、看護師でないと駄目だ。」と頑強に反対していた。その検討会の傍聴席で車椅子のALS患者が、ボランティアの学生らに何度も吸引してもらっている光景がみられ、患者の家族からは「家族にやらせているものを認めないのは結局、職域・職権を侵されたくないだけ」と悲痛な声が聞こえていた。同じことがこの検討会でも繰り返されて、それに介護側が屈しているというのがこの検討会の構図である。

しかし痰の吸引が介護職員等にも認められた後「憂慮される事態」が起こったのか。そのような事実は今のところない。今後も事故がまったく起らないという保障はないが、看護職員の行為による医療事故が皆無でない現実から考えても、2003年から解禁された在宅でのヘルパーの「喀痰吸引」において、今まで問題となるような事故が起きていないという事実は、介護職員に医療行為の一部を手渡しても、今現在に増してそれらの行為によって安全性が著しく損なわれるわけではないことを証明しているといえるであろう。

何よりこの規制緩和措置で救われた多くの在宅療養者の実情をみれば、この規制緩和の方向は正しかったといえるであろう。

そういう意味でも「特別養護老人ホームの入所者における看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」の結論が、腰砕けで、現場の求めている結論が出されていない状況は非常に残念である。

意味のない結論しか導き出せない検討会に、いくら時間や金をかけても無駄である。現在抱える介護施設における問題解決に繋がらない形だけの結論しか出せないとき、この委員会のメンバーは責任をとらねばならない。

もちろんそれは介護施設関係者に向けた責任ではなく、国民に向けた責任である。

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