警察庁が2006年6月から7月にかけ、約4000人の高齢ドライバー(70歳以上)を対象に認知症の簡易検査を実施したところ、全体の23.7%に認知機能低下の疑いがみられ、2.5%が認知症であると疑われる結果がでた。

これを受けて「運転免許制度に関する懇談会」という有識者会議では、70歳以上の高齢者に義務付けられている免許更新時の「高齢者講習」の際に認知症の検査を実施して、認知症の疑いのある高齢者に対して医師の診断等を義務付ける提言を行った。それから2年以上が経過した。

しかしその後も、これに関連した法律の改正はなく、実際に高齢者講習で、その検査を行うことにはなっていない。

よって高齢ドライバーの認知症対策は、現行法律上はほとんど進展がない、ということだ。

ところで最近、高速道路の逆走による高齢ドライバーの事故のニュースが増えている。その中には認知機能の低下で高速道路であることを認知していない状況の事故である疑いが強いケースが含まれている。また介護認定審査会などの資料を読んでいると、あきらかに認知機能の低下があり、場合によっては医師による「認知症」の確定診断があるにも関わらず車の運転を行っている人が存在することがわかる。

実際に、車を運転している身内の言動のおかしさに気付いた家族が介護サービス事業者等に相談してくるケースがある。当施設にも似たような相談が寄せられることがある。しかしこれは難しい問題である。

過去にも自分の妻の面会にバイクで通ってくる夫が、面会の帰りにバイクごと転倒して骨折したことを機会に運転をしなくなったケースはあったが、認知症を理由に自ら運転をやめたというケースはほとんど聞かない。逆に、家族が心配する状況があっても自らはその自覚がなく、自分の運転技術に何の支障もないと考えているケースが多い。こういう方への説得はほとんど無意味である。

そこで、地元の警察署に、周囲で明らかに「認知症」とわかる高齢ドライバーがいることがわかった場合、どうしたら良いのか相談してみた。

すると免許証の資格取り消しは本人が申し出ない限り、家族であっても受付はできないということである。認知症になって運転が難しくなった本人が自ら窓口に、そのことを申告して免許証を返す手続きを行う必要があるということだ。

それ以外の場合は、警察署に備えられた診断書様式に医師の診断結果を記載して、公安委員会に提出すれば、公安委員会で本人の聴聞を行って免許失効の手続きが可能となる場合があるとのことであるが、本人が診察や聴聞を拒否した場合の強制力はまったくないということで、家族が心配する状況があっても事実上、本人に自覚がない限り強制力のある対応は困難であるとのことである。

認知症の疑いがある方が、自ら申告するなどということは事実上、不可能だ。認知症は「自分がもの忘れや見当識が悪化していることを自覚していない」病気であり、もの忘れを自覚して気をつけることができるレベルは単なる「健忘」に過ぎない。

そうなると何らかの法的整備がされていない現段階においては、認知症になる前に、いざというときに備えて、高齢者が自ら免許証を返還して運転を控えることを期待するしかないということになってしまう。

しかしこうした状況をいつまでも放置すれば、高齢ドライバーが増えているこの状況下、特にその中でも後期高齢者ドライバーが増える現行の社会情勢では、早晩、認知機能の低下の自覚がないドライバーによる惨事が引き起こされかねない。

だからといってすべての高齢者の運転を制限することは問題であり、それは対策とはなり得ない。

では、どうしたらよいのか。認知症対策としてのドライバーの資格条件の見直しによる、事故防止対策は、本来もっと議論され、対策が進められる必要があるだろうと思う。大惨事が起きてからでは遅いのである。

また認知症がなくても身体の衰えの自覚がある方の中には「そろそろ運転を控えたい」と考えている人もおられる。しかし実際には移動手段としての車を手放す決断のできない方も多い。実際に車がなければ、そのことが著しい生活障害となる場合も多いのである。

生活圏内に公共の交通網が発達している都市部などでは、車がなくとも、さほど苦痛は感じないだろうし、それが不可欠というものでもないだろう。逆に自家用車で移動しないほうが安全で時間のロスも少ないという地域もあるだろう。

しかし北海道などでは、数万規模の市であっても、生活圏域が広い為、徒歩範囲に生活必需品を購入したり、受診したりする場所がない地域もあり、さらに鉄道や路線バスの廃止などの影響で交通移動手段が限られてくる地域が多くなっている。そうした地域では事実上車がないと通院や買い物、公共の手続き等も困難となる場合が多い。少子化で家族や身内が少なくなっている状況では移動のインフォーマル支援も期待できないケースが増えているのだ。

この問題は超高齢社会の中で、地域生活をどのように再構築するかというもっと大きな問題になってしまうので、ここで語りつくすことはできないし、それを主題にするつもりはないが、ひとつ考えねばならないことがあると思う。

高齢者が何らかの障害が発生する前に、運転免許を返上することが可能となる条件は、その後に、車による移動という手段がなくとも生活に不便を感じるデメリットが少ないことである。そこをカバーする何らかの仕組みなり方法なりを作り出していくことが不可欠であるということだ。

例えば免許を自主的に返上した高齢者に対しては、公共の交通機関の無料パスを配布したり、定期券を購入する際の特別割引制度を作ったり、地域全体で車がない高齢者世帯に対する移動手段の確保を支援する制度があっても良いのではないかと思ったりしている。

介護・福祉情報掲示板(表板)

(↓1日1回プチッと押してランクアップにお力添えをお願いします。)
人気blogランキングへ

にほんブログ村 介護ブログ

FC2 Blog Ranking
(↑上のそれぞれのアドレスをクリックすれば、このブログの現在のランキングがわかります。)