老人保健施設、通称「老健」は老人保健法に位置づけられて誕生した施設である。

その際の位置づけは「中間施設」と呼ばれる独特の性格を持つものであった。これは当初純粋に医療機関と居宅の中間に位置する施設で、急性期・回復期のリハビリを医療機関が担った後、家庭復帰を前提に、家庭生活をスムースに送ることができるリハビリテーションを行いながら3ケ月あるいは半年程度の期間を目安に滞在するリハビリテーション施設という意味であった。

しかし実際には、この中間施設の位置づけが必ずしも医療機関と居宅の間という位置づけではなく、医療機関から退院した人が介護施設に入る間に一時的に滞在する施設という意味をも含めて考えられる傾向があったし、実際、この施設が創設された当初から在宅復帰率より他施設入所による退所率が高い施設があったことも事実である。

それでも老健は長く、一時的な滞在施設で終生施設ではないし、長期滞在施設でもない、という認識と位置づけで存在してきた。

それが大きく変わったのは介護保険制度の創設によってであり、老健も介護保険法の中で「介護保険施設」と位置づけられたことによる。

介護保険施設は滞在期間により報酬が低くなるというルールがない。また在宅復帰率の達成義務等は介護保険法上にはない。(※在宅復帰率の高い施設に対する加算報酬があるだけである。)

よって現実として、介護保険制度以後、老健施設利用者の長期入所という状況が出現してきて、施設によっては在宅復帰率が介護保険法以前と比べて著しく低下している施設もある。また運営方針として「中間施設」という機能を放棄した状況で長期入所を前提に受け入れている施設もある。

これに対して国は再三、老健の中間施設としての機能がなくなったわけではないとし、時の老健局長によっては「在宅復帰機能を持たない老健は、老健の看板を下ろしてもらわねばならない。」と発言したりした。

老健が「訪問リハビリ」の指定を受けることが出来るようになった制度改正は、実はこの在宅復帰機能をあらためて確認して、在宅復帰した老健利用者がスムースに在宅でリハビリを受けられるようにしたものである。しかしこの老健の訪問リハビリは「みなし指定」ではないため、指定を受けない老健も実際には多いのである。

しかも揺れ動く国の政策によって、老健の位置づけそのものがますます見えにくくなってきている。特に療養型老健の出現は、老健という施設が介護療養型医療施設廃止の受け皿のひとつになっているという意味があり、それに対応した新たな施設だという意味が強いが、老健と名乗る以上、その影響を既存型老健が受けないわけがなく、ターミナルケア加算が算定される療養型老健と、それが算定できない既存型老健の垣根は、今後さらに低くなり、それは既存老健の療養型老健化という形で現われてくるであろうと予測している。

現実にターミナルケア加算を算定できない既存型老健についても、利用者やその家族からターミナルケアが求められ、それを実践している施設もある。

それに対して関係者から老健はもともと中間施設だから「ターミナルケア」は最初から想定しておらず、それを行うことは無理がある、という声が聞こえる。

確かにターミナルケアに関する報酬算定ができないことは、それに関わる費用を施設が現行報酬から持ち出すということであるが、それでは看取り介護加算ができる以前から、ターミナルケアに取り組んできた特養等と同じではないかということになり、この理屈のみではターミナルケアを行わないという説得力に欠けるので「中間施設論」がここで前面に出されるわけである。

中間施設であって、在宅復帰を主に目的としている施設であるから老健としてはターミナルケアを行わない、という考え方自体を僕は否定しない。ある意味、それも見識の一つであり、そういう方向での老健運営があって良いと思う。

しかし同時にそうであれば本当にそうした老健は在宅復帰機能を持ち、在宅復帰率が高く、在宅復帰した利用者に訪問リハビリも指定を受けてサービス提供し、居宅介護支援を積極的に行うべきであると思う。

都合の良い部分のみ中間施設であるという論理を使い分け、実際には長期滞在施設であるということではその施設の存在意義自体が不明瞭になってしまうであろう。

もともと医療費がマルメであり、主な医療に際する薬剤費等が医療保険算定できず老健自身の持ち出しであるというルールは、ターミナルケアを行う条件としては非常に問題であると思う。しかしこれに関しても今年の診療報酬改定で、抗悪性腫瘍剤について「疼痛コントロールのための医療用麻薬」については老健でも別に医療報酬が算定できるなど、確実に老健でもターミナルをという流れが療養型、既存に関わらず強まっていると考えられる。

そんな状況下で、中間施設としての機能を前面に打ち出すならば、それ相応の実効性ある在宅復帰機能を施設全体が理念として構築して、地域の中にその機能を広く周知していくことも必要ではないかと考える。

特養の施設長という門外漢が、老健施設論に足を踏み入れるのは僭越と思うが、第3者の老健に対する認識という部分から考えていただきたいと思う。

それだけ老健の機能が見えにくくなってきているという意味があるのだから。

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