介護サービスの現場でも人事考課による成果報酬が取り入れられている事業所が多くなっているという。

しかしこの人事考課と成果報酬がサービスの質を良くするのだろうか?僕はそのことには大いに疑問を持っている。

そもそも介護サービス事業における成果とは何だろう。収益か?サービスの質か?実は両者は「介護サービス」という現場では相反する場合があるのだ。

商品を売るサービスならば、単価が消費者の手の届く範囲であれば、商品の品質を高くすることでより多くの商品が売れて収益に繋がる。それを開発したり、セールスで販売実績を挙げた社員が、その収益の一部を成果報酬として受け取ることはある意味「わかりやすい」といえるし不合理さはそこに存在しない。

しかし介護サービスに関していえば、例えば施設サービスは「顧客確保」に困ることはない。極端な話、サービスの質が高かろうと、低かろうと施設サービスを利用したい「顧客」はたくさんいるのであり、この点では売り手市場である。よってサービスの質は顧客確保の絶対的な手段ではない。

しかも施設サービス費は一部に加算報酬はあるが、サービスの質によって大きく単価が変わる仕組みにはなっておらず、アウトカムの評価にはなっていない実質的な記録報酬となっている加算報酬は存在するものの、その額もわずかで上限がある。

つまり入所定員が決まっている現状の施設の収入は基本的には利用者の要介護度に応じた上限のある報酬である、ということである。いくら頑張っても商品販売のように、収益が無制限に挙がるわけではなく、人件費は上限のある一定のパイの中で配分されるという特徴がある。

すると介護報酬の算定方式の中で収益を上げようとすれば、それは収入を増やすのには上限が存在するんだから、出る金を少なくするしかない。特に介護サービスは人によって提供される行為そのものが商品と同様なのだから、この単価としての人件費を下げることで収益が大きくなることになる。

そこで行われる人事考課と成果報酬とは、成果を上げる職員に対して報酬を厚く見る視点よりも、成果を挙げられない職員の給与を低くする目的で行われる傾向が強いという職員のモチベーションを下げる方法となっている。

しかも決められた報酬の中で、出来るだけその上限に近い報酬を得ようとすれば、要介護度の高い人を受け入れることになる。それは良いとして、その報酬を守る職員が成果として認められるとしたら、極端な話、自立支援に結びつくサービスを行って一生懸命利用者の出来る行為を実現して結果的に要介護度が下がれば施設の収入を下げるサービスを行ったとして成果として認められないということが考えられる。

また施設の支出という面から考えれば、できるだけ支出を減らすサービスが施設収益を挙げる訳だが、そのためには利用者の希望や思いや生活の質をまったく考慮することなく、機械的に施設が決めた「最低限」の身体介護を行っておれば良いということになり、地域との交流機会の確保としての外出支援や、行っても報酬に加算されないイベントや行事など心身活性化効果に繋がるものを徹底的に省いたサービスを行うことになり、そういう面からサービスを組み立てる職員が評価されることになってしまう。

つまり施設の収益を上げる=職員の成果という単純な構図なら、利用者を寝たきりにして要介護度だけ高く維持し、お金のかかるサービスを一切行わない、手間も金もかけないシステムを守る職員が評価されてしまうことになる。これではとんでもないサービスが介護現場に生まれてしまう。

しかも人事考課は上司の人を育てるという行為を自然に奪って、職員のモチベーションをますます下げる結果を生む。それはなぜか?

成果主義は評価が難しいと誤解されるが、実は逆に簡単なのだ。評価の書式などコンサルタント会社にお金を払って依頼すれば簡単に手渡してくれる。その表面上の内容を埋めるだけで機械的に点数をつけていけばよいのだから上司は何の判断も下さなくてよくなる。

しかし本来の介護サービスの場面では、人相手のサービスであるがゆえに「教科書ではそうなっているけど、〇〇さんの表情を見た?どこか嫌がっていたよね、それって何故だかわかる?」というような人の感情にアプローチする方法も含めたアドバイスや評価が不可欠であるのだ。ところが、このように細かく評価を下すことを人事考課による評価は奪っていく。成果主義で「客観的」に項目を埋め数字で評価をつけていく方が楽だからである。

結果的に動作の評価はできても行為そのものの評価はしなくなるから、業務としてできていても、人の心に暖かにアプローチする支援者を育てる結果にはならない。

だから人事考課と成果報酬は介護サービスの質を下げこそすれ、上げることはないし、その中で介護職員のモチベーションは下がり、他業種への人材流出をも促進こそすれ、減らすことはなくなるという結果になる。

そもそも既に一般企業ではこの成果主義を見直す動きが出ている。成果主義型の人事評価制度を導入した日本企業の多くで、職場のチームワークが崩壊するといった弊害が生じ問題となっており、三井物産のように成果主義の誤りを認めて制度を変更した会社もいくつか出てきている。

このことについて高橋伸夫東京大学大学院経済学研究科教授は
優秀な人材は若いうちにいろいろな経験を積まなければ育ちません。いろんなことに挑戦して失敗を重ねながら成長していく。失敗をするのが当たり前なのだから、それをいちいちとがめるのはおかしな話でしょう。ですから、経験を積んでいる間は給与を固定すべきで、結果に応じて差をつけることはすべきではありません。成長して責任を取れるようになったら、そこで給料や昇進を結果にリンクさせればいい。かつて日本企業は年功制の下でそうした賃金制度を実行してきたわけです。」と述べている。

介護施設等のサービス現場でも「人事考課・成果報酬」が21世紀の施設運営に必要なシステムなんて無批判に評価する人がいるが、そのことは自体が時代遅れで間違った発想である。

そもそも人事考課が必要なのは職員ではなく、施設長や管理職であるなんて思われる事業者が実に多いのではないだろうか。

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