僕の小論文が掲載されている冊子が送られてきたので読んでいると気になる記事に出逢った。理学療法士の方が拘束廃止の取り組みに関連して「ベッド柵の廃止」という小論文を書いている。

それによると普通のベッドに柵はない。そうした普通のベッドを使うことが「その人らしい暮らし」であるという主旨である。

身体拘束廃止に関連しては、ベッドから自力で降りられないように柵でベッドの周囲を囲むことは「拘束」に該当し許されることではないが、しかし全面を囲わない片側1本柵はどうなんだという議論が常にある。

今まで僕は、このことに関して「形」から判断するものではなく、その目的が利用者の行動制限であるなら身体拘束だし、そうではなくベッドからの転落防止の為や、起き上がりのときに掴む為の目的であるのなら拘束ではなく問題ないとしてきた。

しかし、この小論文によれば柵そのものは本来、ベッドには必要のないもので、寝返りや起き上がりの自立に必要なら、柵ではなく掴むところを別に作るのが本来で、1本柵であろうと、2本柵であろうと「駄目」であるとしている。

なるほどと思った。個人的には「寝返りや起き上がりの自立に必要なら柵ではなくつかまるところを別に作る」という意見までは全面的にはうなづけない。「別なつかまるところ」を作らなくとも柵がその役割をするのであれば、それを使っても問題はないと思う。柵そのものが生活の雰囲気を壊すものではないし、しつらえとしてふさわしくないともいえないからである。

しかし気がついたことは、ベッドには柵がつきものという固定観念は医療や介護の現場特有の価値観で、日常使うベッドには確かに柵などついていないということである。よく考えると旅先で宿泊するホテルのベッドに柵が着いていたら違和感を持つだろうと思った。

施設の入所者の方にも本当は不必要な柵が使われているのではないか?

確かに柵の部分に手をかけて上半身を起き上がらせたり、そこを掴んで立ち上がっている人が多い。しかしそれは柵がそこにあるからそうしているというだけで、ない場合は、それなりに別のところに手をかけるだけなのかもしれない。

そういう意味では、誰かが退所して使わなくなったベッドに柵をしてつけたままにしていたり、新規入所者の受け入れの際にベッドメークをする際に、アセスメントも何もせずに習慣的にベッドの両サイドに柵をして利用者を待つような状態は「疑問である」ことに気づかされた。

そこで早速、施設内を巡回してみた。柵を全く使っていないベッドはない。しかも硬い柵に手足をぶつけて傷がつかないように、クッションとなる素材を巻きつけて使っている柵がかなり目立つ。

自力で移乗・移動する人も、全面的に移乗介助が必要な人も、寝返りも自力でできずベッド上の動きもない人も、すべて等しく柵が使われている。本来、寝たきり高齢者の自立度C2に該当するような自力での動きのない方に柵は必要ないであろう。また捉まって起き上がったり、立ち上がったりする必要のない人も柵は必要ない。

布団が落ちるのを防止するなんていうのは柵の本来的目的ではないし、その効果も必要性も疑問である。

ただし現在高齢者に該当する人の生活習慣は、過去において畳に布団を敷いて寝ていた人が多いので、医療機関に入院したり、施設に入所して始めてベッドを使う人も居り、そういう方は転落の不安があって柵をしてほしいという人もいる。

そういう場合の柵は否定されるものではないだろうが、今までのようにベッドに柵をするのが当たり前と考えるのはやめようと思い、早速、各フロアの責任者に必要のない柵を精査するように指示した。もちろん、その必要性が理解されるように、僕が読んだ論文をコピーして、僕自身のコメントも添えて考えてもらうようにお願いしている。

どういう結果が出て、何台のベッドの柵が外れるか注目している。

ただその意味は単に柵のないベッドを増やすことではなく、不必要な柵がないか考えることによって、我々の心の中の見えないバリアを明らかにすることである。

それによって、もしかしたら柵だけではない、不必要な他のバリアが見えてくるかもしれないのである。大事なことはそのことである。

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