インドネシアとの経済連携協定(EPA)が今国会で承認されるのが確実になったと報道されている。これにより看護と介護分野にインドネシアからの労働者が就労可能になる。

しかし報道によれば、介護福祉士として働くには、大卒もしくは高等教育機関(3年)の修了者で、半年程度の介護研修修了などの要件があり、インドネシアには現在、介護福祉士の研修システムがないため第1陣は看護師資格を持った人に限られる見通しである、とのことである。

看護師も介護福祉士も日本の職場で就労した後の一定期間内(看護師は3年以内、介護福祉士は4年以内)に日本の資格を取得せねばならず、これをクリアしないと帰国せねばならない。特に看護師はインドネシア国内で看護師の実務経験があるものが要件になっているが、介護福祉士の場合は実務を経験していないものもこの対象であり、果たして日本で期間内に働きながら資格を取得することが可能なのか、不安を持つ人は多いだろうし、そのことがネックになって応募者が定員に達しない恐れもあろう。(受け入れ人数は2年間で1000人:看護師400人、介護福祉士600人)

しかしながら一番の問題は、この協定の発効の目的が「人手不足の解消の為の外国人労働者の受け入れ」ではないという国の考え方である。

厚生労働省はこの受け入れの理由と目的を「人手不足だから受け入れるのではなく、労働市場の開放を求めるインドネシア側の要求に応じた特例的扱いで、EPAで受入れを盛り込んだことに対応した措置」としている。そして人手不足については「資格がありながら働いていない潜在看護師が55万人、潜在介護福祉士が20万人いる」として、これらの人材活用を図るものとしている。

この見解が本音なのか業界団体の反対の声を意識したカモフラージュなのかは定かではない。

背景には日本看護協会と日本介護福祉士会も外国人労働者の受け入れには厚生労働省と同じ理由を挙げ反対している、ということがあるんだから・・・。

しかし少なくとも「潜在有資格者の活用」という問題に関して言えば、その具体的な対策は何も示されていない。単に職場環境を改善して「やめない職場を作れ」といっても、多くの職場で現場職員が抱えるストレスは人員不足から来る過重労働であり、その根本原因は低賃金あるいは労働に見あわない対価による離職である。

離職者が増えることで残った職員にも過重労働負担がかかり、ここの部分を多少の賃金アップで補おうとしても、必要な人員配置ができない状況での賃上げでは、フルスロットルで回転しているエンジンにさらに負荷をかけて能力以上の力を引き出させようとする結果にしかならず、エンジン自体が早晩壊れてしまう結果を引き起こす。

しかし実態として「正職員」で雇用できる人数をそう増やせないし、臨時や嘱託職員を雇用しようとしても「志」はあっても「生活」ができない状況では他業種へ人材が流れてしまう。悪循環が解消できないのである。

看護協会は「勤務形態を多様化して人材を確保すべきだ」というが、なんと間が抜けた意見だろうか。

そんなことは既に行なわれていて、しかしそれが結果的には「勤務形態の多様化=正規職員ではない勤務形態の増加」という現在の状況を生み出し、正規職員ではない職員が簡単に他業種、多職種へ移動してしまうことにより離職率を高めているのである。

しかも正規職員自体の待遇も上げられない状況は、他業種との格差が広がり若者の介護現場への就労意欲を著しく削いでいる現実となっており、このことに眼を向けないととんでもないことになる。

例えばグループホームのユニットケアは優れているとはいっても、新設ホームで職員を雇用して、その職員達が素晴らしいケアをして、そうしたすぐれた人材が10年経っても給料が3万しか上がらない、という状況で働く人などいるわけがない。

また潜在有資格者といっても、看護師や介護福祉士は資格自体に定年も更新もない資格である。資格はあるが既に体力的に就労は不可能な年齢層の方もこの潜在有資格者の数字には含まれているということである。実質、就労可能な潜在的有資格者はこの数字よりかなり低いであろう。

そもそも資格を持っているにも関わらず就労しない理由は、(勤務形態を多様化して働きやすくなる可能性がある主婦層など)家庭の事情であることも理由の一部ではあろうが、根本的には資格をとったときの「動機付け」が就労継続する「動機付け」とはイコールでない、ということなのであり、資格がある人は「掘り起こせばかなりの数の人が働いてくれるだろう」という見込みは大甘な見込みで、何の根拠もない。

わが国の今日の少子・高齢化の状況をみれば生産労働人口の激減は不可避であり、他職種もふくめて労働者不足も不可避なのだから、外国人労働者の受入れということは、その対策の選択肢の一つとして考えられて良いと思う。

しかし介護現場に限って言えば、報酬評価の方法や、サービス評価の方法論が、少子化で労働力が減る時代であるにも関わらず、以前より一人の要介護者に人手を数多くかけてケアする方向に偏りすぎている。

ケア単位の小規模化と拡散は働き手の確保の面では大きなネックになり、人材確保ではなく人員確保しかできなくなる状況を生みしつつある。現に岡山県で明るみになった指定を取り消された劣悪なグループホームでの高齢者虐待問題。報道では虐待を理由に指定取り消しになったグループホームは全国で初めてだというが、とんでもない間違いで06年には札幌でも同じような取り消し事例がある。ユニットケアだから質が担保されるなんていうのは幻想である。

少子高齢社会ではもっとスケールメリットが発揮できるケアシステムにも注目して、サービスの質は人手ではなくシステムに置かせ、国民にはケアスタイルの選択性を保障するシステムに変えていくべきだ。

「金は出さない、人手はかけさせる」では、そんな制度など持続できるわけがない。

介護・福祉情報掲示板(表板)


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