また国による作為的な世論操作が始まったのか?

3月31日の「介護予防継続的評価分析等検討会」において厚生労働省は2006年4月の介護予防事業の導入前後で1年間の要介護度の変化を比べた場合、「悪化」が占める割合が導入前の3.5%から導入後は1.9%に減少したという仮集計結果を報告している。

発表数値を検証してみたい。まず「要支援でも要介護でもない特定高齢者の介護予防事業導入前後の状態変化の差」を見てみると、発表では06年4月以前の特定高齢者については05年8月の要介護度を調べたところ要支援・要介護になった人が3.5%で、維持・改善が96.5%であるのに対し、07年1月以降介護予防事業に参加した特定高齢者の11月の状態は悪化が1.9%で、98.1%が維持・改善であるとしている。

この改善数値の比較にどれほどの有意差があるのだろうか。

そもそも対象者がまったく違うカテゴリーの比較は意味がない。ある共通項目があって比較検討できるならともかく、そのときの調査対象者が健康状態や身体状況がまったく違っているにもかかわらず調査で2ポイント程度の差が出てもサンプルの差異以上のなにものでもない。

むしろ国は介護予防対象者を増やして給付抑制をしたいのは明らかなのであるから、特定高齢者の予防事業や新予防サービスは効果があるという結論がまずありきで都合の良いサンプルを引っ張ってきているのに、この程度の差異しか出なかった、とも言えるのである。

そもそもこの調査が「07年1月以降介護予防事業に参加した特定高齢者の11月の状態は悪化」である点に注意が必要である。「07年1月に参加した」ではないのである。「07年1月以降参加した」という意味は意地悪く考えると10月に参加した人の11月の状態変化はなく「維持」という数値が調査結果に含まれている可能性もあるのではないか?

どちらにしても制度改正前の調査の対象者の調査サンプル数と期間、それと今回のサンプル数と期間、対象年齢構成をほぼ同じにして比較するのが最低の条件であるにも関わらず「仮集計」とはいえ、そのような数字は示されていない。国民に対し新制度における「介護予防事業」は有効なサービスであるという作為的なイメージ作りをしているのではないかと疑念を強く持たざるを得ない。

要支援者への「新予防サービス」にしても導入前の04年1月から12月まで要支援でサービス利用(旧法による予防サービス:旧要支援者のサービス)した人の調査では、要介護1以上になった人が15.2%で、維持・改善は84.8%であるのに対し、07年1月から11月までに新予防サービスを利用した人は悪化が7.3%、維持・改善が92.7%であるとしている。

ここでは8ポイント近くの差異を出しているが、これも対象調査群がまったく異なり比較対象にならない。しかもサンプル数はわずか全国で2741ケースである。少なすぎる。なぜ制度の根幹に関わる調査なのにこれほどサンプル数が少ないのだろうか?うがった見方をすれば全国レベルで大掛かりに平均値を出せば国の意図する結果とならない可能性が高いからではないのか?要介護度の改善を見込める地域を想定しての調査にはなっていないか?

そもそも新予防サービス移行後の調査対象者が、どのようなサービスを改正前とは違って受けているのかがまったく不明である。例えば通所サービス事業所の中では、アクティビティ加算しか算定せず選択サービス(運動器向上プログラム等)を実施していない事業所もあるし、実施していても利用者が選択していないケースも多い。逆に制度改正前から個別リハビリなどマシンを使ったプログラムを利用している人もいる。

その結果、改正前と改正後におけるサービス利用方法にほとんど差のない人も含まれていると言うことであり、場合によっては新予防給付対象者となったことで出来高報酬から定額報酬に変わったことを理由にサービス利用回数が減らされている人がいる。今回の調査で改正前より要介護度が改善した人は利用回数が減った人が多いという結果も示されているが、それは単に「要支援1」の比較的元気な高齢者がサービス利用回数を減らされた、ということがその調査結果の本質ではないか?

単に制度改正前と改正後という比較は意味がなく、サービス利用形態が改正前と改正後に有意差のある一つのカテゴリーを対象に比較検討すべきである。特に加齢による自然な衰えは介護度に大きく影響するので最低でも比較対象群は年齢構成をある程度そろえなければならない。

比較する基準も不一致で、健康状態や身体機能のレベルがまったく異なるカテゴリーを比較しても意味がないのである。

介護保険法附則では「介護予防は施行後3年をめどに費用や効果を見直す」しているが、このための検証数値としてまず「介護予防は有効」という結論ありきの集計であると思えてならない。数字だけを一人歩きさせ国民を欺く作為的世論操作が行われているのではないかと危惧する。

現に一部の新聞報道では既に「介護予防施策導入により維持・改善する人の割合は増加し、悪化する人の割合は減少した。」(北海道で一番読者の多い業界専門新聞の4/10号より抜粋。)と報道されている。これは国の発表内容の報道という意味にとどまらず、事実として介護予防は効果があることが証明されたかのような印象を読者に与える。それで良いのだろうか?現時点でそれは事実ではないと思う。特に「介護予防継続的評価分析等検討会」でも委員の中からも調査結果の分析結果には慎重な声も出されているんだから、この事実も伝えないと「真実」に迫ることはできないだろう。

最後に昨年10月に行われた兵庫県篠山市における「2007ひょうご地域ケア包括研究大会」のシンポジウムにおける意見交換会での僕(オブザーバーとして参加)と池田龍谷大学教授(コーディネーターとして参加)とのやりとりを再現しておく。

僕「池田先生は介護予防サービスの方法にはエビデンスがあるって言ってますけど、そのエビデンスのある方法論ってどこに存在しているんです?現場の全国津々浦々の介護サービス事業者にどうやって伝えられて、実際にどこでそのエビデンスがある方法が実行されているんです。」

池田氏「実際には国会を通過する時点でそれはぐちゃぐちゃにされちゃったんだよね(厚生労働省の矢田療養型病床転換推進室長に向かって)あれで駄目になったんだよね。」

つまり介護給付費分科会委員である池田教授がこの場で述べたことは「介護予防のエビデンスのある方法論は介護サービス現場に下ろされていない」という事実に他ならないということである。

方法論のない介護予防サービスに効果があるのかはなはだ疑問であり、あの調査会集計の結果もはなはだ疑問である。

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