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厚生労働省は既に、要介護認定を全面的に見直す方針を固めている。

2008年度に各市町村で新認定ソフトによるモデル事業を実施し、2009年度には新認定ソフトによる認定審査をスタートさせたい、というのが国の思惑である。

その理由として、現在の判定では基礎データが古く市町村間のばらつきも指摘されており抜本的な見直しが必要と判断したということである。調査内容については心身の状態をきめ細かく把握するため判定に必要な認定調査票に「洗濯を1人でできるか」といった日常活動や「損得の判断力」といった認識機能などを問う項目を追加している。

さらに手続きも簡略化するとしている。

さて、それはどういう意味があり、どのような結果をもたらすのであろうか。

おそらく調査項目の見直しは、その内容を見てわかるように、高齢者だけではなく若い障がい者をも含めた認定基準に対応していると思える。つまりこの認定ソフトの改定の一面は、介護保険の適用年齢を引き下げることに対応したソフトともいえるのである。

また「手続きも簡略化」の意味するところは、現行のソフトでは要支援2と要介護1の区分が出来ず、要介護1相当として結果を出し、予防給付(要支援2)か介護給付(要介護1)かの判断は認定審査会の2次判定で導き出す方式をとっているが、新ソフトではコンピューターの1次判定の際に、要支援2と要介護1の区分をコンピューターによる判定として行うものである。

しかもである。ここに大問題が隠されている。

新判定ソフトでは、現行のソフトで1次判定結果が「要介護2」とされるケースの一部を何と「要支援2」と判定するロジックになっているのである。2段階も軽度に認定されるロジックが一部の状態像にかかってきているのである。

つまり現在、要介護2で介護給付サービスを受けている人で、状態に何の変化もなく、認定調査結果も変わらないのに(一部新項目は増えたり、現行の項目で削除になっている項目はあるが)、新判定ソフトでは「要支援2」と判定されるケースがあるということだ。

新判定ソフトを使った介護認定において認定審査会で予防から介護に変更するルールは明らかにされていないが、現行のルールを鑑みると審査会のその裁量は著しく狭いものであり、そのまま1次判定を踏襲して判定結果を「要支援2」とせざるを得ないケースは多いのだろうと考える。

すると認定ソフトが変わっただけで、状態が変わっていないのに介護サービスを受けられなくなる人が数多く出現するという結果となる。

この割合についてであるが、現行の判定で「要介護1相当から要介護1と判定された者」+「要介護2と判定された者」のうちの3割程度が「要支援2」という1次判定結果が出る、と予測されている。おそるべきロジックである。

実はこのことは2006年2月に書いた『介護保険制度、次期改正への布石。〜この改正で見える二つの「影」』のなかで僕は「次回の改正では予防給付の範囲を、認知能力の悪化していない要介護2の一部にまで広げるという議論が必ず出てくるということである。」と予測しているが、その懸念が制度改正以前にソフトの改定で実現してしまうことになる。つまり新判定ソフトとは明らかな給付抑制ソフトである。

利用者にとっても大変な問題であるが、同時にそれは居宅介護支援事業所の顧客がますます減ることも意味している。居宅介護支援事業所は生き残ることができるだろうか。

居宅介護支援費に給付管理加算をつけて引き上げるという議論は、実は介護給付の対象者自体が減ることを前提にしている節がある。介護サービスの計画数が減った分を、居宅介護支援費引き上げ財源に考えているということで全体のパイ自体はできるだけ引き上げない方向である。このような「取り引き」に一部の業界団体が乗っかっているかのような動きも見え隠れしている。

そのような動きを考えると、おそらく国は体力があり「特定事業所加算」を算定できるような規模以上の事業所だけが残れば良いと考えているのではないか。言葉は悪いが制度当初に問題視され否定されていた「囲い込み」を行ってサービスを一元的、多角的に提供する事業者の方が費用対効果が高くなることに着目して、それが居宅介護支援費を大きく引上げなくても済む「安上がりのサービス体系」として、暗黙のうちにそれを推し進める政策誘導をしているのではないだろうか。

同時にこのことは、要支援2の対象者が増えることにおいて、それは「予防サービス対象者」が増大することを意味しているが、それらの予防プランを地域包括支援センターが担うことをも意味している。しかしこれだけ増え続ける予防プランに地域包括支援センターの手が回っていくのだろうか。

そのことを疑問視したとき、見えてくるのは「地域支援事業」を含めた予防サービスは、将来的には予防プランも必要としない保険外の市町村事業に変えたいというのが国の本音ではないかということである。

この2つの考え方はまったくの杞憂なのだろうか。そうであれば良いのであるが・・・・。

ともかく間もなく各市町村で始まる新ソフトによるモデル認定事業の際には、調査員も認定審査委員もこのことに注目して、必要な意見を現場から大いに発信していただきたい。

市町村の担当者の方々についても、新判定ソフトが「改正」であるから、それに沿ったルールの理解のためにモデル事業があるなんていう馬鹿げた呪縛を解いて、心静かに冷静にその問題点を見つめて共に考えてほしい。

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