もう20年以上前の話であるが、施設実習の指導担当だったことがある。

介護実習の場合も現場の指導担当者である介護福祉士のスーパーバイザーの立場から、週末に実習カンファレンスを主催して実習生の指導を行っていた。

実習最終日には総まとめとして、講義に近い形で独演会を行っていた。当時の実習生には迷惑だったろう(笑)

その講義内容は常に同じではなかったが、2点だけ必ず同じことを繰り返し話していた。

一つは、高齢者の性格も様々で「ネアカ」な高齢者だけが幸せだと考えるのは間違いであるが、我々はすべての高齢者に「笑える」という環境を提供するのも大事なことであるという点。これについてはこのブログでも「明るい老後って何だろう。」の中で書いているので参照してもらいたい。

それともう1点。介護者のスキルは想像力と創造力が決め手である、ということである。

例えば今、我々の目の前にいる認知症高齢者の方が、我々に理解できないような行動をとっているとしても、必ずそれには理由がある。その理由を一生懸命考えて、想像した答えの中から、それに対応する個別の方法を創造しよう、という意味だ。想像力が足りないと正しい答えを導き出す可能性は低くなるし、創造力がないと考えるだけで具体的サービスに結び付けられないという意味のない結果で終わってしまう。

つまり既成概念や今までの方法論だけにとらわれないサービスが必要とされるとき、現場の職員はその能力の限り想像力と創造力を働かさねばならないし、この想像と創造の容量が大きければ大きいほど、多くの対象者の個別性に寄り添うことが出来るという意味がある。そこからしか個別ケアは生まれないのである。

ところで、この想像力も創造力も鍛えないと年とともに急激に衰えていく。頑固頑迷とは想像力と創造力が退化した型である。

しかし年をとっても素晴らしい想像力と創造力を失わずに、我々が気付かない「あっと驚く」介護の方法論を考えつく人がいる。今日はその方のことを書くことにする。(年をとってもという紹介の仕方は少々失礼ですが、僕より先輩ですから若くはないことは確かですので、あしからず・・。)

その人とは僕の管理サイトのリンク集に掲載している「老人介護についての個人的HP」のウエッブマスター・越後のスーパーPT大渕氏である。

氏のサイトの中の機器のコーナーのページに載せられている『これがポータブルな「トイレ」です!!』と認識を迫るポータブルトイレ〜 一発ネタ 〜』を見て思わずうなってしまった。

ポータブルトイレが認知できない歩行障害もある認知症高齢者に対するポータブルトイレの工夫として作られた「光るポータブルトイレ」が紹介されている。その詳しい内容については、貼り付けているサイトを直接ご覧になっていただきたい。

何より感心するのは、大渕氏の想像力と創造力の容量の大きさである。

我々なら認知症高齢者のケアを考える場合、馴染みの用具とか昔の習慣という既成概念にとらわれすぎて、このケースのような場合も、光るポータブルトイレなど想像も出来ず、むしろ「便器」そのものを置いてしまうことしか考えつかないだろう。ポータブルトイレが光れば、それはむしろ認知症高齢者にとって「トイレ」と認識されずかえって混乱要素になるのではないかと考えて、このような工夫を行うことはまったく想像できないであろう。

しかし大渕氏のサイトを読むと理解できるが、本ケースでは、きちんと認知症高齢者の混乱可能性もアセスメントがなされている。氏曰く「このおかげで認識が高まり、危険な場面が減ったか?それとも、夜間に暗い部屋の中でボワヮ〜と光るこの物体を、何か怪しい怖いものと認知して、かえって不穏に陥ったか?その後の報告は、まだ届いておりません。最初はちょっと混乱しても、そのうち馴染んで間違いなくこのトイレを認識して使ってくれたらよいのですが・・。ダメならダメで、また次の手を考えましょう。」とあくまでポジティブに可能性を見つめている。

その背景には数多くの経験と、介護用品に対する深い知識があるという意味があることは見逃してはならない点である。

つまりこの取り組みは、突飛な発想による根拠のない試行ではなく、知識と技術に裏打ちされた試行といえるであろう。素人で何も知識技術がなく予後の見込みもないまま「とりあえず試してみる」という対応とはまったく別物である。

そして、その結果として「混乱」が生じる可能性も予測の範囲に置き、しかしそれは致命的なものにはならず、そのときの対応で克服できるという見込みをアセスメントの中に含んでいる。

氏は「本人様にとって真に有益な、必要のある道具であっても、必ずしも既製品があるとは限らない。でも、私たちがきちんとその必要性を認識していれば、このページのように、ちょっとした工夫と手間で、対応できます。」と述べている。

既製品がなければつくっちゃおう。これほど創造性の高いものはない。

残念ながら氏の領域に僕は100年経ってもたどり着かず、想像力と想像力は年とともにさらにその差が広がっていくだろう。その差を補う為に、せっせと大渕氏のサイトを読んで日々勉強するしかない。

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