このところ介護療養型老健の話題が多いが、来月から新たに制度に位置づけられる新施設であり、ここに来て実態が見えてきた部分が多いので、この話題が増えることをお許しいただきたい。

介護療養型老健の新報酬から考えたこと。」の中で書いたが、(重複を承知で再度書くが)介護療養型医療施設から転換する介護療養型老健の報酬を算定できる条件としてあらたに

1.「算定日が属する月の前12月間における新規入所者のうち、医療機関から入所したものの割合と家庭から入所したものの割合の差が35%以上であること」

2. 算定日が属する月の前3月間において、入所者及び当該介護老人保健施設が行う短期入所療養介護の利用者のうち「経管栄養」もしくは「喀痰吸引」を実施しているものの割合が15%以上又は「認知症高齢者の日常生活判定基準」におけるランクMに該当する者の割合が20%以上であること。

上記の2つの条件をいづれも満たさねばならないという基準が設けられたことを書いた。そして要件が合致しなくなった場合において、一定期間で改善がされない場合は、既存の老健になってもらうということが厚労省の方針であることも書いた。

しかしこのルールには大きな問題が含まれていることに気付いた方が多いであろう。

そもそも転換型の介護療養型老健にこのようなルールが設けられた背景は、介護療養型老健は既存の老健とは異なり、リハビリと在宅復帰機能を中心にした施設ではなく精神的ニーズ(認知症対応の)も含めた医療ニーズがある方の受け入れ先であるという性格を現したものである。

一面これは介護療養型医療施設の廃止議論とは大きく矛盾しているとも考えられ、ならば介護療養型医療施設を残す形で制度設計をやり直した方が矛盾はなかった。つまり介護療養型医療施設の廃止と転換型の介護療養型老健の新設は、あくまで給付費抑制という政策上の問題であったということに過ぎない証明がここでされているようなものである。

さてそのこととは別に、このルールの問題を考えてみる。

上記のルールについて国は「一般病床等の退院者の受け皿としての機能」と「入所者に一定の医療ニーズが高い」ことの条件として挙げている。

この条件に合わなくなった場合は、介護療養型老健よりさらに月額平均で利用者ひとりあたり25.800円報酬が低い既存老健の報酬算定になってしまうのであるから、介護療養型老健は常にこの基準値を下回らないように「努力?」をする結果となることは明白である。

するとどのようなことが起こり得るか、容易に想像できるのではないだろうか。

つまり『「経管栄養」又は「喀痰吸引」の実施割合15%以上』←このことが絶対条件であるのだから、これを下回らない為に、新規利用者受け入れの際に医療区分が低くても経管栄養を行っている対象者を受け入れるという選択肢以外に、この比率を下回らない為に安易に経口摂取から経管栄養への移行が行われてしまう、という可能性が否定できなくなるということである。

例えば経口移行加算とか、経口維持加算とか、食事の経口摂取への取り組みは加算で評価されているが、これは個別の加算評価であり、いくらこの取り組みで加算を算定できる利用者が増えても、結果的にそのことにより経管栄養の方の比率が規準を下回れば、全員分の基本報酬が月額単位で25.800円も減額されてしまう。

これでは経口摂取を維持したり、移行したりする「動機付け」は著しく低下するだろう。

よって経口摂取している人を無理して経管栄養に移行させることはないにしても、少なくとも経口摂取が少しでも困難になってきつつある人に、経口摂取維持の取り組みを行ったり、現に経管栄養を行っている人の状態を確認して経口摂取の可能性を見つけ、それに取り組むという意識にはなりにくく、そうした努力は積極的にはされないという可能性は高い。

しかも厄介な問題として、介護の手間として食事摂取を考えるなら、食事全介助する手間は大変大きなものがあるが、経管栄養なら看護処置という問題さえクリアできれば「介護の手間」としてはほとんど「ない」といってよく、介護職員の労務負担の「大変さ」で言えば、圧倒的に食事を経口から全介助で摂取する方が大きな負担となる。

そう考えると看護師が夜間を含め常に配置されている(40人以下の規模を除く)介護療養型老健では、経管栄養に移行しやすい土壌がもともとある上に、このルールで経口摂取維持が動機付けに欠く状況になり、本末転倒ではあるが、安易な経管栄養への移行が進みかねないという問題を秘めている。

これは大きな矛盾であり、懸念されるべき問題である。

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