昨日のニュースで高齢者虐待防止法施行以後、同法違反による始めての逮捕者が出たことが報じられている。

多くの方がご存知だろうが事件概要は以下の通りである。

数年前から父親と2人暮らしであった西東京市の43歳の女性宅は近所では「ゴミ屋敷」として有名だった。自宅敷地は門から玄関までの約5メートルの間がゴミで埋め尽くされ、大半がネコのエサの缶詰。周辺には悪臭が立ちこめている。「野良猫を家で餌付けしていたようだ」(近所に住む男性)との証言がある。

容疑者は数年前から、行政側の訪問や立ち入りを拒否。昨夏から父親の安否確認ができなくなっていた。市職員が再三訪問していたが立ち入りを拒否。18日にも父親の虐待調査に訪れた市職員と警察官を家に入れず「出て行け、不法侵入だ」などと騒ぎ調査を妨害したため高齢者虐待防止法違反(調査の拒否)容疑で逮捕された。父親は保護され、現在入院中だが結核の疑いがあるものの命に別条はないという。

家の中もゴミで埋め尽くされ、床は見えずゴミに埋まった室内では調査員の頭が天井についてしまう場所もあったとのことで尋常な状態ではない。なお容疑者は「プライバシーの侵害だ」などと話し、取り調べにまともに応じていないという。

このニュースから事件を考えたとき、二つの側面からの検証が必要だと思う。

まず一つには「高齢者虐待」とはまったく別個の問題としての側面である。つまりこの容疑者である長女には精神疾患あるいはピック病などの若年性認知症があったのではないかという検証である。

長女は以前は近所でも評判の「綺麗なお姉さん」であったという。それがある日から急に髪の毛も梳かず、ぼさぼさで、着替えもほとんどしなくなり、兄弟である長男との接触と音信を拒否し、父親にも逢わせなくなっている。

正常な精神状態とは思えない。

特に前頭葉や側頭葉の一部の障害によるピック病の場合、生活の大部分は正常な状態で営まれるが、一つの物事にこだわりがあったり、同じ行動をとり続けたり、反社会的行為として症状が現われることが多い。容疑者となった長女が「野良猫の餌付け」という行為にこだわり、家の中や周囲をゴミで埋め尽くし(おそらく身体状況にも問題がある)父親と外部の関係を遮断するなどの行為をみてとるとその疑いも大いにあるように思う。

地域の中で、家族や地域住民に大きな被害が及ぶ前に、虐待としての調査ではなく、本人の精神状態や認知症の問題としての支援を行うシステムや意識が地域行政や住民になければ、地域の中で性格とか性癖の問題ではない「病気」のために出現する「ゴミ屋敷」や「騒音おばさん」の問題が今後もいたるところで増え続けるのではないかと考えている。

もう一つは逮捕に結びつく前の段階で、立ち入り調査や警察の介入ができなかったのか、という問題の検証である。

本ケースは父親は娘が逮捕されたことによって初めて悲惨な状況から救い出され医療機関での治療が可能になっているが、これはまかり間違えば「生命の危機」に直結しかねない問題である。

地域の中で周辺住民との大きなトラブルを抱え、問題が表面化している家庭の中に高齢者がいて、その高齢者の安否確認が半年以上前からできない状態になっても、今日までほとんど玄関払いで対応できなかった現実は、人の命を救うという緊急的対応の手段としては大いに問題があるように思う。

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」の第11条(立入調査)や同法12条(警察署長に対する援助要請等)の規定措置が、もっと速やかに運用できないのだろうか。

個人の住宅への立ち入りという問題は確かにプライバシーの問題も絡んで難しい問題であるが、普段の生活ぶりや地域の問題となっている今回のケースのような状況の家庭で、高齢者の安否確認ができない状況が生じた場合は、月単位ではなく週単位で安否確認するという対応を考えても良いのではないだろうか。そのことによって容疑者の逮捕という以前に、父親も娘も保護対象者として支援できる可能性が出てくるように思う。

この長女に逮捕監禁という法的な罰則を課したとしても、それはほとんど意味がないことで、保護あるいは治療、あるいは療養こそが長女に必要であるように思えてならない。

この法律の目的は逮捕される容疑者を作ることではなく、高齢者虐待という状況を作り出さない、あるいは虐待という状況を社会の影に押しやらないためであることが最も大事な視点であることを忘れてはならない。

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