1昨日、昨日に続く、龍谷大学・池田教授の主張に対する疑問である。

氏は日本の介護保険制度は諸外国に比べて国民所得に占める介護給付費の割合はトップ水準であると国際比較している。それゆえ介護保険は「贅沢」に作られている制度だという。しかしこれを制度の贅沢さとみるのはいかがなものだろう。

そもそも社会システムも制度体系も目的も違う各国の介護給付費は一様に比較できない部分が多い。民間サービスの位置づけも様々であり実質「官」の役割を担っている国もある。それゆえ制度の贅沢さとは、それによって実生活部分にその贅沢さが反映されている状態であって、はじめて使える言葉ではないのか。実生活の生活レベルの視点なしに社会保障制度を語れるのであろうか。

国民所得と生活水準は、例えば生活に不可欠な食にかかる費用などにも目を向けて考えねばならず、米国の食料の所得に比しての安価さは、介護サービスに個人の資産を活用し対応できる基盤となっており、社会保障の一翼を担っているといっても過言でない。

生活水準を健康で文化的な面から考えての必要な給付費と考えれば、諸外国との国民所得に占める介護給付費比率のみから判断して贅沢であるということにはならない。

さらに氏の主張によれば、介護保険の給付費が要介護度5で在宅35万8300円、特養なら27万5000円の給付を受けているに、スタッフの給与は一体いくらなのか、と問いかけ、少なくとも30万以上もらうのが当然ではないかと言う。

それはそうだろうと思うが、ここで氏の理論展開は、では現実には介護スタッフは20万しかもらっていないのであるから、支給限度額も施設の給付費も35万8300円、27万5000円から下げろという論理展開であり、それで使えない部分は自己負担で賄え、という意味を含ませている。

しかし介護スタッフの給与とは介護給付費で支えられているものではないか。

支給限度額や給付費が下がった分を、すべて自己負担で補えるほど格差社会の現状は甘くない。すると氏の主張する方向に向かえば、事業者の収入はさらに低下して、スタッフの給与にもそれは反映されざるを得ず、介護労働のワーキングプア化はより一層深刻化するだけではないか。

ここの部分はいかにも学者の理論で、現実に介護労働の場で、職員が労働対価として得る給与に心を痛める現場の経営者とは乖離しすぎているし、それは現場の従業者の声ともかけ離れたものである。氏の推進する方向に向かえば間違いなく、この国の介護労働は崩壊する。彼らの目指す「持続可能な制度」の中身がいかに空疎で貧弱なものであるかの証明であろう。

しかも一番の問題は、介護給付費を下げる為の理由としている、過剰サービスは要介護度を悪化させるという証明データを出しているが、それがひどく根拠に欠けるという点である。

もともと過剰サービスが要介護度を悪化させるという根拠データは日医総研が島根県で行った調査結果を元に給付費分科会で議論されたが、後にこれは平成16年度介護給付費実態調査で軽度者と中・重介護者の重度化率は同じと否定されたという経緯がある。

そこで給付費分科会では、最終的に鹿児島県保健福祉部「居宅介護支援事業所の実態調査」というデータを出し、この中で要支援者中、ほぼ毎日(週29回)サービス利用した群における要介護度悪化が高割合という主張をしている。そして今回の池田教授の講演でもこのデータを根拠資料と紹介している。

しかしこれはまったくひどいデータである。何しろ「ほぼ毎日(週29回)サービス利用した群における要介護度悪化が高割合」といっても何と、これは総サンプル数310人というわずかな数のもので、しかも毎日サービス利用はわずか2人しかいない。この2人の悪化をもってして高割合としているのだ。

そもそも、ほぼ毎日訪問介護を使っている軽介護者など認定審査会を5年以上行っている経験からもそういない。それなのにわずか310のサンプルに2人もそれが入っているのがおかしくないか?そういうサンプルをあらかじめ組み込んだ操作データではないかという疑いが強い。

毎日サービスを利用して要介護度が悪化するのではなく、おそらく要介護度にマッチした状態像ではなく、実際は要介護度がもっと重度な状況になっていたためにサービスを利用せざるをいえなくなった人が更新時に状態像に即した認定を受けたに過ぎないということも考えられるのであり、このデータを根拠にする限り、例の島根県データの際の状況を鑑みても、国の考え方に誘導すべく情報操作が都合よく行われている、としか思われないのである。

それよりむしろ東京都で行われた軽度者の重度化要因調査研究報告書(05・NPO法人地域保健研究会)の調査結果のほうが実態をより正確に現していると思う。

この中で、要介護度が2年間で悪化した100人の調査について、その要因は多い順から
1.疾病 44件
2.認知症 39件
3.加齢による脆弱化 23件
4.家族関係 15件
5.転倒 14件
となっており、ヘルパーによる家事代行など過剰介護は0となっている。

結論として言えるのは、介護予防という面から言えば、恐いのは過剰サービスより過少サービスで必要な支援が行われないことであるといわざるを得ないのが本当のところであり、池田氏の主張はまず給付抑制ありきの論理としか考えられないのである。

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