認知症高齢者の特徴的な行動のひとつに、何でも色々なところから物を持ってきて集めてしまうという行為がある。

こうした行為を収集癖というが、そのことを単に認知症の周辺症状と捉えるだけでは問題の本質はつかめない。

ひとつ言えることは、認知症の方が物を集める行為には、それなりに意味があり、それをやめさせたり、持っていったものを無理に取り返すことによって、周辺症状が悪化したり、新たに出現したりする場合が多いということである。

過去の経験談である。

食事の際に食卓につくスプーンを持って帰って、キャビネットの引き出しの中にしまいこむ方がいた。ある日、そっと確認すると十数本のスプーンが入っている。それとお絞り・・・とはいっても当施設の場合、使い捨ての紙お絞りを使っているので、一度使って捨てるべき紙、それが乾いたもの・・・が一緒に入れられている。

不潔であるし、きっとしまいこんで持ってきたことも忘れているんだろうと考え、キャビネットを掃除して、スプーンを回収し、お絞りの紙を捨ててしまった。

そのときから、この方の「家に帰る」という訴えが始まった。ここには泥棒がいるというのである。もちろん、しまっていたスプーンやお絞りがなくなってしまったことを指しているのに間違いない。

認知症の方の周辺症状に対しては受容が大切だというし、そのことは充分わかっているつもりでも、このような失敗を犯してしまう。なぜその方がスプーンやお絞りを集めてしまいこんでいるのかという考察がないまま「しまっていることも忘れているだろう」という勝手な判断で対応したことが間違いの元である。

考えてみれば1回の行為で、十数本のスプーンが集められるわけもなく、毎回その方は同じ場所に、持ち帰ったスプーンとお絞りを入れているのだ。わからないはずがないし、その行動には意味があるということだ。その意味を考える手間を省いた為に生じた問題で、まさに問題ケアである。

さて、収集癖といえば、特徴的なのは紙を集める人が非常に多いということである。トイレットペーパーや、手拭用のペーパータオルなども持っていてしまう人がいる。失敗例で示したように、1回使って本来捨てるべき紙お絞りでさえ大事にしまいこむ例が数多く見られる。

それはみんなで使うものだから置いておきましょう、といって一旦理解してくれる人もいれば(それでもあとから同じ行動を繰り返す例が多いが)、絶対に自分のものだから持って帰ると譲らない人もいる。この場合は、逆らっては駄目である。素直に持ち帰っていただいて、そのことを忘れる人なら、あとからそっと元に戻すことも可能だが、忘れてくれない人には、色々な試みが必要で「私、紙がなくて困っているんです。それを貸してもらえませんか」と頼むと「仕方ないねえ」と渡してくれる場合もあるし、まったく頑として聞き入れてくれない時もある。

そういう場合は、また別な方法を考えねばならない。一時的にはあきらめて放っておく、というのも一つの手である。そして対症的な方法ではなく、紙を集める原因に思いを寄せて、なぜ集める必要を感じているのかという考察が必要である。ともかく無理に取り返すことだけはしてはいけない。必ず何かの問題がそこから生まれてしまう。そしてそれは利用者の問題行動ではなく、我々の問題対応の結果の行動なのである。

考えてみると、トイレットペーパーやペーパータオルなどは、今でこそ、そこらへんにある日常用品かもしれないが、今のお年寄りが子供の頃、若い頃のことを考えると、それらは決して、いつでもそこにある「つまらないもの」ではなく、高価で大切なものだったのではないだろうか。

紙お絞りを1回使っただけで捨てるなんていうのは贅沢すぎる、と感じているのではないだろうか。そして今使わなくても、いざというときに、それがあれば助かる、と考えているのではないだろうか。

それらの高齢者の過去の暮らしを考えると、全て満ち足りていた時代ばかりではなく、常に「いざという心構え」が必要なときが実際に長くあって、必要なものが手にできない日々を数多く経験してきた世代なのではないだろうか。

だから物を集めるというのは、彼らの不安感を解消する為の自己防衛行動の一つなのだ。それが身の回りにあることによって安心しようとしている。そしてその不安の原因は「そのものがない」ということに限らず、自分の行動がわからないなど、彼らの身の回りのあらゆる出来事と繋がった不安と混乱なのかもしれない。だからそこに手当する視点が「寄り添うケア」の第1歩である。

そういう意味から「物を集める」という行為を見ると、もう少し理解的に、受容的にそうした行為を繰り返す人々を見つめられるのではないだろうか。

今より少し優しい眼差しでそれらの方々の行為を見つめたとき、別の対応方法が思い浮かぶかもしれない。意味のある行動として、その行為自体は理解的に考える態度が受容の始まりであるのだから。

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