北海道旭川市の訪問介護員養成校指定事業者が、資格取得に必要な課程を終えていない受講者82人に修了証明書を交付し「修了した」と道に虚偽の報告をしていた。さらに証明書を交付しながら道に報告していない事例も他に80人近くいて、そのほとんどが履修不足であると報道されている。

介護保険の訪問介護サービスは訪問介護員の有資格者しか行えないことはいうまでもないことであるが、その資格の認定に関してこのようなずさんな取り扱いがされていたということについて考えると、この資格に対して著しく国民の信頼感が損なわれる結果になるのではないかと懸念せざるを得ない。

しかしこの状態は特別なことなのか?実際問題、履修状況を都道府県がすべて正確に把握できるのかということを考えたとき大きな疑問を持ってしまう。

この問題も「告発」により発覚したものであるが、逆に言えば告発がなければ実質行政チェック機能が働いていない、という現況が見て取れるのではないだろうか。

現行では養成事業者が修了証明書を交付してしまえば、道は簡単な書類審査しか行っていないのが実情だから、こうした本来の講習未修了の資格要件に欠けるヘルパーが現場で訪問介護業務を行っていてもわからない、という実態がある。

しかもこうしたずさんな取り扱いをしている事業者の方が、必要な講義等を行わないのだからコストがかからず儲かるし、資格は「とりやすい」ということになると、制度のことを充分知らない受講生は、逆に数多く集まる、ということになりかねない。結果的に不正が明るみになれば受講生自身に被害が及ぶものであるが、そのことまで受講前に認識できる人は少ないだろう。

しかし、こうした状況を放置すればヘルパー資格不要論はますます加速し、結果的に養成事業者自体の首を絞める結果になるのではないのか?介護の基礎資格を介護福祉士に統一しヘルパー資格を無くす、という議論は結論が出ているわけではないが、既成事実としてその流れが捉えられていく中で、この問題は影響が大きいだろう。

またこうしたずさんな取り扱いを行っている事業者で行われる講座が、介護現場の有資格者を養成するのにふさわしい内容で行われているのかさえ疑問をもってしまう。

ただ問題はそれだけにとどまらず、ヘルパー養成講座は学科と実習の両方があるが、学科に試験があるわけでもないし、実習といっても数日間の内容で、履修さえすれば修了証明は受講者全員に与えられる。

僕の施設にも、この実習で勉強にはいる方が年を通じると何人か居られるが「この人がこの実習を終えたら訪問介護員の資格で実際の介護の場に入れるの?」という状態の方もいる。

他者とのコミュニケーションがまったくとれず「性格的に苦手で」と言い放つ状態でも数日間、ここで指導を受ければ資格のための講座修了証明をもらえる。実習先は評価さえできないのだ。

僕の施設で実際にあったケースでは、例え3日間であろうと、その状態で利用者に接することに「危険性」を感じて実習をお断りしたことも過去にはある。そういう方も別な場所で実習を終えれば結果的にヘルパーとして資格を与えられるわけである。

これって結構恐ろしいことのように思える。ゴールドプラン、新ゴールドプランで定めたヘルパー有資格者の養成の数値目標が、歪んだ形で現われているのではないか。

介護の現場では介護職員不足が大きな問題となっており、定着率の低さが低賃金と低待遇の問題として語られているが、それが最大の理由であることに疑いはないものの、こうした有資格者の大量生産により、質の低下が招いた様々なひずみが、志や知識技術の高い有資格者の足を引っ張る原因にもなっている一因に思えてならない。

看護師に比べ、介護職員の待遇が向上しない原因は、歴史的経緯にとどまらず、知識と技術の獲得度合いの差にあることも疑いようのない事実であろう。

数が足りないという問題は大量生産で補えばよい、という問題ではなく、生活に関わる有資格者なのだから、質の確保のための必要な養成課程を考え直すべきだろう。

養成事業者の責任は当然あるし、現時点ではそのモラルに頼らざるを得ない要素は多いが、根本的に介護職員の資格問題は、適切な知識と技術が担保される養成過程の方法の問題として見直していかねばならない。

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