昨年の制度改正で、特養でのターミナルケアの評価に関連して「看取り介護指針」を独自で作ってインターネットで発信したことから、様々な場所で「看取り介護」の講演を行う機会が増えた。

道内に限らず道外へも出かける機会がある。受講対象者も福祉関係者のみならず、医療関係者であったり、一般市民であったり様々である。

そんな中、医療関係者が多い研修会で、特養の制度上に位置づけられた加算報酬のルールを含めた「看取り介護」の話をすると、必ずと言ってよいほど質疑の際に、会場の医師の皆さんから出される共通した疑問と懸念がある。

それは特養のターミナルケアが報酬上の評価となったことに関して、それを算定する為に安易に必要な医療対応を放棄あるいは排除してしまう恐れがないかということである。

そしてそれに関連して、きちんとターミナルケアの時期が判定され決められているのか、本当に現在行われている看取り介護の決定過程が当事者である利用者にとって納得できる手順を踏んだ透明性のあるものであるのだろうか、あるいは当事者にとって最良の方法であるのか、という懸念である。

しかし我々が特養の中で行っている看取り介護は、制度改正以前であろうと以後だろうと、その時期の判定は、施設の職員と利用者の家族等が勝手に行っているものではなく、医療機関での積極的な医療対応を行うべきか否かを含めて、利用者や家族が選択決定する最終段階では、必ず医師がそこに介入し、選択できるような病状説明が行われた上で、医療機関で対応しないという希望が許されるか否かについても、最終的に医師が病状から判断して決定している。

このことは改正制度後の加算ルールの中でも「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した者であること。」とされており、最終的に医師がそのことを判断した場合にしか実施できない。

施設のトップや担当職員は、常日頃から利用者本人の終末期における希望を、あらゆる方法で確認し、認知症で判断できない人でもアボドカシーという観点から代弁できる意思の確認を行っている必要はあるものの、最終判断に施設の収益とか都合による何か曇りがある観点が入り込む余地はない。(そもそも30日限定1.600円の単価報酬など加算ルールをクリアする対応にかかる諸経費を計算すれば収入面ではメリットがほとんどないことは「看取り介護へ寄せられる疑問に答える」の中で詳しく説明している)

つまり医師が最終決定判断に深く関わっており、その判断の中には特養でどのような看取り介護が出来るかということも判断基準とされるという意味であり、その結果として施設側は、施設における看取り介護として、出来ることと、出来ないことを計画書の中で示して利用者や家族に同意をとることになる。

そうであればこの問題は、施設にその実施の是非を問う以前に、もっと医師間で終末ケアとは何かが議論されても良い問題であり、本当に必要な治療とは何かという問題を議論するのであれば、特養での看取り介護のあり方だけを問うのではなく、在宅でのターミナルケアについても論じられる必要があろうし、何より医療現場の延命治療の実態について、例えば人工呼吸器の装着や、その取り外しの判断の問題も含めて今何が起こって、何が問われるべきなのか、社会全体でトータルに「人の生と死」という問題として、それに関連する医療対応の問題が議論されるべきであろうと思う。

この問題に関して言えば、僕自身の価値観を他者に押し付ける気持ちは毛頭ないし、それは行ってはいけないことだとは思っている。

しかし医療や介護の現場では、ぎりぎりのところで本人が判断できず、家族などの当事者が命に関連して様々な状況で、差し迫った選択を行わなければならない状況が現実にはたくさんあるのだ。

実際、僕にも昨年経験した差し迫った状況がある。

父が急にデパートの買い物中に倒れた際、一時心臓が停止し、救急搬送された病院で再度心臓が動いたものの、その後の対応として人工呼吸器を装着するか、しないかという判断を、倒れた父に代わって、母親とともに選択しなければならない状況に置かれ判断した経験がある。その判断は間違っていなかったと思っているし、今は亡き父親も、それが正しいと言ってくれるとは思う。

しかし僕らにはそうした選択のための病状説明や情報提供の機会があって、それに基づいて判断したが、多かれ少なかれ、医師から現在の状況や今後の予測に関する部分の意見を聞いたことが、その判断に影響していたであろう。そこにそれぞれの医師の価値観が介入する要素があるのかもしれない。

この判断基準には、重篤な状況となった当事者の安楽な状態とは「どういう状況」であるのか、という難しい問題も含んでいると思う。もしかしてそれは答を出すことができない問題なのかもしれない。

しかし少なくとも現場の医師の個人的価値観が、人の死をめぐる状況に決定的な影響を与えることは好ましくないだろうし、そういう意味では、国民全体を巻き込んでの、真剣で深い議論がもっと必要ではないだろうか。

そしてその議論の中に是非、医師の皆さんが積極的に参加して考え方を示してほしいと思う。

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